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ラテン文字のアルファベットの名まえ

アルファベットっていうことばは、ギリシャ文字のアルファとベータって名まえがもとになってる。ギリシャ文字にはこういうふうにアルファ、ベータ、ガンマ…っていう名まえがついてるけど、ギリシャ語としては意味がなくて、もとになったフェニキア文字の名まえをとりいれた外来語だ。ただしギリシャ人に発音できるようにすこし名まえがかわってる。

これがラテン語のアルファベットになると、名まえが簡単になって、記号みたいな感じになった。近代西洋語のアルファベットの名まえも基本的にはラテン語のまんまで、ほとんどはただそれぞれのことばのよみかたになってるだけだ。つぎに、ラテン文字の名まえの一覧をあげるけど、ラテン語としての名まえのあとに、かりに英語よみしたばあいの発音もつけることにする。英語の実際の名まえとちがうばあいには、実際の名まえのほうはカッコにいれとく。

A a [アー] [エイ]
B be [ベー] [ビー]
C ce [ケー] [スィー]
D de [デー] [ディー]
E e [エー] [イー]
F ef [エフ] [エフ]
G ge [ゲー] [ジー]
H ha [ハー] [ヘイ(エイチ)]
I i [イー] [アイ]
K ka (ca) [カー] [ケイ]
L el [エル] [エル]
M em [エム] [エム]
N en [エン] [エン]
O o [オー] [オウ]
P pe [ペー] [ピー]
Q qu (cu) [クー] [キュー]
R er [エル] [アー]
S es [エス] [エス]
T te [テー] [ティー]
V v (=u) [ウー] [ユー]
X ix [イクス] [イクス(エクス)]
Y y [ユー] [アイ(ワイ)]
Z zeta [ゼータ] [ズィータ(ゼッド/ズィー)]

ラテン文字にはともとも j u w はなかったんだけど、中世になって、母音としての i [i]と区別して子音(半母音)としての i [j] をあらわすために j がつかわれるようになったり、子音(半母音)としての v [w]と区別して母音としての v [u]をあらわすために u がつかわれるようになったりした。いまでも、ラテン語のつづりとしては i j u v のつかいかたにはいろいろある。w はかたちとしては v ふたつだけど、英語のダブリューは「ダブル・ユー(double-u)」つまり u がふたつって名まえになってる。これに対してイタリア語の「ドッピョ・ヴ(doppio vu)」、フランス語の「ドゥブル・ヴェ(double vé)」はふたつの v ってことだ。u と v がもともとはおんなじだったから、こういうことにもなるんだろう。それから、英語の r の名まえは ar ってかく発音とおんなじで er の英語よみとはちがう。これは、英語の単語で中世には er だったのがいまは ar になったのとおんなじ変化がここにもおこったからだ。

ラテン文字の名まえはいくつかのグループにわけられる。まずは母音字で、a [アー]、e [エー]、i [イー]、o [オー]、u [ウー]、y [ユー]。これはたんにながい母音としてのよみかたが名まえになってるだけだ。ちなみに y は、ドイツ語の ü、フランス語の u、古典ギリシャ語(古代ギリシャ語)の υ とおんなじで、「ウ」の口のかたちで「イ」を発音すればいい。もともとラテン語にはなかったんだけど、ギリシャ語の υ をうつすためにギリシャ語からとりいれた。

つぎは閉鎖音のグループで、be [ベー]、ce [ケー]、de [デー]、ge [ゲー]、pe [ペー]、te [テー]。これは、母音をつけないと発音できない(しづらい)子音で、子音のあとにながい「エー」がついてる。

そのつぎは持続音のグループで、ef [エフ]、el [エル]、em [エム]、en [エン]、er [エル]、es [エス]。この子音は母音をつけなくても発音できるし、母音みたいにのぼすこともできる。このグループの名まえは、子音のまえにみじかい「エ」がついてる。

のこりは、ha [ハー]、ka [カー]、qu [クー]、ix [イクス]、zeta [ゼータ]だけど、このへんはちょっと特殊な性質がある。h は韻律をかんがえるとき子音としてのあつかいをうけなかったり、そのうち[h]の発音がなくなっちゃったりで、子音としてビミョーだった。持続音っていえないこともないけど、持続音のグループにははいってない。[h]の発音がなくなっちゃったせいで、そのまんまだと ha って名まえは[アー]になって a とおんなじになっちゃうためか、ロマンス語とかじゃべつの名まえになってる。イタリア語は「アッカ」、フランス語は「アッシュ」、それに英語は「エイチ」。ただしドイツ語はラテン語のまんまの「ハー」。

/k/ の音をあらわす文字は c と k と q の3つがあって、いちばんふつうなのは c だった。それに対して k と q は特別なばあいにしかつかわれない。k は普通名詞としては Kalendae [カレンダエ](ついたち)にしかでてこないし、q は qu ってくみあわせにしかつかわれない。日本語でもそうだけど、/k/ の音はつづく母音の影響をうけてけっこうちがいがあるから、ラテン文字の直接のもとになったエトルリア文字でも、e のまえは c、a のまえは k、u のまえは q っていうつかいわけがあって、ラテン文字はそれをそのまんまひきついだ。そのへんのことが名まえにもあらわれてる。

x (=cs)は二重子音をあらわしてて、ほかとはちがう感じの名まえになってる。もともとは ex だったらしくて、これは s の音でおわってるとこから持続音のグループとおんなじあつかいで e がついたんだけど、そのうちギリシャ語の ξῖ [ksîː クスィー](この名まえは古典時代よりあとのもの)の母音にならって ix になった。z はギリシャ文字の名まえをそのまんまとりいれたものだ。

z をのぞいて、母音でおわる名まえのばあいにはその母音はながいし、子音でおわる名まえのばあいは母音はみじかい。つまりラテン文字の名まえは、ギリシャ文字の名まえのまんまの z をのぞいて、2モーラになってるわけだ。やっぱり名まえとしては「ア」とか「ベ」みたいな1モーラの名まえだと目だたなくて、名まえらしくなかったってことなのかな。

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2006.01.05 kakikomi; 2010.12.27 kakitasi

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