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古典ギリシャ語がきけるウェブサイト

古典ギリシャ語がきけるっていっても、もちろん古代ギリシャ人の発音がきけるわけじゃない。それに、実際に古代の発音をきいたことがあるひとがいるわけでもないだろう。けっきょくはそのひとがどう発音してるかってことになっちゃうけど、とりあえず古典式で発音してる古典ギリシャ語がきけるサイトをあつめてみた。ただし、オススメっていうものは、ほとんどない。こんなことをいうと、ネイティブでもない人間になんでそんなことがいえるんだっていわれるかもしれないけど、古代の発音として復元されてるものをもとにしてみると、納得できないのがほとんどだ。だったら、紹介しなくてもいいようなもんだけど、それぞれの特徴をふまえたうえなら、ある程度は参考になるんじゃないかとはおもう。

そんななかで、最初のふたつはけっこういいとおう(もうひとつ「TurdPolish.com」っていうサイトもわるくなかったんだけど、なくなっちゃったみたいだ)。もちろん、いい発音っていっても、実際の古代の発音とくらべたわけじゃないから、ほんとはどうだかわかんないってことになるかもしれない。だから、古典ギリシャ語に関して「いい発音」ってことをいうばあい、それは、古代の発音の研究とかから理解してるギリシャ語の発音にちかいもののことをいってるんだ、っていえばいいのかもしれない。

Aoidoi.org」(英語)のなかの「Reciting the Heroic Hexameter [PDF]」の『イーリアス』の朗読は、いままでにきいたことがある西洋人の発音とちがって、すごくいいとおもった。ながい母音と二重母音についてる鋭アクセントがおかしいとこがちょこっとあるけど、それ以外はすごくまとも。ただし、Allen の説とちがって、有気音がふたつつづくばあい(φθ [pʰtʰ]とか χθ [kʰtʰ]とか)は、最初の子音は無気音として[ptʰ][ktʰ]って発音してる(これはちがうとおもう)。それに ει も[エイ]っていってる。曲アクセントは、Daitz とちがって、最初にちょこっとあげるなんてことはしてない。重アクセントはアクセントをうしなったものとして発音してる。それから、韻律を強調して ながい位置をちょっとながめによんでるけど、これは本人がそうしてることをことわってる。

あと、1行めの Πηληϊάδεωε を[j]として発音してる。たしかによくそういうふうにもいわれてるんだけど、すごくみじかい[ĕ]ってことだってありえるんじゃないかな。それに、ここみたいにそのまんまだと3モーラになるばあいはほかにもあって、ながい母音のあとに子音がふたつ以上つづいてたりするとそうなる。そのばあい全体としてみじかめに発音するか、そのながい母音がすこしみじかくなったりしたもしれないから、ここだって、-δεω を全体としてみじかく発音するか、ω がすこしみじかくなるなんてこともかんがえられるんじゃないかとおもう。

このサイトには、ほかに、Clyde Pharr “Homeric Greek: A Book for Beginners” の補足とか、古代ギリシャ語の方言の解説とか、韻律の解説、それに、古典ギリシャ語の “haiku” (俳句)とか詩のかきかた、古代ギリシャの詩の注釈つきテキストなんかがある。

“haiku” については、もともとの5・7・5は音節の数じゃなくてモーラ(拍)なんだから、外国にひろまった “haiku” は音節の数でつくってるにしても、古典ギリシャ語でつくるんならモーラの数でやればいいとおもうんだけど、そうはしてない。5音節と7音節のギリシャの韻律をつかってる。

Kommission für antike Literatur (Commission for Ancient Literature)」(英語・ドイツ語)ってサイトには「Classical Greek Pronunciation」ってページがあって、ホメーロスとアイスキュロスとプラトーンをよんでる。いまの西洋人の発音だから、ところどころながい母音が不正確だったり、ながい母音と二重母音についてる鋭アクセントが曲アクセントみたいになってたりするけど、全体としてはなかなかいい。

アクセントについてはほかのサイトにはない特徴があって、A. M. Devine/L. D. Stephens “The Prosody of Greek Speech” (Oxford University Press) にかいてあることにしたがってる。このアクセントの説については基本的に賛成だから、参考記事の「古典ギリシャ語のアクセントの発音」にだいたいのことを説明してある。

それから、有気音(χ [kʰ], θ [tʰ], φ [pʰ])と無気音(κ [k], τ [t], π [p])の区別をちゃんとしようとしてて、無声無気の閉鎖音(k, t, p)が有声音(g, d, b)みたいにきこえたりする。有気音は北ドイツの k, t, p で、無気音は南ドイツの k=g, t=d, p=b だって説明してるからこうなるんだろうけど、そういえば、イタリア語とかスペイン語の閉鎖音が無気音で、おんなじように有声音にきこえることがあるから(気音がある日本語、ないロマンス語」)、これはこれでいいのかな…。それと、ει はせまい[エー]じゃなくて[エイ]、ζ は[zd]じゃなくて[z]。母音のまえの σ がドイツ語式に[z]になっちゃってるとこもある。

