« 学校の習字 | トップページ | 「生」という翻訳語 »

屈折と「かたむき」

「主格」という文法用語」のコメントの返事をこっちにかくことにする。

じつは、ふるくは文法用語としての πτῶσις [ptɔ̂ːsis プトースィス」(格)の意味ははっきりしないとこがあるらしい。「サイコロをなげること」って意味もあって、格変化をサイコロの目がでることにたとえてるのかもしれないってはなしだ。それに動詞の変化のことも πτῶσις っていってた。ただ、ストア派をへて、のちの文法家の段階になると、名詞・形容詞・代名詞の格だけをいうようになって、その意味も、英語でいえば fall つまり「おちること、たおれること」になった。英語で「格」はラテン語起源の case だけど、ドイツ語だとラテン語からはいった Kasus [カーズス]のほかに、英語の fall にあたる Fall [ファル]をつかってる。

で、「屈折」だけど、インド・ヨーロッパ語族みたいなことばは屈折言語っていわれることもある。要するに、単語が人称変化とか格変化することばのことで、英語はこの屈折がかなりおとろえてる。屈折は「曲折」ともいって、英語なら inflexion/inflection だけど、このもとはラテン語の inflexio [イ(ー)ンフレクスィオー]で「(うちがわに)まげること」っていう意味だ。この屈折っていうのは名詞のことも動詞のこともいうけど、名詞類の屈折はとくに「曲用」っていって、動詞の屈折は「活用」っていってる。

「曲用」は、英語なら declension。例によってもともとはラテン語の 「declinatio [デークリーナーティオー]で、意味は「おりまげること、かたむき」。ギリシャ語は κλίσις [klísis クリスィス]でおんなじ意味。ただしギリシャ語だと曲用だけじゃなくて活用の意味もある。つまり屈折・曲折とおんなじことになる(現代語でも)。

「活用」のほうは、英語なら conjugation で、もとのラテン語は conjugatio/coniugatio [コンユガーティオー]。意味は「(くびきで)つながれること、つながれたもの」。ギリシャ語は συζυγία [syzdyɡíaː スュズデュギアー/syzyɡíaː スュズュギアー]で、意味はおんなじ。このギリシャ語も、古代には曲用の意味もあったけど、いまでは活用のことだけになってる(はず)。活用のことをこういうふうにいったのは、ひとつの動詞の変化にふくまれてる変化形ぜんぶの「むすびつき」、つまり組織的な動詞の変化のくみあわせをあらわしたものだろうってことだ。

というわけで、「屈折」は inflexio からいえば「まがり」だけど、declinatio とか κλίσις からすればやっぱり「かたむき」ともいえる。どっちにしても、名詞なら主格単数、動詞なら能動態1人称単数を直立してるかたちってかんがえて、ほかの変化形をそこからかたむいたり、たおれたりしたものだってかんがえてることにかわりはないだろう。

関連記事
 ・格変化の順序
 ・「主格」という文法用語
 ・「属格」という文法用語

2005.05.04 kakikomi; 2010.09.12 kakinaosi

|

« 学校の習字 | トップページ | 「生」という翻訳語 »