参考記事: ドイツ文字(フラクトゥーア)とドイツ語の筆記体
[数学記号のフラクトゥーアを手がきするときは、ここでしめした筆記体をつかうよりも、活字体をそのまま手がきしたほうがわかりやすいのではないかとおもいます。活字体のかきかたはつぎのページを参照してください。→「ドイツ文字(フラクトゥーア)のかきかた」]
[注意:安室奈美恵のタトゥーの書体はドイツ文字(フラクトゥーア)ではありません。くわしくは以下を参照]
ドイツ語では、ラテン文字(ローマン体)を Antiqua [アンティークヴァ]、ドイツ文字を Fraktur [フラクトゥーア/フラクトゥール]といいます。フラクトゥーアは日本では「ドイツ文字」のほかに「亀の甲文字」ともいわれています。
ドイツ文字、ラテン文字といっても、べつの文字というわけではなくて、ラテン文字(ローマ字)の書体のちがいです。その点からいえば、ドイツ書体、ラテン書体(ローマン書体)とでもいうほうが正確です。
フラクトゥーアはゴシック体の一種ですが、よくみかけるゴシック体とはちがうものです。一般的なゴシック体はブラックレターともいい、またテクストゥーラ(テクストゥーア/テクストゥール)ともいいます。ここでいうゴシック体とは、パソコンなどのフォントの書体でいうゴシックつまりサンセリフの書体のことではなくて、カリグラフィーなどでいう本来のゴシック体のことです。
ゴシック体で印刷された英語の画像が「シェークスピア、46、欽定訳」のページにあります。小文字ではフラクトゥーアとのちがいがわかりにくいかもしれませんが、大文字のちがいははっきりしています。ゴシック体の大文字には、かざりのほそい線がはいっています。
このちがいがわからないまま、このページにリンクしているものが「Yahoo!知恵袋」にあります。「安室ちゃんが入れているタトゥーのアルファベットの字体は何と言いますか?」と「英語の文字について質問です。画像に写されている英文字のデザイン?の名前は何というのですか?」に対する返答で、ベストアンサーになっていますが、どっちもまちがいです。「ゴシック体(ブラックレター/テクストゥーラ)」がこたえのはずです。どういう用語をつかうかはともかくとしても、問題の文字はこのページで説明しているフラクトゥーアとはちがうものです。そもそもドイツ語ではないのにドイツ文字ということに疑問をもたなかったのでしょうか。
これが安室奈美恵のタトゥーなのですが、ここには大文字で HARUTO という名まえがきざまれています(この写真では H はよくみえません)。この文字のゴシック体とフラクトゥーアをつぎにしめせばこうなります。

ゴシック体もフラクトゥーアも活字によってこまかいちがいがあるので、タトゥーの文字と ここにあげたゴシック体でちょっとしたちがいはありますが、基本的におなじ書体です。タトゥーの文字がフラクトゥーアでないことがはっきりわかるとおもいます。
また、もうひとつの「英語の文字について質問です。画像に写されている英文字のデザイン?の名前は何というのですか?」の写真の文字 Histori をゴシック体とフラクトゥーアでしめせばこうなります。

これをみても、問題の文字がフラクトゥーアではなくてゴシック体であることがわかるとおもいます。
第二次大戦後、ドイツ文字はほとんどつかわれなくなりました(戦前に出版された本などにはのこっていたり、かざりとしてつかわれることはあります)。したがって、ドイツ文字の筆記体も一般にはつかわれていませんが、筆記体のドイツ語をみると、ドイツ文字の筆記体がまじっていることがあります。
ラテン文字の筆記体は英語とだいたいおなじですが、いくつかちがうものがあります。ただし英語式にかいても問題はありません。『クラウン独和辞典 第3版』(三省堂)によると、「最近ドイツの小学校では従来のいわゆる『ラテン書体』に代わって, 渦巻・斜線など装飾性を少なくした新しい書体 die Vereinfachte Ausgangsschrift (簡易基礎書記体; VA) を教えている」とのことです。
ドイツ文字の筆記体にも簡易書体といえるものがあります。ジュターリーン書体(Sütterlinschrift [ズュターリーン・シュリフト])という簡略な垂直書体で、L. Sütterlin(1865-1917)が考案したものです。ドイツ書体(deutsche Schrift [ドイチェ・シュリフト])ともいいます(ラテン文字にもジュターリーン書体があるようです)。1915年に標準書体として採用されて、1940年まで学校でおしえられていました。
つぎに、ドイツ文字とその筆記体を、ラテン文字の筆記体とともにあげておきます。どちらも簡易書体ではない、ふるいほうの(従来の)書体です。したがってジュターリーン書体ではありません。オーストリアではドイツ文字の筆記体を Kurrentschrift [クレント・シュリフト]といいます。
ドイツ文字の大文字の I と J はもともとまったくおなじ文字ですが、筆記体はちがっています。フォントによっては J のほうがすこしながくなっているものもあります。
ドイツ文字の小文字の s はふたつあって、「みじかい s」は音節のおわりだけにつかわれます。それ以外は「ながい s」(ſ)になります。この区別があったのはドイツ語だけではなくて、ラテン文字でもふるくはこのふたつの s がありました(→「ステファヌス版プラトーン全集」)。
ドイツ文字にはいくつか結合文字があります。一般的なものはここにあげた sz(ſz) tz ch ck です。大文字はありません。sz (エス・ツェット)だけはラテン文字でもつかわれて ß という文字になります。もともとはこのとおり s(ſ)+z なのですが、ラテン文字でこの活字がないばあいは、かわりに ss をつかいます(スイスでは ß をつかわないで、すべて ss になります)。
以下、ドイツ文字の筆記体について説明します。
大文字の C と小文字の c の上のカギはあとからつけます。
大文字の E のまんなかのカギはあとからかきます。小文字の e はタテの棒のあいだを小文字の n よりせまくして、中間のつなぎの線は左の棒のまんなかより上からでます。このつなぎの線がないかきかたもあります。
大文字の F の上のカギとまんなかのヨコ棒はあとからつけます。小文字の f のカギもあとからかきます。
大文字の H には3とおりのかきかたがあります。
大文字の K の上のカギはあとからつけます。
小文字の p にはふたとおりのかきかたがあります。
小文字の「ながい s(ſ)」と「みじかい s」の区別は筆記体にもあります。
大文字の T の右肩は、むすび目のかわりに、とがらすこともあります。
小文字の u の上の半月形はあとからかきます。
大文字の X は2本のタテの線がはなれています。小文字の x にはふたとおりのかきかたがあります。
小文字の ü は半月形をつけません。
ß にはふたとおりのかきかたがあります。
ch と ck の c にはふつうカギをつけません。
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2007.11.22 kakikomi; 2012.02.12 kakitasi
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