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西洋の惑星の名まえ

ヨーロッパのことばだと、惑星のことは、英語で planet、ドイツ語で Planet [プラネート]、イタリア語で pianeta [ピアネータ]、フランス語で planète [プラネットゥ]っていうけど、こういうのはみんなラテン語の planeta [プラネータ]からきてる。で、そのラテン語のもとはギリシャ語の πλανήτης [planɛ̌ːtɛːs プラネーテース]で、「さまようもの」っていう意味だ。だから日本語で「惑星」って訳すことになったんだけど、要するに惑星っていうのは、ほかの星つまり恒星とはちがうふうにうごくもんだから、こうよばれるようになった。

それぞれの惑星の名まえは、古代からしられてた5惑星だけにするけど、英語だと、

  • 水星: Mercury [マーキュリー]
  • 金星: Venus [ヴィーナス]
  • 火星: Mars [マーズ]
  • 木星: Jupiter [ジューピター]
  • 土星: Saturn [サターン]

ドイツ語だと、

  • 水星: Merkur [メルクーア]
  • 金星: Venus [ヴェーヌス]
  • 火星: Mars [マルス]
  • 木星: Jupiter [ユーピター]
  • 土星: Saturn [ザトゥルン]

イタリア語だと、

  • 水星: Mercurio [メルクーリオ]
  • 金星: Venere [ヴェーネレ]
  • 火星: Marte [マルテ]
  • 木星: Giove [ジョーヴェ]
  • 土星: Saturno [サトゥルノ]

フランス語だと、

  • 水星: Mercure [メルキュール]
  • 金星: Vénus [ヴェニュス]
  • 火星: Mars [マルス]
  • 木星: Jupiter [ジュピテール]
  • 土星: Saturne [サチュルヌ]

ってことになる。で、これは例によってラテン語がもとだから、そのラテン語の名まえをあげると、

  • 水星: Mercurius [メルクリウス]
  • 金星: Venus [ウェヌス]
  • 火星: Mars [マールス]
  • 木星: Jupiter [ユーピテル]
  • 土星: Saturnus [サートゥルヌス]

これはみんなローマ神話の神の名まえだけど、ローマ人が最初に神がみの名まえを惑星にあてはめたわけじゃなくて、またまた例によって、ギリシャ語のいいかたをローマの神がみの名まえで訳したものだ。ギリシャ語でいうとこうなる。

  • 水星: Ἑρμῆς [hermɛ̂ːs ヘルメース]
  • 金星: Ἀφροδίτη [apodǐːtɛː アプロディーテー]
  • 火星: Ἄρης [árɛːs アレース]
  • 木星: Ζεύς [zděus ズデウス/zěus ゼウス]
  • 土星: Κρόνος [krónos クロノス]

ただし、神がみの名まえを惑星にあてたのはギリシャ人が最初ってことじゃなくて、オリエントのほうでもっとむかしから神がみの名まえがつかわれてた。ギリシャ人はその神がみに対応するギリシャの神がみの名まえをつかったってことになる。

惑星に神がみの名まえをあてはめるっていっても、もともとは神がみの名まえがそのまんま惑星の名まえになったわけじゃなくて、「ゼウスの星」っていういいかたがふつうだった。これはギリシャ語だと ὁ τοῦ Διὸς ἀστήρ [hoː diós astɛ̌ːr ホ トゥー ディオス アステール]っていうけど、ἀστήρ [astɛ̌ːr アステール](星)を略して定冠詞だけのこした ὁ τοῦ Διός [hoː diós ホ トゥー ディオス]っていうこともおおい。「ホ」は「アステール」にかかる定冠詞、「トゥー」は「ディオス」にかかる属格の定冠詞、「ディオス」は「ゼウス」の属格(ゼウスとジュピター」)。2世紀のプトレマイオスもたいていはこういういいかたをしてる。