あと、このサイトではホメーロスの朗唱もきける(「Homeric Singing」)。もちろん学者が復元したものだけど、伴奏つきの歌(っていうか伝統邦楽でいう「かたりもの」だろうけど)で『オデュッセイア』の一部がきける。このサイトはこれがいちばんおもしろい。ζ は[zz]になってるとこと[zd]になってるとこがある。

Harvard Classics Prose and Poetry Recital Page」(英語)は古代ギリシャ・ローマの詩の朗読がきける。ギリシャ語のページはふたつあって、どっちも『イーリアス』をよんでる。男のひとがよんでるほうは、ει は[エイ]で、η は広い[エー](こまかくいうと[ɛː]のときと[æː]のときがある)。θ φ χ は摩擦音の[θ][f][x]。ζ は[zz]。下がきのイオータは発音してるし、かさね子音(λλ とか ττ とか)もちゃんと発音してる。でも、アクセントは無視。ただし、ながい母音はだいたいはわるくないし、韻律のリズムもわかる。それから、音声つきの韻律関係の説明もあっておもしろいけど、2音節の単語でたかさアクセントはあってもストレスがないなんてことを問題にしてるのは西洋人らしい。女のひとのほうもおんなじような感じだけど、韻律のリズムがわかりにくいし、イマイチ。

S. G. Daitz “The Pronunciation and Reading of Ancient Greek: A Practical Guide” (Audio-Forum [Jeffrey Norton Publishers]) っていうCD(またはカセット)とブックレットの教材がある。「The Living Voice of Greek and Latin Literature」ってシリーズのひとつで、このシリーズには古典作品の朗読もある。Daitz ってひとのほかになん人かがふきこんでるんだけど、とくにこのひとのよみかたがやたらとヘンな表情つけすぎ。それに曲アクセントの発音がちょっとおかしいとおもう。わざわざ最初にひくいとこからちょこっとあげる必要はないはず。最初っからたかいとこからはじまればいいだけのことで、前半の1モーラのなかであげさげがあるのはおかしいんじゃないかな。曲アクセントがこれだったら、みじかい母音の鋭アクセントだってただたかくするだけじゃなくて、最初にひくいとこからあげなきゃいけなくなる。それに、発音のピッチを測定してグラフなんかにすると、ただたかくしてるように意識して、そうきこえてもいる発音でも、実際にはちょこっとあげる部分があったりするから、曲アクセントが最初にちょっとあげなきゃいけないようなものだったとしても、自然にそうなるわけで、わざわざはっきりきこえるほどにそうする必要はないだろう。

このシリーズの一部が「Society for the Oral Reading of Greek and Latin Literature」(英語)ってサイトできけるけど(ラテン語もある。ギリシャ語のページはここ)、やっぱりながい母音とアクセントがところどころ不正確。ながい母音がちゃんとながくなかったり、みじかい母音をながめに発音してたり、ながい母音と二重母音についてる鋭アクセントが曲アクセントみたいになってるとこがあったりする。それから、みじかい[エ]つまり ε をせまい[エ]で発音してる。この教材は W. S. Allen の “Vox Graeca” (Cambridge University Press) にもとづいてるっていうんだけど、Allen の本には、ε がせまい[エ]だったっていうのはたぶんまちがいだってかいてある。それとか、ちょっとした特徴として、復元したとおりに有声子音のまえにあるシグマは有声音[z]になってる。これは単語のおわりのシグマでもそう。あと、重アクセントはアクセントをうしなったものとしてよんでる。

このサイトには Daitz 以外のひとがよんでるのもあって、そっちのほうがいいような…。そのひとつ、ピンダロスの朗読をきいてたら、なんだかサンスクリット語をきいてるような気がしてきた。まえにきいたことがあるサンスクリット語の朗読が、たまたまにたような声のひとだったからなのかもしれないけど、案外ほんとに古代ギリシャ語はきいた感じがサンスクリット語ににてたのかも? まあ、でも、とにかく全体としてはそんなにわるくはないか。復元した古典式だし。

