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参考記事: 古代ギリシャの韻律

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“音節”のながさ

古代ギリシャ・ローマの詩の韻律は、近代ヨーロッパの詩とはちがって、ながさのちがう音節のくみあわせからできています。脚韻(ライム)もふみません。アクセントの位置も関係ありません。ただし韻律をはかる“音節”というものは、現代の言語学がいう音節とはちがうもので、ギリシャ語の伝統的な文法によってつづりをわけたばあいの音節ともちがうものです。韻律をかんがえるばあいの“音節”は、音節というより、まえの母音のはじまりからつぎの母音のはじまりまでのながさのようなものです。その“音節”はながいものとみじかいものにわけられて、ながい“音節”はみじかい“音節”の2倍のながさとされています。みじかい“音節”が1モーラ(拍)で、ながい“音節”が2モーラです。たいてい、みじかい“音節”を「∪」、ながい“音節”を「─」であらわします。

“音節”のながさをきめるのは母音のながさとそれにつづく子音です。みじかい母音には「ᾰ, ε, ῐ, ο, ῠ」、ながい母音には、二重母音もふくめて、「ᾱ, η, ῑ, ῡ, ω, αι, ει, οι, υι, αυ, ευ, ου, ηυ, ᾳ, ῃ, ῳ」があります(みじかい母音とながい母音の記号は正式のつづりにはつきません)。

“音節”のながさはつぎのことからわかります。

1)母音がながければ、その“音節”はながい。
2)母音がみじかくても、子音がふたつ以上つづいていれば、その“音節”はながい。
3)母音がみじかくて、子音がひとつしかつづいていないか、つづく子音がないばあいは、その“音節”はみじかい。

1)のばあいを「もともと〔本来〕ながい」といって(「もともと」はギリシャ語で「φύσει〔physē〕[ピュセ~]」、ラテン語で「natura[ナートゥーラー]」、英語で「by nature」)、2)のばあいを「位置によってながい」といいます(「位置によって」はギリシャ語で「θέσει〔thesē〕[テセ~]」、ラテン語で「positione[ポスィティオーネ]」、英語で「by position」)。2)については例外があって、閉鎖音と流音のくみあわせがつづくばあいは、ながい音節のときとみじかい音節のときの両方があります(→「古典ギリシャ語の閉鎖音+流音」)。

「h」の音ではじまっている単語は、母音ではじまっているのとおなじあつかいになります。また、「θ」「φ」「χ」はローマ字にすると「th」「ph」「kh」というように2文字になってしまいますが、あくまでひとつの子音ですから、これがあっても子音がふたつつづいていることにはなりません。それから、「ζ」「ξ」「ψ」は[zd][ks][ps]」という二重子音なので、文字としてはひとつでも子音がふたつあることになります。

韻律のリズムをきめるのは“音節”のながさで、母音のながさではありません。また、「位置によってながい」“音節”にあるみじかい母音を韻律にあわせてのばしてよむというのはまちがいです。子音がふたつ以上つづいているために発音にそのぶん時間がかかって、そのために「位置によってながい」ということになるのですから、母音をのばす必要はありません。

“音節”と母音のながさについて古代ギリシャの文法家はおなじ「ながい」「みじかい」ということばをつかっていました。インドの用語だと、母音は「ながい」「みじかい」ですが、“音節”については「おもい」「かるい」といっているので、ギリシャ語・ラテン語の韻律についても、まちがいがないように、“音節”に関しては「おもい」「かるい」といっている学者もいます。

ギリシャのほうでむかしから母音も“音節”も「おもい」「かるい」といっていたために、そのうちこれが混同されるようなことがおこりました。これは、「位置によってながい」ということを、「“音節”が位置によってながい」ではなくて「母音が位置によってながくなる」というふうにまちがって解釈されるようになったということで、このまちがいは中世にはじまって、ルネッサンスにももちこされて、いまの本でもまだみかけることがあります。

さて、韻律をかんがえるばあい、単語のきれめは無視します。つまり、詩の1行全体をひとつの単語のようにみて、韻律をかんがえます。たとえば

ἦ τόνδε φράζεις; τοῦτον, ὅνπερ εἰσορᾷς.

ê tonde phrazdēs? tûton, homper ēsorâis.

