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音びきの「ー」は文字じゃなくて…

ふつうはカタカナの外来語とかにつかって母音をのばす「ー」(音びき/長音符号)が、文字じゃなくて記号だっていうのをきいて、あらためてかんがえてみたら、なるほど、ほかの記号と共通点があった。

それはカッコ類をかんがえてみればわかる。ただのカッコでも、ほかのカッコでもおんなじことだけど、ヨコがきとタテがきのときでむきがちがう。ヨコがきならカッコは、なんていうか、タテにたってるけど、タテがきになるとヨコむきにねてる。かぎカッコはたってるとかねてるとかじゃないけど、とにかくむきが90度ちがってくる。

このことが「ー」にもあてはまる。ヨコがきならヨコにねてるけど、タテがきになるとタテにたってることになって、ヨコがきとタテがきで90度むきがちがう。これはやっぱり文字じゃなくて記号の一種だからだろう。

そういえば、どこの国だったか、日本人観光客相手の店で、そこのウインドーに日本語の文章がはってあるのはいいんだけど、タテがきなのに、「ー」はヨコがきみたいにヨコにねたまんまになってたのがあったっけ。

これとは逆の例もある。夏目漱石の ヨコがき のメモにでてくる「ー」はタテの棒になってる。むかしはタテがきしかなくて、一見右からのヨコがきにみえるものも実は1行1文字のタテがきだから、タテの棒のまんまなんだろう。

ところで、「ー」の起源だけど、これは江戸時代にできたらしい。のばす音をかくには、万葉がなみたいなかきかたもふくめて、母音をあらわすかなをつづけてかいたり、「引」の字をそえる方法(これは漢訳仏典で真言のながい母音を表記するときのやりかたからきてるんだろう。右よりにちいさく わり注としてかく)があったんだけど、それとはべつに江戸時代に外国語をあらわすのに「ー」をつかうやりかたができた。

はっきり「ー」をつかった最初の例は新井白石の『西洋紀聞』ってことなんだけど、直筆のものをみると行のまんなかじゃなくて右よりにかいてある。やっぱり、わり注みたいな感じなのかな。むかしからつかわれてる反復記号も手がきだと右よりになってるけど、それとおんなじことなんだろう。新井白石はべつの本じゃカタカナのなかに「引」をつかってるんだけど、「引」っていう漢字の右がわ、つまり つくりの部分が「ー」になったらしい。

ただし『西洋紀聞』はキリスト教についてもかいてあるから(最後に白石自身のキリスト教批判の文がついてるんだけど)公表されないで、明治になってから出版された。だから、この本の影響ってことじゃないとおもうんだけど(ひそかによまれてたかもしれないけど)、とにかく「ー」をつかいだしたのは蘭学者だった。

音びき:音引き。

2005.06.08 kakikomi; 2010.12.16 kakinaosi

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コメント

コンピューター関連の業界などでは、外来語のカタカナ表記の語尾の長音「ー」を付けない慣習があります。「コンピューター」ではなく「コンピュータ」、「コンパイラー」ではなく「コンパイラ」、「ユーザー」ではなく「ユーザ」などです。

これは、表記の不統一につながるのと同時に、一般人には不自然に思えるので、テクニカルコミュニケーター協会というところが、「外来語(カタカナ)表記ガイドライン 長音符号編」という提言を行っています。(http://www.jtca.org/katakana/)

簡単にいうと、元の英語の語尾が er、or、arなどの場合と y の場合は、カタカナ表記では必ず最後に「ー」をつけるように統一しようという提言です。

私は、これはとてもよい提案だと思っていますが、どう思われますか?

[投稿日時: 2005年6月 8日 午後 04時34分]

投稿: gotaku | 2008.01.10 13:54

語尾の「ー」をつけないかきかたについては、まえから気になっていました。工学関係でそういう習慣があるということで、しらべてみると戦前からこういうことがおこなわれているようでした。ただ、どうしてそうするのか理由がわかりません。そもそも、なんで工学のひとたちが日本語の表記を勝手にきめるんだ、といいたい感じです。自分では絶対に「コンピュータ」とか「ユーザ」とか「フォルダ」というふうにはかきません。

一種の業界用語というのか、「ギリシャ」を(かなづかいとしておかしいのに)「ギリシア」とかくと学者っぽくなるみたいなもので、「コンピュータ」とかかないと、コンピューターにうといひとみたいな感じになっているのでしょう。それに現在ではとうとうかきかたにひきずられて、口でいうときにも「コンピュータ」という発音がきかれるようになってしまいました。

で、そのような提案をしているところがあるというは、なかなかすばらしいですね。大賛成です。もともと工学の世界だけでやっていたものが、パソコンとインターネットの普及で、この分野の用語が一般につかわれることがおおくなってきたために、あらためて一般常識とのズレがみえてきたのでしょう。

「-ty」でおわるものについては、工学関係ではなくても「ティ」とするようなのをよくみかけますけど(「アイデンティティ」とか「コミュニティ」とか「パーティ」とか)、これだって実際には「…ティー」といっているのですから、「…ティー」とかかなければおかしいとおもいます。

[投稿日時: 2005年6月 9日 午前 12時06分]

投稿: ゆみや | 2008.01.10 13:56

コンピュータ/コンピューターという表記のゆれについては、柴田武『日本語はおもしろい』岩波新書でふれられてました。参考までに。

[投稿日時: 2005年6月 9日 午前 03時01分]

投稿: ひつじ | 2008.01.10 13:58

『日本語はおもしろい』ですけど、あの長音がきえる説明は納得できませんでした。もちろん、著者もすべてを説明できているつもりではないわけでしょうけど。

[投稿日時: 2005年6月 9日 午後 07時55分]

投稿: ゆみや | 2008.01.10 13:59

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