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ギリシャ語のコレ・ソレ・アレ

古代ギリシャ語には、近代ヨーロッパ語とちがって、日本語と共通点がいろいろある(古典ギリシャ語と日本語のにてるところ」)けど、指示代名詞についてもそれがいえる。日本語なら、これ・それ・あれ、この・その・あの、っていうふうに3つにわかれてるのに、英語なんかだと this that のふたつしかない。でも、古代ギリシャ語は(ラテン語も)日本語みたいに3つある。

もちろん外国語だから完全に一致するわけはないけど、まずは日本語の3つの区別にあてはめればわかりやすい。ὅδε [hóde ホデ]が「これ、この」、οὗτος [hûːtos フートス]が「それ、その」、ἐκεῖνος [ekêːnos エケ~ノス]が「あれ、あの」。これが、英語とかでかいてある古代ギリシャ語の参考書となると、この3つの説明にちょっと苦労してる感じがする。

この日本語とにてる点だけど、まえにかいた例でも、現代ギリシャ語になると近代ヨーロッパ語とおんなじになって日本語とはちがうことになっちゃってるっていうのがあった。この指示代名詞のばあいもやっぱりそうで、現代語だと3つの区別はとりあえずなくなってる。この変化はコイネー(新約聖書のギリシャ語)にすでにあらわれてて、現代でも3種類のことばがあるにはあるんだけど、区別があいまいになった。

古代の οὗτος (それ、その)からきてる τούτος [ˈtutos トゥートス]が「これ、この」で、もともとべつの種類の代名詞だった αυτός [afˈtos アフトス]が「それ、その」、それに古代以来の εκείνος [eˈkʲinos エキーノス]がそのまんま「あれ、あの」、そういうふうに一応いえないこともないんだけど、実際には τούτος (これ、この)は αυτός (それ、その)でいいかえることがおおくて、αυτός が英語の this みたいなものになってる。で、εκείνος が that だから、結局いまは英語みたいなふたつの区別になっちゃってる。

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 ・古典ギリシャ語と日本語のにてるところ

2005.04.17 kakikomi; 2017.05.17 kakitasi

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コメント

どうも、こんにちわ。
おもうんですけどitもしくはitsは人称代名詞の様な
扱いですけど、指示代名詞に近いんじゃないでしょうか?
意味も既出の物を指すという点で近いですし。
そうすると3つに分かれている様な。
しかし、今回気になったのは代名詞以上に冠詞。
指示代名詞の意味が弱まったのが冠詞らしいけど、
不定冠詞まで作る必要性が感じられない。
なんでできたんだろう?

ちなみに今度から学校の授業で「古典ギリシャ語」を習う事にしました。
文法はまだ全部把握し切れてないのに
気合いでつっこむ事にしました。
それで今辞書を探しているのですが
(現代のは本場のを持っているのですが、古典のは)
お薦めの本があったら教えてください。
お願いします。
それでは

投稿: Dice+K | 2005.04.18 02:07

どうも、おひさしぶりです。
It のはなしは、そもそも人称代名詞と指示代名詞のあつかう範囲がかさなってるところがあるからじゃないでしょうか。It には形式主語だの非人称主語だのいろんなつかいかたがありますけど、人称代名詞と指示代名詞とのおおきなちがいは、指示代名詞の「言語外照応的」といわれる用法にあるとおもいます。つまり、人称代名詞は、文章のなかでいわれている単語とかのかわりをするものなのに対して、指示代名詞は、文章のなかのものではない「そとの世界」(こころにおもっているものもふくめて)のものをさすことができるという点です。ある辞書の指示代名詞の説明にはこうありました。「談話の現場やテクスト内で状況に依存しながら対象をその都度指し示す働きをする代名詞。人称代名詞と違って、場面への依存度が強い」。

それから、this と that は、もともと空間的にちかい・とおいを区別するものですが、it はこの区別の体系にふくまれないとおもいます。It はちかいとか とおいとかと関係ないんじゃないでしょうか。ですから、日本語の指示詞が「はなしてに ちかい」「ききてに ちかい」「どちらからも とおい」というように3つにわかれているのに対して、英語とかは「はなしてに ちかい」「はなしてから とおい」の2本だてでしょう。
まあ、現代ギリシャ語の指示代名詞は人称代名詞としてもつかわれるので、そういう意味ではややこしいかも。ただ、本来の人称代名詞と指示代名詞は文法的にもちがっています。This と that はそのままで形容詞的用法があるのに人称代名詞にはありません。Its は所有格ですから。

もしかしたら、it、its の訳語に「それ」「その」がつかわれていることから、this の「これ」「この」、that の「あれ」「あの」といっしょになって3つになっているような感じがするのでしょうか。でも、this、that の訳語にはおなじような指示詞がつかわれているのに対して、「それ」「その」は人称代名詞じゃないですよね。日本語には厳密にいえば人称代名詞はないのですから。

冠詞のことは、記事のほうでちょっとおもいついたことをかきます。といっても、不定冠詞がある理由はわかりませんけど……。

日本でただひとつの古典ギリシャ語の辞書は、古川晴風『ギリシャ語辞典』(大学書林)ですけど、税こみ47,250円はたかいですね。ねだんが問題でなければ、日本語でひけるメリットはおおきいわけで……。これほどたかくはない、新約聖書のギリシャ語辞典は3種類ばかりでてるのですが、それじゃしょうがないでしょう。
タイプ印刷の限定自費出版で、南山大学のアウグスティン・シュタイプというひとが『Lexicon Graeco-Iaponicum』というのをだしているのですが、最初にでたのが1967年ですし、編者から直接かうようなものだったので…。まあ、参考までに。

