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ブッダとウォータン

シュタイナーがブッダとウォータンを関連づけてるのをよんで、はじめはちょっと意外におもった。ゲルマン神話の最高神ウォータン(北欧神話のオーディン)とブッダになんの関係があるっていうんだろ。

ウォータン(Wotan)っていえば、ワーグナーの《ニーベルングの指輪》をしってるひとなら したしみがあるだろう。おなじワーグナーの《ローエングリーン》にはウォーダン(Wodan)ってかたちででてくる。ドイツ語としてどっちがふつうだかわかんないけど、《ニーベルングの指輪》の影響でウォータンのほうが一般的になってるなんてこともあるかもしれない。《ローエングリーン》のほうじゃウォーダンは名まえがでてくるだけだから。

ふつう、ウォータン(ウォーダン)っていう名まえは、ドイツ語の Wut [ヴート](はげしいいかり)、wüten [ヴューテン](いかりくるう)から説明されてて、これは英語でもおんなじだ。英語だと、Woden/Wodan っていうけど、wood (いかりくるった、あらあらしい)から説明されてる。

シュタイナーは、ウォータンって名まえはブッダ(Buddha)ってことばが変化したものだっていってる。簡単にいうと、ブッダの前世はウォータンだったっていうんだけど、一方では、ウォータンって名まえは wüten からきてるっていう一般的な説明をしてるばあいもある。どういうことだ? このふたつの説明をむすびつけることなんてできるのかな。

で、とりあえず、こうかんがえればいいかもしれない。ウォータンって名まえはブッダが変化したものだけど、このかたちになるには Wut、wüten、wood の影響があった。ふつうサンスクリット語の b とゲルマン語の w は対応してないから、Buddha と Wotan/Wodan/Woden はそのまんまだと語源が一致するとはいえない。でも、Wut、wüten、wood の影響があったか、まじったのか、そのせいで Wotan/Wodan/Woden ってかたちになったっていうんなら、ありえないことじゃないかもしれない。

ところで、ブッダとウォータンを関連づけるのはなにもシュタイナーの独創ってわけじゃない。これについては19世紀ごろの学者がいろいろいってたらしくて(前世とはいってないにしても)、ショーペンハウアーの『余録と補遺』にもこのことがかいてある(『ショーペンハウアー全集13 哲学小品集IV』白水社。表記を一部かえた)。

(ラングレス『インドの記念物』第二巻によれば)水曜日(Wodans-day)は水星にもブッダにも神聖な日というが、これはブッダ Buddha がヴォーダン Wodan と同一であることを大いに証している。〔…略…〕水星(メルクール)はブッダにとって神聖で、あるていどブッダと同一視されるのであり、水曜日はブッダの日なのである。ところでメルクールはマイアの息子であり、ブッダはマーヤー Maja(摩耶)夫人の息子である。これは偶然ではありえない!

当時は、インドのことばとヨーロッパのことばの関係が注目されはじめたころだから、こういうこともいろいろいわれてたんだろうけど、いまじゃ、ものめずらしくなくなったのか、ことばがにてるってだけじゃ問題にはならなくなったのかもしれない。

もっとも、シュタイナーのたちばからすれば、ことばがにてるからどうのこうのっていうんじゃなくて、関連があるからこそ結果としてことばもにてるんだってことになるんだろうけど。

ところで、ショーペンハウアーの文章には水星(メルクール)のことがでてくる。「メルクール(Merkur)」ってドイツ語のもとはラテン語の「メルクリウス(Mercurius)」で、ローマの商業・雄弁・ぬすみ・道・旅びとの神のことだけど(ギリシャのヘルメースにあたる)、水星のことでもある(西洋の惑星の名まえ」)。英語の水曜日(Wednesday)は「ウォーダンの日」ってことで、「水星(メルクリウス)の日」っていうのをこういうふうに訳してとりいれた(曜日の由来(6) 水曜日」)。一方で、インドのサンスクリット語じゃ水曜日は बुधवार budhavāra [ブダヴァーラ]っていって、これは「水星(ブダ)の日」ってことだけど、この「ブダ(बुध budha)」が「ブッダ(बुद्ध buddha)」とにてる。っていうか、おんなじ語根からできてる関連のあることばだ(サンスクリット語の惑星と曜日の名まえと日本語の曜日」)。こういうことがあって、水曜日とか水星の関連で、ブッダとウォータンの関係がうんぬんされることにもなる。

ブッダ:仏陀[ぶつだ]。 ウォータン:ヴォータン。 ワーグナー:ヴァーグナー。 ニーベルングの指輪:ニーベルングの指環。 ローエングリーン:ローエングリン。 ウォーダン:ヴォーダン。 ヘルメース:ヘルメス。

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2005.01.21 kakikomi; 2009.03.09 kakikae

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