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エビス、エホバ、円

エビスビールは「ヱビスビール」ってかくけど、ローマ字だと「Yebisu」になってるのがちょっとふしぎだ。カナだとワ行のヱなのに、ローマ字だとヤ行の ye になってる。

旧約聖書の神エホバは文語訳のかなづかいだとヱホバなんだけど、これもなんかヘンだ。エホバはヘブライ語 יהוה Yahwe [ヤハウェ](=Yahweh)のまちがったよみかたからきてるから、もともと「イェホバ」で、これもヤ行のはずなのにワ行のヱをつかってる。

お金の単位の円は旧かなづかいでかけばヱンで、ワ行のヱになる。でも円の記号は¥だし、英語で yen っていってるぐらいだから、これもヤ行の ye になってるわけだ。

なんで、こういうふうにワ行のヱがヤ行の ye になっちゃってるかっていうと……。

平安時代のはじめごろには、ア行のエ(e)、ヤ行のエ(ye)、ワ行のヱ(we)の3つの区別があった。それが10世紀後半になるとア行とヤ行の区別がなくなって、発音としてはどっちも[イェ(ye)]になったらしい。つまりただの[エ(e)]の発音はなくなったわけだ。それから鎌倉時代になると、ワ行のヱとの区別もなくなって、全部[イェ(ye)]になった。この[イェ(ye)]がいまみたいな[エ(e)]になったのは、江戸時代にはいってからのことだった。

ちなみに、いろはうたは弘法大師・空海(774-835)がつくったっていうふうにつたえられてきて、空海がはじめた真言宗の宗歌にもなってるけど、これにはヤ行のエがない。詩の形式も平安時代のはじめのものじゃないし、ヤ行のエがないってことからも、ほんとは空海がつくったんじゃないっていわれてる。旧かなづかいっていうのは平安時代のはじめのころのかきかたにもとづいてるんだけど、そのあとにできた いろはうたの47文字をつかってかきわけるものだから、ヤ行のエはない(いろはうた(1) とりあえずどういう意味か」)。

っていうわけで、ワ行のヱは中世から近世にかけては[イェ(ye)]って発音だったせいで、ヱがヤ行の ye をあらわすことになってるんだろう。

エビスは漢字で「恵比寿」とか「恵比須」ってかくけど、これは「恵(ヱ)」のかなづかいを無視した後世のあて字で、ほんとはア行のエがただしい。発音の区別がなくなったもんだから、こういうあて字ができたんだけど、この漢字でかいてるせいで、「ヱビスビール」ってことにもなったわけだ。で、ヱでかいてるもんだから、ア行のエとわざわざ区別して、ローマ字は「Yebisu」にしたんだろう。それか、このつづりでむかしから外国にもしられてるのかな。

ヱホバにしても、ヱの中世以来の発音をかんがえるとヤ行の[イェ]をあらわしてるわけがわかる。

円もむかしの発音から yen になってるわけだけど、当時のエは全部 ye だったから、ワ行じゃないエだった「江戸」と「蝦夷[えぞ]」も Yedo/Yeddo、Yezo になった。英語じゃいまでもこういってるし、エゾマツの学名 Picea jezoensis (ラテン語)にも jezo (=Yezo)っていうのがはいってる。エゾマツは英語だと Yeddo spruce とも Yezo spruce ともいうけど、これなんかは「江戸」と「蝦夷」を混同してるんだろう。

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 ・いろはうた(1) とりあえずどういう意味か

2005.06.18 kakikomi; 2009.03.28 kakitasi

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