« 仏教は霊魂を否定してるのか | トップページ | ソーセージと双生児と早生児 »

ながい母音と「ン」

古代ギリシャ・ローマの名まえをカタカナがきするばあい、「プラトーン」とか「キケロー」ってやると「間のびした感じ」になるみたいなことがかいてある本がある。でもこんなのは、もともと「プラトン」とか「キケロ」っていうのになれてるから、そういう感じがするだけのことだろう。

最後が「ー」でおわる外国人の名まえはたくさんある。「アーサー」とか「マーラー」とか「モンロー」とか「ルソー」とか…。そういうのが「間のびした感じ」だとはおもえないんだけど。それとか、ローマ人の「カトー」って名まえはどうなんだろう。カタカナにしたこの名まえを発音すれば、日本語の「加藤」って名まえとまったくおんなじだけど、「間のびした感じ」かなあ。

ひとの名まえでながい母音がおおいものは日本語になじまない、みたいなこともかいてあるんだけど、ふつうの日本語にながい母音はけっこうでてくる。漢字と かなづかいでかくされてるだけだ。たとえば「こうたろう」(浩太郎・光太郎・孝太朗……)つまり「コータロー」ならながい母音がふたつあるけど、この名まえが日本語になじまないってことはないだろう。「間のびした感じ」だともおもえない。

要するに、なれの問題だ。ふだんしたしんでるのとちがうからヘンな感じがするだけで、日本語としてどうのこうのっていうのとはべつのことだ。それに、英語の名まえだったらわざわざながい母音をなくすなんてことはしてない。

それから、その本には「ホメーロス」「ホメロス」より「ホーマー」がふつうだってかいてあるけど、それはちがうだろ。「シーザー」ならまだわかるけど、「ホーマー」はもうふつうじゃない。それに、「ー」がふたつある「ホーマー」は「間のびした感じ」だとはおもわないわけ?

そいでもって、この本も「ギリシア」なんだよな(「ギリシャ」のかなづかい」)。「ギリシア」なんてかいてるひとがいってることだから…、なんておもわないでもない。

「ーン」でおわる名まえだって現にいろいろある。「リンカーン」「オードリー・ヘップバーン」「オリバー・カーン」「アヴリル・ラヴィーン」「ドナルド・キーン」「ジェームズ・ディーン」「トマス・クーン」「パット・ブーン」「ジェーン・フォンダ」「シャーリー・マクレーン」「カルロス・ゴーン」「ショーン・コネリー」「メンデルスゾーン」「シャロン・ストーン」「シルベスター・スタローン」……、「エスファハーン」「ランパーン」「オマーン」「ウィーン」「ランプーン」「カメルーン」「バーレーン」「イエローストーン」「ビッグホーン」……。

名まえじゃない外来語にもたくさんある。「ターン」「パターン」「クリーン」「グリーン」「スクリーン」「シーン」「ティーン」「ハネムーン」「アドバルーン」「プルーン」「ハリケーン」「キャンペーン」「レーン」「クレーン」「コーン」「スコーン」「ゾーン」「トーン」「ローン」「クローン」……。

そういえば「プラトーン」って映画もあったっけ。これなんか英語にもっとちかづければ「プラトゥーン」になるはずだけど、いいやすいように「トゥ」はさけたんだろう。だけど「ーン」は問題にはならなかったわけだ。
映画のタイトルだと、ほかに「Mr. ビーン」「市民ケーン」「G.I.ジェーン」「ボーン・アイデンティティー」なんていうのもある。

言語学かなんかのほうで「ーン」のことを論じた論文があって、それによると、外来語をとりいれるとき、こういう音のつながりはさけるってことらしい。アイスクリームはむかしは「アイスクリン」っていってて「アイスクリーン」じゃなかったっていう例をあげてるんだけど、なんか都合のいいものだけとりあげてないかな。上にあげたような外来語はどうなっちゃうんだろ。

それに、「アイスクリン」だったのにはべつの理由もかんがえられる。外来語をとりいれるとき、いまはつづりをみてカタカナにうつすのがふつうだけど、むかしはきいたまんまをかくことがおおかった。「アメリカン」じゃなくて「メリケン」とか。だから「アイスクリン」っていうのもきいた感じでうつしただけかもしれない。最後が「ム」じゃなくて「ン」になってるのもそのせいだろう。そのことをかんがえれば、「ーン」をさけた例として「アイスクリン」をもちだすのはどうなんだろう。

それから、「ーン」だと3モーラ(3拍)のながさの音節になるからダメなんだっていってるけど、それも疑問におもう。このひとは「ン」がそれだけじゃひとつの音節にならないってきめつけてるみたいだけど、そうかな。音節になるっていってる学者だってちゃんといるし、音節になるばあいとならないばあいがあるっていうのがほんとのとこだろう。「ン」があるとアクセントがずれる現象を音節ってことで説明したいもんだから、そんなこといってるだけなんじゃないの? 「ン」もひとつの音節になるんなら「ーン」は3モーラの音節ってことにはならないから問題はないし、実際にそういう外来語がけっこうあるのに、それを説明できてない。

「ン」がひとつの音節になるっていうのは、うたをみてもわかる。「ン」だけで独立した音符をあててるんだから。最近の曲だとそうじゃないのもあるけど、それは英語のマネをしてるだけだろう。…そうか、この論文でも、このリクツなら英語といっしょに説明できるみたいなことがかいてあったっけ。この学者も英語のマネをしたいのかな。

関連記事
 ・ギリシャ語・ラテン語のながい母音のあつかい
 ・「ギリシャ」のかなづかい

2004.11.18 kakikomi

|

« 仏教は霊魂を否定してるのか | トップページ | ソーセージと双生児と早生児 »

コメント

パーソナル・コンピュータを略して
パソコンとなりました。
一週間(?)だけ、新聞の広告に
パーコンという表記があったように記憶しています。

投稿: 吉川武時 | 2006.10.01 15:30

パソコンっていういいかたがふつうになっているので、パーコンなんていうとヘンですよねえ。まあ、なれの問題でしょうけど。

パーコン式の略しかたといえば、ゲーム・センターのことをゲーセンっていうのがあるわけで、パーソナル・コンピューターがパソコンになったのはなぜなんでしょうねえ。コンピューターをコンピュータとするみたいに語尾の「ー」を略すっていう工学業界用語のやりかたが語尾でもないところにまぎれこんだなんてことはないとはおもいますが。

投稿: yumiya | 2006.10.01 23:20

この記事へのコメントは終了しました。

« 仏教は霊魂を否定してるのか | トップページ | ソーセージと双生児と早生児 »