エー・トンデ・プラズデ~ス。トゥートン、ホンペル・エ~ソラーイス。

これがそなたの言う男か。/まさしくごらんになっているこの男でございます。
(ソポクレース(1)『オイディプース〔オイディプス〕王』1120行、高津春繁訳、『ギリシア悲劇全集Ⅱ』人文書院)

という1行は、韻律をかんがえるときには、
ê-ton-de-phraz-dēs-tû-to-nhom-pe-rē-so-râis

エー・トン・デ・プラズ・デ~ス・トゥー・ト・ノン・ペ・レ~・ソ・ラーイス

というようにひとつづきになって、「─ ─ ∪ ─ ─ ─ ∪ ─ ∪ ─ ∪ ─」ということになります。要するに、単語のきれめは無視して、母音のあとに子音がいくつつづいているかをみていきます。
 (1) ソフォクレース、ソポクレス、ソフォクレス、とも。

つぎに、古代ギリシャの代表的な3つの韻律について説明します。ラテン語の詩についても基本的にはおなじです。


ヘクサメトロス

ヘクサメトロス(ἑξάμετρος〔hexametros〕)はおもに叙事詩の韻律としてしられています。「ヘクサメトロン(ἑξάμετρον〔hexametron〕)」ともいって、日本語では「六歩格」などと訳されています。ラテン語では「hexametrus[ヘクサメトルス]」「hexameter[ヘクサメテル]」、英語では「hexameter[ヘクサメター]」です。基本になるのは「─ ∪ ∪」(「タータタ」というリズム)という単位で、これをダクテュロス(δάκτυλος〔daktylos〕)といいます。ラテン語では「dactylus[ダクテュルス]」、英語では「dactyl[ダクティル]」です。このダクテュロスを5回くりかえして、最後に「─ ─」(「ターター」)をつけたものがヘクサメトロスの1行です。「─ ─」のことをスポンデイオス(σπονδεῖος〔spondēos〕[スポンデ~オス])といって、ラテン語では「spondeus[スポンデーウス]」、英語では「spondee[スポンディー]」です。5回くりかえすダクテュロス(─ ∪ ∪)はこのスポンデイオス(─ ─)におきかえることもできますが、5番目の部分ではスポンデイオスはまれで、ホメーロス〔ホメロス〕では全体の5パーセントほどです。それから、行の最後の“音節”はみじかいものもゆるされています。行の最後はみじかい“音節”でもながいものとしてあつかわれる、ということもできます。このことはたいていの韻律にあてはまります。以上をまとめると、つぎのようになります。タテの線は韻律の構成をあらわしているだけで、単語や文章のきれめとは関係ありません。

hexametros

つぎに叙事詩の例をあげます。ホメーロスの『オデュッセイア』の最初の2行です。
ἄνδρα μοι ἔννεπε, Μοῦσα, πολύτροπον, ὃς μάλα πολλὰ
πλάγχθη, ἐπεὶ Τροίης ἱερὸν πτολίεθρον ἔπερσε.

andra moi ennepe, Mûsa, polytropon, hos mala polla
plankhthê, epē Troiês hieron ptoliethron eperse.

an-dra-mo|ĭen-ne-pe|mû-sa-po|lyt-ro-po|nhos-ma-la|pol-la
plan-khthe-e|pē-troi|ê-shi-e|rom-pto-li|eth-ro-ne|per-se

アン・ドラ・モ|イェン・ネ・ペ|ムー・サ・ポ|リュト・ロ・ポ|ノス・マ・ラ|ポッ・ラ
プラン・クテ・エ|ペ~・トロイ|エー・スィ・エ|ロン・プト・リ|エト・ロ・ネ|ペル・セ

─ ∪ ∪|─ ∪ ∪|─ ∪ ∪|─ ∪ ∪|─ ∪ ∪|─ ∪
─ ∪ ∪|─ ─|─ ∪ ∪|─ ∪ ∪|─ ∪ ∪|─ ∪

あの男の話をしてくれ、詩の女神[ムーサ]よ、術策に富み、トロイアの聖[とうと]い城市を
攻め陥してから、ずいぶん諸方を彷徨[さまよ]って来た男のことを。
(呉茂一訳、もと岩波文庫、いまは平凡社ライブラリー。ふりがなは[ ]にいれた)

