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ギリシャ語をラテン語式のアクセントでよむ

外国語の入門書のシリーズで ‘Teach Yourself’ っていうのがある。このなかの古代ギリシャ語の本は、いまは Gavin Betts & Alan Henry の “Ancient Greek” だけど、すこしまえにはこれ以外に F. Kinchin Smith & T. W. Melluish の “Ancient Greek: a foundation course” っていうのがあった。もともとはこの ‘foundation’ のほうだけで、そのときのタイトルはただの “Greek” だった。

Betts & Henry の本がでたとき最初は ‘a complete course’ ってサブタイトルがついてて、しばらくは ‘a foundation course’ のほうものこってたんだけど、そのうちなくなったみたいで、それからは Betts & Henry のほうは、サブタイトルがなくなって、なかみがあたらしくなった。こっちは、単語はたくさんでてくるし、練習問題はいっぱいあるし、入門書としてはむずかしすぎるんじゃないかともおもう。それに、シグマが大文字も小文字も c のかたちなのがよみにくいかもしれない。

Smith & Melluish の本はおもしろくできてて、いい本だったんだけど、ひとつおおきな特徴があった。それはアクセント記号をはぶいてることだ。古典時代にはアクセント記号はなかったんだから、そんなものはわれわれにも必要ないとかかいてあるんだけど、でも、だとしたら、よむときアクセントはどうすりゃいいんだろ。最初にこの本をみたとき、この点が疑問だったんだけど、しばらくしてあることをしって、いちおうわけがわかった(とおもう)。

W. Sidney Allen の “Accent and Rhythm” と “Vox Graeca” (どっちも Cambridge University Press)によると、17世紀の学者で、ギリシャ語のアクセント記号は発音とは関係ないなんて説を発表したひとがいて、これが一部にうけいれられることになった。その説によると、ギリシャ語もラテン語とおんなじアクセントで発音されたってことになる。ラテン語のアクセントの法則は、うしろから2番目の音節がながければそこにアクセントがあって、みじかければそのひとつまえ、つまりうしろから3番目の音節にアクセントがあるっていう簡単なもので、機械的にきめられる。ギリシャ語もこれとおんなじように発音するっていうのがこの説なんだけど、17世紀のギリシャ語の発音だって、古代とちがってつよさアクセントにかわってたにしても、アクセントの位置はアクセント記号がついてるとこだったんだから、この説がうけいれられたっていうのはちょっとふしぎだ。

で、とにかくこの説をうけて、イギリスとオランダで、古典ギリシャ語(古代ギリシャ語)をラテン語式のアクセントでよむっていう習慣がうまれた(発音としては古典式)。その結果、18世紀のイギリスで出版されたギリシャ語の本にはアクセント記号をはぶくものがたくさんでてきた。

Smith & Melluish の本も、こういう習慣があったからこそ、アクセント記号を無視することができたんだろう。だから、この本としてはラテン語式のアクセントでよませるつもりだったんじゃないかな。とくにそうはかいてなかったみたいだけど。

2005.10.29 kakikomi; 2010.12.28 kakitasi

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