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ヘーラクレイトスの「ビオス」のゴロあわせ

古代ギリシャの哲学者ヘーラクレイトスの断片(そもそも断片しかのこってない)に、ふたつの「ビオス」ってことばのゴロあわせをつかった文章がある。ギリシャ語のビオスはアクセントのちがいによって、βίος [bíos オス](アンダーラインのとこをたかくよむ)なら「いのち」、βιός [biós ビス]なら「弓」って意味なんだけど、これをつかってこういってる。

τῷ οὖν τόξῳ ὄνομα βίος, ἔργον δὲ θάνατος.

されば、弓にはビオスという名があるが、なしとげることは死である。
(『ソクラテス以前哲学者断片集 第Ⅰ分冊』岩波書店)

原文だと「弓」は τόξον [tókson トクソン](τόξῳ [tóksɔːi トクソーイ]は与格で「弓に」)で、これがふつうのことばだけど、古語っていうか雅語っていうか、叙事詩なんかによくでてくる「ビオス」も「弓」。だから弓の名まえは「ビオス」っていってるんだけど、そこにもうひとつの「ビオス」(いのち)をかけてて、「いのち」って名まえの道具なのに、やることは ころすことだってこと。

このへんのとこを、注なしでわかるように工夫した訳もある。

弓(ビオス)の名は生(ビオス)、だがその働きは死だ。
(廣川洋一『ソクラテス以前の哲学者』講談社)

原文だと「弓」は、うえにかいたみたいに「ビオス」じゃなくて「トクソン」なんだけど、ここではそれをわざわざ「ビオス」にしてるわけで、なるほどこういうやりかたもあるんだな。

ところで、古代には小文字はなくて、アクセント記号もあとからつくられたものだから、ヘーラクレイトスはアクセント記号なしの大文字でかいたんだろう。となると、この「ビオス」はもともとアクセントがどっちかわかんない状態でのこされたってことになるのかも。いまのテキストだとはっきり βίος (いのち)になってるけど……。もっとも、この断片は中世の『語源辞典』の βίος (いのち)の項目にあるから、そこではいまのテキストどおりってことか。

ヘーラクレイトス:ヘラクレイトス。

2005.04.07 kakikomi; 2010.09.12 kakinaosi

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