1行目の3音節目と2行目の2音節目の母音はもともとながいのに、つぎに母音がつづいているためにみじかくなっています。これは叙事詩によくある特徴です。


エレゲイオン

エレゲイオン(ἐλεγεῖον〔elegēon〕[エレゲ~オン])は2行からなる形式で、2行だけのみじかい詩もあれば、この2行をくりかえすながいものもあります。この形式の詩をエレゲイア(ἐλεγεῖα〔elegēa〕[エレゲ~ア])といって、ラテン語では「elegia[エレギーア]」「elegi[エレギー]」などといいます。英語ではこれが「elegy[エレジー]」ということばになりましたが、古代のこの形式のことは「elegiac couplet [エレジャイアック・カプレット]」といいます。1行目は上で説明したヘクサメトロスで、2行目はペンタメトロス(πεντάμετρος〔pentametros〕)です。ペンタメトロスというのは、ダクテュロス(─ ∪ ∪)ふたつにながい“音節”(─)をひとつつづけたものを2回くりかえしたものです。前半のふたつのダクテュロスはスポンデイオス(─ ─)におきかえることもできます。行の最後の“音節”がみじかくてもいいのは、ヘクサメトロスとおなじです。これをまとめると、つぎのようになります。いまではエレゲイオンの2行目は字をさげてかく習慣があります。また、タテ2本線のところには単語のきれめがきます(文章のくぎりではありません)。

elegeion

つぎにエレゲイアの例をあげます。テルモピュライのたたかい(紀元前480年)でたおれたスパルタ軍兵士の墓碑銘です。
ὦ, ξεῖν᾿, ἀγγέλλειν Λακεδαιμονίοις ὅτι τῇδε
 κείμεθα τοῖς κείνων ῥήμασι πειθόμενοι.

ô xēn', angellēn lakedaimoniois hoti têide
 kēmetha tois kēnôn rhêmasi pēthomenoi.

ôk-sē|nan-gel|lēn-la-ke|dai-mo-ni|oi-sho-ti|têi-de
 kē-me-tha|tois-kē|nôn∥rhê-ma-si|pē-tho-me|noi

オーク・セ~|ナン・ゲッ|レ~ン・ラ・ケ|ダイ・モ・ニ|オイ・ソ・ティ|テーイ・デ
 ケ~・メ・タ|トイス・ケ~|ノーン ∥レー・マ・スィ|ペ~・ト・メ|ノイ

─ ─|─ ─|─ ∪ ∪|─ ∪ ∪|─ ∪ ∪|─ ∪
 ─ ∪ ∪|─ ─|─ ∥ ─ ∪ ∪|─ ∪ ∪|─

よその ひとよ、スパルタじんに つたえて くれ、ここに
 その ことばに したがって、われらが よこたわって いると。
(シモーニデース〔シモニデス〕 92D、『ギリシャ詞華集』7.249)

ἀγγέλλειν」が「ἄγγειλον〔angēlon〕[アンゲ~ロン]」になっているものもありますが、韻律としてはおなじことです。


イアンボス・トリメトロス

イアンボス・トリメトロス(ἴαμβος τρίμετρος 〔iambos trimetros〕)は、イアンボス(「∪ ─」。ラテン語で「iambus[イアンブス]」、英語で「iamb(us)[アイアンブ(アイアンバス)]」)をふたつつなげた「∪ ─ ∪ ─」が基本単位で、最初のみじかい“音節”(∪)のところはながい“音節”(─)もゆるされるので、「─ ─ ∪ ─」のばあいもあります。これを3回くりかえして1行になります。ラテン語では「iambicus senarius[イアンビクス・セーナーリウス]」「iambicus trimeter[イアンビクス・トリメテル]」、英語では「iambic trimeter[アイアンビック・トリメター]」といいます。ヘクサメトロスとかとおなじように、行の最後の“音節”はみじかくてもかまいません。これをまとめると、つぎのようになります。

trimetros

これはあくまで基本形で、ジャンルによってこまかいちがいがありますが、ながい“音節”(─)をみじかい“音節”ふたつ(∪ ∪)でおきかえることもよくあります。アリストテレース〔アリストテレス〕の『詩学』(1449a24-26)に、この韻律はふだんのはなしことばのリズムにいちばんちかい、とかいてあるように、劇の対話の部分などによくつかわれます。つぎにソポクレースの『オイディプース王』の最初の3行をこの韻律の例としてあげます。
ὦ τέκνα Κάδμου τοῦ πάλαι νέα τροφή,
τίνς ποθ᾿ ἕδρας τάσδε μοι θοάζετε
ἱκτηρίοις κλάδοισιν ἐξεστεμμένοι;

ô tekna Kadmû tû palai neâ trophê,
tinas poth' hedrâs tâzde moi thoazdete
hiktêriois kladoisin exestemmenoi?