Classical Language Instruction Project」(英語)は、ちがう種類の発音がきける(ラテン語もある)。『イーリアス』の最初のとこが3種類あって、ひとつめは Erasmic pronunciation (エラスムス式発音)ってかいてある。エラスムス式っていうのは西洋の伝統的な古典式発音のことで、国によってすこしちがいがある(古典式発音と日本語的発音」)。ここできけるエラスムス式はドイツでつかわれてる古典式で、ευζφχ はそれぞれドイツ語の eu [ɔʏ](オイ)、z [ts]、ph [f]、ch [ç](「シ」にちかい「ヒ」)」。ει は[エイ]、θ は[t](摩擦音[θ]にきこえるとこもある)。下がきのイオータは発音してない。それに、かさね子音は子音ひとつ分しか発音してない。

ふたつめは、復元した古典式(Reconstructed pronunciation)。鋭アクセントが曲アクセントみたいになってるけど、曲アクセントのほうは Daitz の発音みたいに最初にちょこっとあげてるから、そこで区別つけてるのかな。3つめは、ニコロプロス(1786-1841)ってひとが作曲した合唱曲で現代語の発音でうたってる。

プラトーンの『国家』の最初のとこもあって、これはドイツの古典式発音。あと、ピンダロスの『オリュンピア祝勝歌』もある。

Wired for Books」(英語)のなかの「Stanley Lombardo reads Homer's The Iliad, Book I」では『イーリアス』第1巻が全部きける。θ は[t]のときと[θ]のときがある。おんなじように φ も[p]のときと[f]のときがある。χ は[k]だけど、ときどきはっきり[kʰ]にしてたりする。ζ は[zz]。それから υ は[u]だったり[y]だったりする。下がきのイオータは発音してない。アクセントは無視してる感じで、母音のながさが不正確。

Translating The ODYSSEY」(英語)にある「The Rhythm of the Epic」ってページでは、『オデュッセイア』の最初のとこがきける。ローマ字にうつした原文があって、韻律の上でながいとこには曲折アクセント(circumflex)をつけてる。これは母音のながさとはべつ。それから、音節のわけかたが英語式になっててギリシャ語としてはおかしいとこがある。θ は英語の think の th の発音。υ はたいてい[ウ]。[エー]とか[エ]が英語ふうの[エイ]になってるとこもある。下がきのイオータはよんでなくて、ローマ字でもうつしてない。韻律をいかしたよみかただけど、原文の韻律を英語式におきかえたみたいな感じっていえるかもしれない。韻律で音節のながいとこをながく つよくよんでて、韻律のリズムはわかる。ギリシャ語のながい母音はそれなりにいかされてるけど、アクセントは無視。

西洋式によくあるように、つよさアクセントで古典ギリシャ語をよむやりかただと、韻律で音節のながいとこをつよくよめばアクセントと衝突する。だから韻文をよむときは単語のアクセントを無視することになる。こういうのは西洋人のよみかたとしてはいちばんふつうかも。

原文の韻律を英語式におきかえた韻律で訳してる英語訳もきける。

Ancient Greek Tutorials」(英語)のなかの「Pronunciation Guide」と「Pronunciation Practice」でも発音がきけるけど(それぞれ男性と女性の声できける。QuickTime が必要)、これもやっぱりながい母音とアクセントが不正確なのはおんなじ。それに、下がきのイオータは発音してないし、θφ を摩擦音[θ][f]でよんでる(有気音[tʰ][pʰ]でよんだサンプルもある)。ει は[エイ]、η はひろい[エー]、ζ は[zd]。かさね子音はひとつ分しか発音してない。

ここのサイトは、発音がきけるページ以外に、くわしいアクセントの説明があったり、単語とか変化形のいろんなドリルがあっておもしろい。

アーカンソー大学の教授 Daniel B. Levine っていうひとのサイト「GREEK 1003 Home Page」(英語)の「Athenaze Greek Sound Files」っていうページと、おんなじひとの「Greek 1013 Home Page 2006」っていうサイトの「Athenaze Recording. 14.1」っていうページでも、このひとがよんでるギリシャ語がきける(このページにはけっこうつづきがある)。授業で Maurice Balme & Gilbert Lawall “Athenaze: An Introduction to Ancient Greek. Book I. Second Edition” (Oxford University Press)っていう本をテキストにつかってるみたいで、このなかの ものがたりとか語いとか練習問題をよんでるから、この本がないと どうしょもないかもしれないけど、いちおうどんなもんかはわかる。この本は “Reading Greek” (Cambridge University Press)のシリーズとならんでいい入門書だとおもうけど、それはそれとして、さらに「GREEK 1003」には「Harry Potter in Ancient Greek」っていうページもあって、古代ギリシャ語訳の『ハリー・ポッターと賢者の石』(古代ギリシャ語版ハリー・ポッター」)のいちばん最初の段落をよんでる(最初に「χαίρετε, μαθηταί.」っていうあいさつがある)。

