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参考記事: 古文のわかちがき

古文のわかちがきといっても、基本的には現代文とおなじことです。単語式のばあい、たとえば名詞につく助詞はきりはなします。それでも、用言の活用が現代文とはちがいますし、助詞・助動詞も現代文にはないものがでてくるので、ここでは、現代文とはちがう点について説明したいとおもいます。

複合動詞のあつかいも現代文とはちがってきますが、それについては、「日本語の複合動詞」をみてください。

現代文とおなじで、単語式のわかちがきには国文法はあまり役にたちません。国文法の品詞分解は、単語よりこまかい単位にわけている部分がたくさんあります(国文法のおかしなところ」)。

古文についても、現代文のときとおなじように、服部四郎の「附属語と附属形式」(『言語学の方法』岩波書店)という論文をもとにしてかんがえてみることにして、まずは、そこにある原則をここでもあげておきます。

原則Ⅰ. 職能や語形変化の異なる色々の自立形式につくものは自由形式(すなわち、「附属語」)である。

原則Ⅱ. 二つの形式の間に別の単語が自由に現れる場合には、その各々は自由形式である。従って、問題の形式は附属語である。

まずは未然形接続のものからはじめます。未然形はそれだけでは文節をつくれません。かならず助詞・助動詞をともなってつかわれます。つまり未然形は自立形式ではなくて付属形式です。それだけでは単語ではありません。付属形式につくものは付属形式なので、未然形接続の助詞・助動詞も付属形式です。つまり動詞・形容詞の語尾のようなものです。未然形に助詞・助動詞がついたかたち全体で動詞・形容詞のひとつの変化形ということになります。

したがって、未然形接続の助詞「ば」「で」「ばや」「なむ」とか、助動詞「る」「らる」「ゆ」「らゆ」「す」「さす」「しむ」「む」「むず」「まし」「じ」「ず」「まほし」とかは、わかちがきとしては用言につなげます。助動詞「り」もサ変動詞の未然形につくので、おなじように用言につなげます。「まほし」のもともとのかたち「まくほし」は、未然形接続の「まく」をまえにつなげるのは当然ですが、「まく」と「ほし」については、「みまくのほしき」のように、あいだに「の」がはいったりするので、「原則Ⅱ」によって、このふたつは きりはなすことになります。それから、いわゆるク語法の「く」「らく」も、「く」は四段活用動詞とかの未然形に接続しますし、「らく」は上二段活用動詞の未然形に接続するので、まえにつなげます。

連用形接続の助動詞「つ」「ぬ」「たり」「き」「けり」「けむ」は、動詞にも形容詞にもつきます。そうすると、「原則Ⅰ」によって付属語ということになりそうですが、そうではありません。この手の助動詞は形容詞のカリ活用の連用形に接続します。たとえば、「うつくし」なら「うつくしかり」に接続します。このカリ活用の連用形というのは、未然形とおなじようにそれだけでは文節をつくれません。かならず助詞・助動詞をともなってつかわれます。つまり付属形式です。したがって、これに接続する助動詞も付属形式ということになって、わかちがきとしては用言につなげます。

連用形接続の「たし」は動詞と受身・使役の助動詞につきます。でも、受身・使役の助動詞といわれるものは、実際には動詞の変化形の一部なので、これに接続するばあいも、動詞に接続するといっていいでしょう。ですから、「原則Ⅰ」にはあてはまりません。したがって、「たし」は付属形式で、わかちがきとしては動詞につなげます。さらにいうなら、この「たし」も動詞の変化形の一部ということになります。これは、現代文の「たい」とおなじことですが、現代文のわかちがきで「たい」をきりはなすかんがえかたもあります。それにしたがうなら、「たし」もきりはなすことになるのでしょう。

このように、連用形といわれているものには、連用形中止法としてつかわれたりする自立形式の連用形と、いわゆる助詞・助動詞がつく付属形式のばあいがあります。付属形式のほうを連用形というのはよくないでしょう。

終止形接続の助動詞「らむ」「らし」「めり」「べし」「まじ」「なり」はどうでしょうか。この手の助動詞は用言の活用がラ変型のばあい連体形に接続するので、形容詞につくときはカリ活用の連体形に接続します。カリ活用の連体形は、連用形とちがって、連体修飾のつかいかたがあります。つまり、直接名詞を修飾することができます。したがって、これは付属形式ではなくて自由形式です。そうすると、終止形接続の助動詞は、動詞の終止形に接続したり、形容詞の連体形に接続したりするので、「原則Ⅰ」によって付属語ということになります。つまり、用言の変化形の一部ではなくて、本当の助動詞です。わかちがきとしては、まえにある用言から きりはなします。

断定の「なり」は連体形接続で、用言にも体言にもつくので、「原則Ⅰ」によって付属語ということになります。おなじように「ごとし」も用言にも体言にもつきますし、助詞の「の」「が」につづくこともあるので、付属語です。どっちも、わかちがきとしては、まえの単語からきりはなします。

已然形には、助詞「ば」「ど」「ども」がつきます。「ば」は未然形にもつくわけですが、うえにかいたとおり、未然形は付属形式なので「ば」も付属形式です。したがってこの「ば」がつく已然形も付属形式ということになります。連用形として一律にあつかわれているかたちにも、自立形式の連用形と、付属形式の“連用形”があるように、已然形のもこのふたつの区別があります。かかりむすびなどで已然形がいいきりのかたちにつかわれているときは、その已然形は自立形式です。でも、「ば」がつづくばあいは付属形式です。「ど」がつづくばあいも「ば」とおなじにあつかって、「ど」は用言につなげます。「ども」は「ど」+「も」なので、「ど」はまえの単語につなげて、「も」は「ど」からきりはなします。

「せば」の「せ」がなんであるかは説がわかれているみたいですが、形容詞のカリ活用の連用形に接続するので、付属形式です。うえにかいたように「ば」も付属形式なので、わかちがきとしては、ふたつあわせて まえにつなげてかきます。

わかちがき:分かち書き、分ち書き。

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2008.09.19 kakikomi; 2009.01.13 kakitasi

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