ô-tek-na-kad|mû-tû-pa-lai|ne-â-tro-phê
ti-nas-po-thed|râs-tâz-de-moi|tho-az-de-te
hik-tê-ri-ois|kla-doi-si-nek|ses-tem-me-noi

オー・テク・ナ・カド|ムー・トゥー・パ・ライ|ネ・アー・トロ・ペー
ティ・ナス・ポ・テド|ラース・ターズ・デ・モイ|ト・アズ・デ・テ
ヒク・テー・リ・オイス|クラ・ドイ・スィ・ネク|セス・テン・メ・ノイ

─ ─ ∪ ─|─ ─ ∪ ─|∪ ─ ∪ ─
∪ ─ ∪ ─|─ ─ ∪ ─|∪ ─ ∪ ∪
─ ─ ∪ ─|∪ ─ ∪ ─|─ ─ ∪ ─

いにしえのカドモスが末の子らよ、
かざしのついた嘆願の小枝とともに、
そなたたちはわたしになんの願いがあって、そこに坐っているのか。
(高津春繁訳、『ギリシア悲劇全集Ⅱ』人文書院)

“音節”のながさの説明のところで例文としてあげたのもおなじ韻律です。


アナクレオーン風

「アナクレオーン風」(ギリシャ語で「Ἀνακρεόντειος〔Anakreontēos〕[アナクレオンテ~オス])」、ラテン語で「Anacreonteus[アナクレオンテーウス]」、英語で「Anacreontic」)といわれる韻律の基本的な形式は、

anakreonteios

というもので、行の最後の“音節”はみじかくてもかまいません。これは「∪ ∪ ─ ─」をふたつつなげた「∪ ∪ ─ ─|∪ ∪ ─ ─」(イオーニアー式二歩格、ionic dimeter)のまんなかのふたつの音節をいれかえたかたちになっています。詩人のアナクレオーン〔アナクレオン〕(紀元前570年ごろ~5世紀なかば)にちなんでつけられた名まえで、アナクレオーンがよくつかった韻律がもとになっています。この韻律をつかった詩を「アナクレオーン風歌謡/アナクレオンテイア〔アナクレオンテア〕」(ギリシャ語で「Ἀνακρεόντεια〔Anakreontēa〕[アナクレオンテ~ア])」、ラテン語で「Anacreontea[アナクレオンテーア]」)といいますが、つかわれる韻律にはいくつかバリエーションがあって、基本形のほかに、イオーニアー式二歩格や、最初のみじかい2“音節”をひとつにしてながい“音節”にしたものや、最初のみじかい“音節”をなくしたもの(ἡμίαμβος〔hêmiambos〕[ヘーミアンボス])などがあります。以上の代表的な形式をまとめればこうなります。
anakreonteia

つぎにアナクレオーン風歌謡の例をあげます。
χαλεπὸν τὸ μὴ φιλῆσαι,
χαλεπὸν δὲ καὶ φιλῆσαι·
χαλεπώτερον δὲ πάντων
ἀποτυγχάνειν φιλοῦντα.

khalepon to mê philêsai,
khalepon de kai philêsai;
khalepôteron de pantôn
apotynkhanēn philûnta.

kha-le-pon-to-mê-phi-lê-sai
kha-le-pon-de-kai-phi-lê-sai
kha-le-pô-te-ron-de-pan-tôn
a-po-tyn-kha-nēn-phi-lûn-ta

カ・レ・ポン・ト・メー・ピ・レー・サイ
カ・レ・ポン・デ・カイ・ピ・レー・サイ
カ・レ・ポー・テ・ロン・デ・パン・トーン
ア・ポ・テュン・カ・ネ~ン・ピ・ルーン・タ

∪ ∪ ─ ∪ ─ ∪ ─ ─
∪ ∪ ─ ∪ ─ ∪ ─ ─
∪ ∪ ─ ∪ ─ ∪ ─ ─
∪ ∪ ─ ∪ ─ ∪ ─ ∪

こいを しないのは つらいもの、
こいを するのも つらいもの。
それより もっと つらいのは
うまく いかない かたおもい。

これは基本の韻律だけのものですが、ほかの韻律もつかったアナクレオーン風歌謡の例は、「アナクレオーン風歌謡」にあります。


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