ギリシャ語の文献のなかで惑星について神がみの名まえをつかってるのはプラトーンの『エピノミス(法律後篇)』(987b-c)が最初だ(弟子の作品って説もある)。ただし、最初のものっていうのは、そのあとふつうになるのとはちょっとちがってることもおおいもんで、ここじゃ「ゼウスの星」っていいかたにはなってない(岩波の全集だとそんなふうに訳してるけど)。

それから、『エピノミス』よりまえだと、惑星の名まえとしては、あけの明星が ἑωσφόρος [heɔːspʰóros ヘオースポロス](夜あけをもたらすもの)とか ἑῷος ἀστήρ [heɔ̂ːjos astɛ̌ːr ヘオーヨス アステール](あけがたの星)、よいの明星が ἕσπερος [hésperos ヘスペロス](夕がたの[星])とか ἕσπερος ἀστής [hésperos astɛ̌ːr ヘスペロス アステール](夕がたの星)って名まえででてくるだけで、これはもちろん、どっちも金星のことだ。『エピノミス』にもそうかいてある。

もっとあとのもので、アリストテレースの偽書『宇宙について(宇宙論)』にも惑星の名まえがひととおりでてくるけど(392a23-28、399a8-11)、ここでは、神がみの名まえのほかに、べつの名まえもつかってる(この名まえはほかの文献にもでてくる)。

  • 水星: Στίλβων [stílbɔːn スティルボーン](きらめくもの)
  • 金星: Φωσφόρος [pʰɔːspʰóros ポースポロス](ひかりをもたらすもの)
  • 火星: Πυρόεις [pyróeːs ピュロエ~ス](火のようなもの)
  • 木星: Φαέθων [pʰaétʰɔːn パエトーン](ひかるもの)
  • 土星: Φαίνων [pʰǎinɔːn パイノーン](てらすもの)

それから、おもしろいことに、この作品にはべつの神がみの名まえもでてきて、水星についてはヘルメースのほかにアポッローン、金星についてはアプロディーテーのほかにヘーラー、火星についてはアレースのほかにヘーラクレースっていう名まえもつかわれてる。

むかしは惑星っていうと太陽と月もふくまれてたから、最後にこのふたつについても、ここでとりあげたことばのいいかたをあげておくことにする。太陽は、

  • 英語: sun
  • ドイツ語: Sonne [ゾネ]
  • イタリア語: sole [ソーレ]
  • フランス語: soleil [ソレイユ]
  • ラテン語: sol [ソール]
  • ギリシャ語: ἥλιος [hɛ̌ːlios ヘーリオス]

月は、

  • 英語: moon
  • ドイツ語: Mond [モーント]
  • イタリア語: luna [ルーナ]
  • フランス語: lune [リュヌ]
  • ラテン語: luna [ルーナ]
  • ギリシャ語: σελήνη [selɛ̌ːnɛː セレーネー]

このふたつは神がみの名まえをあてはめたっていうのとはちょっとちがって、この単語そのものが神の名まえになってる。つまり、ギリシャ語の「ヘーリオス」は「太陽」って意味だし、太陽の神の名まえでもある。おんなじようにギリシャの月の女神の名まえは「セレーネー」。ラテン語の「ソール」と「ルーナ」もおんなじことで、やっぱり太陽の神と月の女神の名まえでもある。

名まえ:名前、なまえ。 ユーピテル:ユピテル。 サートゥルヌス:サトゥルヌス。 ヘルメース:ヘルメス。 アプロディーテー:アフロディーテー、アプロディテ、アフロディテ。 アレース:アレス。 プラトーン:プラトン。 アリストテレース:アリストテレス。 ポースポロス:フォースフォロス、ポスポロス、フォスフォロス。 アポッローン:アポローン、アポッロン、アポロン、アポロ。 ヘーラー:ヘラ。 ヘーラクレース:ヘラクレス。 ソール:ソル。 ヘーリオス:ヘリオス。 ルーナ:ルナ。 セレーネー:セレネ。

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2005.11.30 kakikomi; 2010.09.13 kakinaosi

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