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外来語と音節

しおかぜさんの「日本語への旅」の「外来語苦難物語」をよんで、ちょっとおもいついたことがある。

日本語にはいった外来語は、もとのことばとくらべてずいぶん音節がふえてるばあいがよくある。たとえば McDonald は3音節だけど、日本語になった「マクドナルド」は6音節になってる(ハンバーガーのマクドナルドの名まえは、店の名まえによくあるみたいに、shop を略した所有格の McDonald's だけど、日本語の名まえとしては「マクドナルズ」じゃないから、McDonald をうつしたものだろう)。でも、この音節の数の差は、実際の発音からするとちょっとちがう感じがする。「マクドナルド」は McDonald の2倍のながさ?

もちろんながさっていっても、はやくしゃべればみじかくなるし、おそくしゃべればながくなる。でも、基本になる単位が一応おんなじながさだとすれば、とりあえずこのふたつをくらべることもできるだろう。

で、関西ふうの「マクド」なら3音節になるわけだけど、これを実際の英語の McDonald の発音をくらべてみると、「マクド」より McDonald のほうがずっとながいんじゃないかな。おんなじ3音節のはずだけど。

日本語の発音の特徴からして、そもそも音節ってものをかんがえることがどれほど必要なのか疑問におもわないでもない。日本語の発音についてはモーラ(拍)ってことがいわれるけど、外来語についてかんがえるばあいでも、このモーラをつかったほうがいいだろう。

「きゃ」とか「ティ」みたいなのをのぞけば、モーラの数はカナの数と一致する。たとえば俳句の5・7・5っていうのは音節の数じゃなくてモーラの数だ。俳句は haiku になって外国にもひろまってるけど、海外にでた haiku は音節の数でやってるから、日本語の5・7・5のリズムとは全然ちがうものになってる。それから、音節とモーラの数はおんなじこともあるけど、ちがうこともよくある。たとえば、「よむ」は2音節で2モーラだけど、「よもう[ヨモー]」は2音節で3モーラだ。それから「マクドナルド」は6音節で6モーラで、「パーティー」は2音節で4モーラ。

モーラのもとはラテン語の mora [モラ]で、「おくれ、ひきのばし、さまたげ」なんていうのがもともとの意味だけど(ここからモラトリアム(moratorium)っていうことばもうまれた)、さらに「時間、時期」って意味にもなって、ギリシャ語・ラテン語の古典詩学で、ひとつのみじかい音節ぶんのながさをいう単位になった。「滞留時」なんて訳もあるみたいだ。みじかい母音だけでおわってる音節はみじかい音節だから1モーラで、みじかい母音のあとに子音がつづいてるんならながい音節だから2モーラになる。それからながい母音か二重母音があるばあいもながい音節だから2モーラってことになる。

英語は、日本語とか古代ギリシャ語・ラテン語とは発音の特徴がちがうから、モーラってものをそのまんまあてはめるのは問題かもしれないけど、音節のながさのちがいはやっぱりあるんだから、みじかい音節は1モーラで、ながい音節は2モーラってことにとりあえずしておこう。ただし、英語の発音の特徴として、アクセントのあるみじかい母音でおわる音節ってものはなくて、そういうばあいはかならず子音がつづいてなきゃいけない(アクセントのあるながい母音か二重母音でおわる音節ならある)。でも、つづく音節が母音ではじまってれば、その子音は発音としてはそっちにもむすびついてるから、その部分はみじかいってかんがえる。

で、これを McDonald にあてはめると、音節としては Mc-Don-ald っていうふうにきれるけど、ながさとしては「ながい・みじかい・ながい」で5モーラだっていえるとおもう。アクセントのある -Don- のつぎの音節は母音ではじまってるから、この部分はながいことにはならない。それから、アメリカ英語の発音ならこの o はながい「アー」になるから(この発音に即して音節をきるとすれば Mc-Do-nald になるけど、まあ、つづりとしてはふつうはこうはきらないんだろう)、まんなかの音節もながくなって、6モーラになる。そうなると日本語の「マクドナルド」とモーラの数としてはおんなじだ。

実際の発音じゃ McDonald と「マクドナルド」にながさのちがいがあることはあるだろう。でも音節の数のちがいほどの差があるわけじゃない。音節のことをいうんなら、たんに数だけじゃなくて音節じたいのながさのちがいもかんがえにいれないと、ながさの比較としてはおかしなことになる。これが、音節じゃなくてモーラの数でくらべれば、McDonald と「マクドナルド」はそんなにちがわないのがわかる。

もちろん、McDonald の母音は3つなのに、「マクドナルド」のほうは6つも母音があるっていうおおきなちがいにかわりはないし、それは要するに3音節と6音節のちがいだ。それに、英語のはっきりした強弱も日本語じゃなくなってる。だから、外国語の単語が日本語になるばあいに、おおきな変化があることはまちがいない。でも、音節の数とか母音の数じゃなくてモーラの数をくらべれば、きいた印象にもちかいし、意外にもとの外国語とかわってない面もみえてくるとおもう。