で、やっぱり定番は、"Liddell & Scott: Abridged Greek-English Lexicon" (Oxford) でしょう。これよりすこしくわしいのが、"Liddell & Scott: An Intermediate Greek-English Lexicon" (Oxford) です。どちらも、「LSJ」と略される "H. G. Liddell & R. Scott (revised by Jones & McKenzie): Greek-English Lexicon (with a revised Supplement) 9th ed." (Oxford) を簡単にしたものです。ただしどちらも最新版をもとにしたものではありません。Abridged のほうがちいさい本で なかみもすくないのですが、Intermediate とちがって、動詞の不規則変化のかたちとかも みだし語になっています。その点、Intermediate のほうがちょっと不便でしょうか。でも、Intermediate は、大学の専門課程にすすんだとしても、これがあればとりあえず大丈夫というぐらいのものです。
もっと簡単にものでは、"Karl Feyerabend: Langenscheidt's Pocket Dictionary. Classical Greek (Greek-English)" (Langenscheidt) というのもあります。単語帳に毛がはえたようなものですけど。さらに、これにかわるものとして最近でたのが、"James Morwood & John Taylor: Pocket Oxford Classical Greek Dictionary" (Oxford) です。Langenscheidt のはけっこうふるいもので、英語の訳語がちょっとふるいところもあるかも(Liddell & Scott だってふるいですけど)。それから、Langenscheidt のほうは付録はなにもついていないのですが、Pocket Oxford のほうはいろいろついています。最近の英和辞典の付録によくあるみたいな簡単な English-Greek とか、固有名詞、数詞、不規則動詞の表があります。Langenscheidt よりはこっちのほうがいいでしょう。これも単語帳に毛がはえたようなものですけど。Langenscheidt でも、もとのドイツ語版のほうはちゃんとした deutsch-griechisch もついていてなかなかいいんですけどね。あたらしいし。

ドイツ、フランスのでも有名なものがありますけど、とりあえずはこんなところで。

投稿: ゆみや | 2005.04.18 15:51

なるほど「言語外照応的」ですか…
いわれてみると確かに突発的に使うとしても
それまでの流れを含んでいるし、
距離的な観念というのは伴わないような気がします。
itが何でもできるような便利屋に思えてしまって
早とちりでしたね。

でも日本語の「それ」は「聞き手に近い」という発想を
有しているというのは面白いなと。
もちろんそれは「(話し手からは遠いけど)聞き手に近い」ということであるとは思うけど。
視点を主体から移して表現するのは稀なんじゃないかなと思ったりもする。
どうなんだろうか?

辞書、調べていただいてありがとうございます。
手に取る機会が少なくて(有隣堂の本店でも置いてなかった)
比較したくてもできなかったので、とても参考になります。
間違って現代のほうを買ったら笑えないし。
しかし、日本語のは高いですね…
授業で一緒の人に古代ローマ・ギリシャ史を専攻の人がいて
ビザンティン帝国時代の文献を調べるのに
古代ギリシャ語が必要だといってましたけど、
そういう人からすれば需要は高いんじゃないかなと
思ったりもするんですけどね。
たくさん出れば安くなるだろうから。
では、値段と相談して決めたいと思います。
英語版のいずれかからか。
フラ語は二外で取ってましたけど
不得手なので遠慮しておきます。
ドイツ語はまったくですし。
古代ギリシャ語で詰まったときには
相談させてください。
宜しくお願いします。
それでは

投稿: Dice+K | 2005.04.19 13:35

日本語は、自分のことをいうのに、こどもに対して「わたし」とかじゃなくて「おとうさん」とか「おかあさん」とか「パパ」とか「ママ」というし、生徒に対して「先生」といったりするわけで、あいてがいないと いいかたがきまらないことがおおいですよね。そのへんからいっても ききてを意識しないといけないことばなわけで…。返事のしかたも、「はい」と「いいえ」はあいてのいったことに対してであって、「yes」「no」とはちがうし。

英語なんかでも、ききてを中心にかんがえるいいかたがないわけじゃなくて、たとえば、「いまいきます」というのを「I'm coming.」といいますよね。これは、これからいくあいてのところを中心にして、そこにちかづくということですから。まあでも、これは単語レベルのはなしで、基本的には主体中心なんでしょう。

古川『ギリシャ語辞典』は古典古代が中心なので(新約聖書の単語は全部ある)、ビザンティン時代用にはどうなんだろう。まあ、古代と共通の語彙ならいいんだろうけど。
ビザンティン時代むけには、"Evangelinus Apostolides Sophocles: Greek Lexicon of the Roman and Byzantine Periods" (Georg Olms Verlag) というのがあります。この分野のひとならしってるかな。まあ、大学の図書館にはあってもおかしくはないでしょう。

授業のギリシャ語、ご健闘をおいのりします。こちらでわかることがありましたら、遠慮なくどうぞ。

投稿: ゆみや | 2005.04.19 23:36

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