シモーニデースのことばあそび
シモーニデース〔シモニデス〕はケオース〔ケオス〕島うまれの抒情詩人(紀元前556~468)だけど、このひとの作品にちょっとしたことばあそびの詩がある。やたらと「ソ(ー)」がでてくる。
Σῶσος καὶ Σωσώ, σῶτερ, σοὶ τόνδ᾿ ἀνέθηκαν,こういう(ことばあそびって意味じゃなくて)奉納の詩はけっこうたくさんのこってる。「Σῶσος[ソーソス]」は男の名まえ。「καί[カイ]」は「と」。「Σωσώ[ソーソー]」は女の名まえ。「σῶτερ[ソーテル]」は「すくい主よ」。「σοί[ソイ]」は「あなたに」。「τόνδε[トンデ]」は「これを」で、つぎの単語が母音ではじまってるから、最後の母音が省略されて「τόνδ᾿」になってる。「ἀνέθηκαν[アネテーカン]」は「奉納した」。「μέν[メン]」は「一方は」。「σωθείς[ソーテ~ス]」は「すくわれて」。「δ᾿ ὅτι [ドティ]」はもともと「δὲ ὅτι」で「δέ」の母音が省略されて「δ᾿ ὅτι」になってる。「δέ[デ]」は「μέν[メン]」に対して「もう一方は」。「ὅτι[ホティ]」は「~から(理由)」。「ἐσώθη[エソーテー]」は「すくわれた」。
Σῶσος μὲν σωθείς, Σωσὼ δ᾿ ὅτι Σῶσος ἐσώθη.Sôsos kai Sôsô, sôter, soi tond' anethêkan,
Sôsos men sôthēs, Sôsô d' hoti Sôsos esôthê.ソーソス・カイ・ソーソー・ソーテル・ソイ・トンダネテーカン
ソーソス・メン・ソーテ~ス・ソーソー・ドティ・ソーソセソーテーソーソスと ソーソーが、すくいぬしよ、あなたに これを ほうのうしました。
ソーソスは じぶんが すくわれた おれいに、ソーソーは ソーソスが すくわれた おれいに。
(161D、『ギリシャ詞華集』6.216)
「Loeb Classical Library」の "The Greek Anthology" だと、「σῶτερ, σοὶ [ソーテル、ソイ]」(すくい主よ、あなたに)のとこが「σωτήρια〔sôtêria〕[ソーテーリア]」(すくわれたことに対する感謝のささげものとして)になってる。ささげものとしては三脚のかなえ(τρίπους〔tripûs〕[トリプース])なんがおおかったみたいだけど、これは男性名詞で、この詩の「τόνδ᾿」(これを)も男性形だから、やっぱりここでもそうなんだろう。それから、この詩の韻律はヘクサメトロス(→「古代ギリシャの韻律:ヘクサメトロス」)。
「Σ/σ〔s〕」(シグマ)の音については、ハリカルナッソスのディオニューシオス〔ディオニュシオス〕がかいた『文章構成法』に、
優美さに欠けて不快であり、頻繁に使われるとはなはだしく苦痛を与えます。スースーという音は、理性の音声であるよりは、理性をもたない野獣の声に近いように思われるからです。少なくとも幾人かの古人は、これをごくまれに、しかも警戒しながらしか使いませんでしたし、歌曲全体を σ 音抜きで制作した詩人さえいます。なんてかいてあって、つづいて、ピンダロスが「σ」の音について「人間に嫌われる」ってうたってることにもふれてる。こういうふうにいろいろわるくいわれてる「σ」だから、このシモーニデースの詩は、それをさか手にとったあそびなんだろう。
(木曽明子ほか訳『修辞学論集』西洋古典叢書、京都大学学術出版会)