【注】 Mc- には母音字がないけど、発音としてはちゃんと母音がある。これは、アイルランドとスコットランド系のファミリー・ネームにでてくるもので、もともと「…の むすこ」って意味だから、McDonald は「ドナルドのむすこ」って意味になる。つづりとしてはほかに Mac- とか MC- とか M'- っていうのもあって、これにつづく部分はふつう大文字ではじまる。

2005.11.03 kakikomi; 2011.07.29 kakinaosi

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コメント

しおかぜです。

音声の長さひとつにしても、いろいろなとらえ方、考え方ができるのですね。

英語ネイティブの「McDonald」の発音を私が聞き取って、極力忠実にカナ表記をしようとすれば「マクナッ」あるいは「マクナル」になりそうです。

ところで、人名の場合は「Macdnald」とoを抜いた表記もときどき見かけますが、この場合も発音はまったく同じなのでしょうか?

投稿: しおかぜ | 2005.11.06 11:35

しおかぜさん、
記事にもかきましたが(どうもその部分には注目していただけなかったみたいですが) McDonald のアクセントは -Don- のところにあります。Mc- という接頭辞にアクセントはありません。ですから発音に忠実にカナ表記しても「マクナッ」「マクナル」にはならないとおもいます。よけいなお世話とはおもいますが、辞書かなにかで発音をたしかめられたらいかがでしょうか。実際の発音をきいたところからすれば、イギリス英語なら「マクダノード」または「マクドノード」、アメリカ英語なら「マクダーノード」になるとおもいます(最後の子音だけの「ド」はともかくとして)。

それから、MacDonald と Macdonald というつづりはありますが、Macdnald というのはたんなるまちがいです。アクセントがある o がなくなるわけはありません。それに、これだったら Mac- という接頭辞をとったら dnald になってしまいますが、dn- ではじまる英語の単語はないはずです(たとえばロシア語にはありますから、ロシアの地名なら英語としても Dnieper なんてのがありますが)。 McDonald、MacDonald、Macdonald は Donald に M(a)c- がついたものです。

Macdnald というつづりは、たいてい日本人がまちがってかいたものです。これは Mac- の部分にアクセントがあるというおもいこみが原因だとおもいます。そして「マクド」までをひとつのくぎりとかんがえて、カタカナにうつした「ド」はもともと子音だけの d のことがおおいですから、このまんなかの「ド」もそうだとおもってしまうのでしょう。

《Old MacDonald》という歌がありますが(「イー・アイ・イー・アイ・オー」というかけ声がはいる歌)、最初の4つの音符にこの Old MacDonald という歌詞がついていて、ちゃんと -Don- にアクセントがあるようにわりふられています(英語の歌は、メロディーのアクセントとことばのアクセントが一致するようにできています)。かんたんにいえばこの4つで「強弱強弱」になっています。

投稿: yumiya | 2005.11.06 23:16

初めまして。「モーラ+中国語」で検索したら、貴ブログにヒットしました。お陰さまでモーラについてよく分かりました。ありがとうございます。先日中国人に「あなたの中国語は日本語のモーラを引きずっている。それを直せばもっと上手になる」というようなこと言われたものの、意味が分からなくて困っていました。今回モーラとは何か頭では理解できましたが、やっぱりモーラを引きずって、日本訛の強い中国語を話してしまいそうです。とにかく、ありがとうございました。

投稿: shrimp | 2005.12.03 21:10

yumiyaさん、こんにちわ
ごぶさたです。

 それにしても、この音節とかモーラとか、英語科や国語科の先生たちからきいた記憶がないんですが、いいんでしょうかね? ま、両方の科目とも、およそ言語学の基礎をまなんだとはおもえないようなひとにしか、であいませんでしたけど。それも、地方では「受験校」とされている学校ですから(笑)、教員層の水準が、全国の平均よりずっとおちるということはなかったとおもうんですけど。
 すきなバンドの歌詞をおぼえようにも、このヘンの基礎知識がないと、混乱するだけだろうとおもうし、国際化のかけごえの「おいかぜ」で、いきおいがあるだろう英語科が、内実はおさむいかぎりなのではと……。

投稿: ハラナ・タカマサ | 2005.12.04 11:44

>shrimp さん
はじめまして。お役にたてて、さいわいです。中国語のばあいモーラはどうなんでしょうねえ。漢詩をみると、音節のながさでくみたてているわけではないですから、すべての漢字つまり音節はみんなおなじモーラなのではないかとおもうのですが。

>ハラナさん
音節やモーラのはなしはやっぱり学校ではきいたことありません。英語だけのことなら、まあ、モーラは関係ないようなもんですからね。それから、大学の英文科でも日本文学科でも、文学ずきではあっても、英語学・日本語学のほうはキライってひとがおおいみたいですから…。

投稿: yumiya | 2005.12.04 19:18

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