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古楽とむかしの発音

古楽っていうのは、英語だと early music っていって、だいたい古典派よりまえの音楽のことをさしてることがおおいとおもうけど、古典派がはいるばあいもある。日本語の「古楽」ってことばそのものはむかしからあって、雅楽の用語としてつかわれてきたけど、それはこれとはべつ。

この分野では、当時の演奏習慣だとか楽器だとかを再現して演奏する。最初のうちはたんなる歴史資料的なものだとかおもわれたりもしたみたいだけど、いまじゃ、バロックからまえの時代の音楽は、こういう演奏があたりまえになった。古典派の曲でも、古楽のひとたちの演奏がたくさんあるし、ロマン派の曲の演奏だってある。もちろんそのばあいは、バロックの楽器じゃなくて、古典派なりロマン派なりの時代の楽器とスタイルで演奏する。

たとえばベートーベンの交響曲。クラッシックの代表的な曲目だけど、ベートーベンよりあとの時代の、つまりは現代のオーケストラにあわせて手をいれたかたちで演奏されてきた。それを、古楽のひとたちが、もとのひびきをとりもどそうってことで、ベートーベンが作曲したオリジナルなかたちにもどして、当時の楽器をつかって演奏するっていうのをはじめた。

美術に関しても現代ではおんなじようなことがある。美術品を修復するとき、いまのやりかただと、あとからくわえられた修復の部分をとりのぞいて、オリジナルなかたちにもどそうとする。

それから、いまは時代考証ってものもある。たとえば、むかしの芝居なら、上演してるそのときの(つまり“現代”の)衣装で歴史ものもやってたけど、いまのテレビとか映画の歴史ものなら、そのものがたりのころの衣装とかを再現する。このあたりにいまの歴史感覚があらわれてるとおもうけど、古楽もそういう現代ふうなことをやってるっていえるだろう。

といっても、現代演劇なんかだと、逆に現代ふうの衣装でむかしの題材を上演することもある。でもそれは、いまの歴史意識をふまえたうえで、わざっとそういうことをやってるんだから、むかしの芝居の衣装とは意味がちがう。で、そういうこともなかにはあるにしても、娯楽の主流ってことでくらべるなら、むかしの芝居といまのテレビの歴史感覚のちがいははっきりしてるとおもう。

ついでにいうと、バロック・オペラを上演するとき、音楽のほうは古楽なんだけど、舞台のほうは“現代的”演出なんてこともよくある。どうも演出家はかわったことをしないと気がすまないみたいだけど(それか、そうでもしないと評価されないってことなのか)、スーツでもきせればそれだけで現代に通じるはなしになるっていうのかなあ。

そんななかで、古楽の演奏では、歌詞をその当時の発音でうたうっていうのもでてきてる。古楽のオリジナル尊重が発音にまでおよんできたわけだ。歌詞もふくめて当時のひびきをたいせつにするってことだろう。“Singing Early Music” (Indiana University Press)なんていうCDつきの本もある。この本は中世のおわりからルネッサンス時代を対象にしてて、英語、フランス語、プロバンス語、カタロニア語、スペイン語、ポルトガル語、イタリア語、ドイツ語、オランダ語の当時の発音と、それから当時の各地のラテン語の発音をあつかってる。

ただまあ発音の復元が正確だったとしても、しょせんはネイティブの発音じゃないってことにはなる。でも、ネイティブじゃないひとがうたうってことはクラッシックじゃめずらしくないし、日本の歌謡曲とかだって、韓国とか台湾とか香港の歌手がうたってるから、歌のばあいはこのことはとくに問題ってことにはならないかな。

ベートーベン:ベートーヴェン。 クラッシック:クラシック。

2005.10.04 kakikomi; 2009.03.28 kakikae

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