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ギリシャ語のネコ

古代のギリシャ語でネコのことは αἴλουροςǎiluːros アイルーロス]」っていう。αἰέλουρος [aijéluːros アイエルーロス]」ともいって、αἰόλος [aijólos アイヨロス](すばやい)と οὐρά [uːrǎː ウーラー](しっぽ)の複合語だとかいわれてたりする。ただしそれは民間語源説だともいうし、前半部分はもともと awisel- で、イタチって意味の英語の weasel [ウィーゼル]、ドイツ語の Wiesel [ヴィーゼル]とおんなじ語源だって説もある。男性名詞としてならオスネコ、女性名詞としてはメスネコだけど、αἰλουρίς [ailuːrís アイルーリス]っていう女性形もある。

もうひとつ γαλῆɡalɛ̂ː ガレー]/γαλέηɡaléɛː ガレエー]っていうのもある。これはネコだけじゃなくて、イタチとかフェレット(ケナガイタチ)とかテンのことをさすことばでもあるんだけど、イタチがいちばんふつうなんだろうな。αἴλουρος の語源がイタチに関係あるっていう説があるみたいに、ネコとイタチはあんまり区別されてなかったのかもしれない。ネコはギリシャにはエジプトからはいったらしいけど。

時代がくだると、オスネコの κάττος [káttos カットス]/κάττης [káttɛːs カッテース]、メスネコの κάττα [kátta カッタ]っていうのもでてくる。これはラテン語の cattus [カットゥス](catus [カトゥス])、catta [カッタ]からきてるんだろう。このラテン語はあたらしいことばで、ラテン語のネコっていうとまずは feles [フェーレース]/felis [フェーリス]っていうのがある。それからラテン語にはギリシャ語からはいった aelurus [アエルールス]っていうのもある。

現代語だと、オスネコは γάτος [ˈɣatos ガートス]、メスネコは γάτα [ˈɣata ガータ]で、このもとはイタリア語の gatto [ガット](オスネコ)、gatta [ガッタ](メスネコ)だ。それから子ネコだと γατί [ɣaˈti ガティ]、γατάκι [ɣaˈtakʲi ガターキ]、γατούρα [ɣaˈtura ガトゥーラ]なんていうのがある。

古代の αἴλουρος も純正語(文語文みたいなもの)としてのこってるけど、発音はかわって αίλουρος [ˈeluros エールロス]になった。ネコって意味もあるけど、ネコ科の動物をさしたり、ヤマネコとかヒョウの意味がある。それから、こっちもやっぱり発音がかわってるけど γαλή [ɣaˈli ガリ]ものこってて、これはネコっていう意味だ。

オオヤマネコは英語で lynx [リンクス]だけど、これはもともと古代ギリシャ語の λύγξ [lýŋks リュンクス]で、現代ギリシャ語にものこってる。発音とかたちはちょっとかわって、純正語だと λύγξ [ˈliŋks リンクス]、民衆語(口語文)だと λύγκας [ˈliŋɡas リンガス]。この λύγξ ってことばは英語の light (ひかり)とも関連があって、オオヤマネコの目がかがやいてるとこからきてるらしい。

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2004.12.30 kakikomi; 2017.05.17 kakinaosi

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コメント

サンスクリット語で「猫」は"maarjaara",
an animal which cleanses itselfということですから、習性通りのネーミングですね。
因みにうちのシャム猫JIIRAのフルネームは
ジイラ・マールジャーリー。
雌ですから語尾を女性形にしました。
MAUKIEみたいにからかったりすると
ガブリと噛みます(誇り高い猫です!)
従ってミドルネームはガブリエル。
ジイラ・ガブリエル・マールジャーリー、
飼い主より立派そうです。

投稿: jiira | 2006.06.27 23:45

JIIRA がサンスクリット語の「jīra」だとすれば、ギリシャ語の「ailûros」の民間語源説に通じるなまえですねえ。それとも「剣」「クミン・シード」「原子」のほうでしょうか(といってもこのばあいは男性名詞ですが)。…サンスクリット語とはぜんぜん関係ないのかもしれませんけど。

「mārjāra」といえば、ヒンドゥー教のテンガライ派の「mārjāra-kiśora-nyāya」(ネコの子流)なんていう他力信仰がありますね。ネコの子というと、宅急便のマークにもなってるぐらいで、親ネコがくわえてはこぶというイメージになるんでしょうね、インドでも、どこでも。

投稿: yumiya | 2006.06.28 19:29

わざわざご訪問頂き有難うございました。
当方ブログに書きましたが、ご明察の通り、猫の名「JIIRA」は確かにサンスクリットで、swift,active,urging,stimuratingの意を借りました。
「sword,cumin-seed,atom」を引かれたYUMIYAさんはAPTEの辞書をお使いですか。
ギリシャ語の「猫」が「aiolos(素早い)」という意味を含む(但し民間語説ですね)というご指摘は興味深く拝聴。うちのジイラは素早い点でギリシャの猫につながったか…。
(もう12歳で少し落ち着きましたが)

ヴァダガライ派の「猿の道」に対するテンガライ派の「猫の道」ですね。猫科の指は掴むようには出来てないんですよね。それでもって「救いに対して受身」と言われても…ね。

ともかく印度学の領域にまで博識なYUMIYAさんに畏れ入ります!

投稿: jiira | 2006.07.02 03:59

サンスクリット語の辞書のことですが、「月刊 言語」(大修館書店)のふるいバックナンバーを何冊かあつめたことがあるんですけど、そのなかに「外国語のすすめ」という特集があります。そのサンスクリット語のところに、辞書は『梵和大辞典』では十分ではない、1冊だけかうなら Monier-Williams のほうが経済的、Apte は文学をよむのに有用、携帯にも便利、とかいてありました。そこで、まずは Monier-Williams をかったのですが(いまなら online でつかえますが…)、結局はこの3冊ともそろえることになりました。

投稿: yumiya | 2006.07.02 15:01

大修館の「月刊言語」ですか、懐かしい!
確かに「外国語のすすめ」の特集は覚えてます。
私も他の特殊言語の辞書などチェックしました。

私が最初に使用したサンスクリット辞書はマクドネルのものです。モニエルの辞書はまだ分厚い装丁でして、マクドネルでは載ってない用例に、真夜中に下宿から研究室まで小一時間歩いて調べに行ったことがあります。確かにモニエル等複数の辞書をネットでひけるようになるなど隔世の感ですね。
後に「梵和…」が16分冊で出版され始めた時、漢訳が対照されているというので買い求めて一冊に製本したのですが、途中で、これはマクドネルの辞書の和訳に過ぎないことに気付き、ナァ~ンダと思ったものでした。(この体験もあって以後、和訳には期待するなという不遜な姿勢…)

ベートリンクの7巻本の辞書は「名著普及会」が12万円で復刻してくれたので、やっと給料とれる身になって入手。
「自分で買えるんだ…」という、これは大人買いってやつですね。今は来たるべき大地震に備えて書架の最下段で踏ん張ってもらっているのがメインの役割ですが…。

投稿: JIIRA | 2006.07.02 17:35

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