θ φ χ はアルファベットの説明のとこだと有気音としても説明はしてるけど、あとは全部摩擦音[θ][f][x/ç]で発音してる。ζ は[zd]。ειη は[エイ]だったり[エー]だったり。υ はアルファベットの説明のとこだといちおう[y]だけど、ほかはたいてい[u]。υι は[yi]じゃなくて[wi]って感じ。下がきのイオータは発音してる。それから、やっぱり英語圏のひとらしくアクセントと母音のながさは不正確だし、かさね子音もふたつ分発音してない。

Navicula Bacchi」(ドイツ語)ってサイトにはもりだくさんのギリシャ語の教材がある(ほかにラテン語・神話・哲学とかも)。でも、このサイトはページどうしのリンクがな~んかいりくんでる。ギリシャ語関係の一覧のページは「Griechisch: Verzeichnis der Dateien für den Griechischunterricht」で、そのなかの文法のとこ(「Systematische Grammatik der griechischen Sprache」)にアルファベットの説明(「Griechische Schrift: Das Alphabet」)があって、ここで発音がきけるし、練習問題のとこ(「Leseübung zum griechischen Sprachkurs」)でも発音がきけるようになってる。でもやっぱりながい母音とアクセントが不正確だし、うえにかいたみたいなドイツの古典式発音。

このほかに、新約聖書のギリシャ語のサイトでも発音をきけるとこがあるけど、それははぶいた。

いろいろきいてみると、やっぱりアクセントの発音が気になる。ラテン語だったらアクセントの位置さえまちがえなきゃいいようなもんかもしれないけど(ラテン語のアクセントの性質については説がわかれるみたいだし)、ギリシャ語のばあい3種類のアクセント記号のちがいをちゃんとしてもらいたい。母音のながさの区別については、どうもながい母音がつづいてでてくるときに、そのうちのどれかをみじかく発音しちゃうことがおおいみたいだ。

外国語の発音については、現代語みたいに直接わかることばでも、それを発音するときには正確な発音じゃなくて、自分のことばに影響された発音になっちゃうことがおおい。古典式についてもおんなじことがいえる。ここで紹介したものにしても、現代の西洋人の発音なんだから、現代西洋語なまりの部分についてはマネする必要はまったくないわけで、逆にいうと、日本語なまりだってべつにかまわないともいえる。

残念なことに、発音がきけるサイトは英語圏のひとがよんでるのがおおい(みつけてないだけかもしれないけど)。そうなると英語なまりで、たぶん古典ギリシャ語とはずいぶんちがうんじゃないかとおもう。英語はアクセントがない音節の母音をはっきり発音しない。そのために、ギリシャ語を発音するときは、それっぽくなっちゃうか、そうならないようにしたとしてもヘンな抑揚がついちゃう。それから、母音のながさにしても、英語の発音記号もみると、ながさのちがいがちゃんとあるみたいにみえるけど、実際の英語の母音っていうのはそういうもんじゃないから、母音のながさの区別もおかしくなる。

外国語っていうとまずは英語ってことになるから、外国語の発音は日本語とはかけはなれた英語っぽいもんだっておもいこんでるひともいるんじゃないかとおもうけど、ヨーロッパのことばだってそういう感じじゃないことばはたくさんあるし、なんていうかカタカナ発音みたいな感じでいけることばもけっこうある。イタリア語とかスペイン語とか現代ギリシャ語をかんがえてみればわかるだろう。古代のギリシャ語だってたぶんそうだったんじゃないかな。英語圏のひとがしゃべる日本語をかんがえてみればわかるとおもうけど、こまかいことをいわないとしても、全体としてあの感じは古典ギリシャ語とはずいぶんちがうはずだ。

英語なまりといえば、かさね子音をふたつぶん発音しないっていうのもある。でも、イタリア語ならふたつぶん発音するから、母音のことからしても子音のことからしても、イタリア人あたりが発音したものならけっこういい感じになるんじゃないかとおもう。それとか、クロアチア語には古代のギリシャ語と にたようなアクセントがあるから、クロアチア人ならギリシャ語のアクセントをうまく発音できるだろう。

うえにあげたサイトにはドイツ語圏のものもあるけど、ドイツ語にしても英語と共通の特徴があるから、英語なまりとにたようなことがある。それに、ドイツ語特有のなまりもある。

古典ギリシャ語をきくんなら、欧米人の発音だとしても、英語とかドイツ語とかのゲルマン語圏以外のひとが発音してるのをきいてみたいし(ロシア語もアクセントがない母音がよわくなるからロシア人ものぞく)、欧米以外の地域のひとの発音もきいてみたい。

古典ギリシャ語:古代ギリシャ語。 ホメーロス:ホメロス。 プラトーン:プラトン。 イーリアス:イリアス。

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2006.01.20 kakikomi; 2009.06.16 kakinaosi

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