« カワイイ | トップページ | ユビキタス »

古典ギリシャ語がきけるウェブサイト

S. G. Daitz "The Pronunciation and Reading of Ancient Greek: A Practical Guide" (Audio-Forum [Jeffrey Norton Publishers]) っていうCD(またはカセット)とブックレットの教材がある。「The Living Voice of Greek and Latin Literature」ってシリーズのひとつで、このシリーズには古典作品の朗読もある。Daitz ってひとのほかになん人かがふきこんでるんだけど、とくにこのひとのよみかたがやたらとヘンな表情つけすぎ。それに曲アクセントの発音がちょっとおかしいとおもう。わざわざ最初にひくいとこからちょこっとあげる必要はないはず。最初っからたかいとこからはじまればいいだけのことで、前半の1モーラのなかであげさげがあるのはおかしいんじゃないかな。曲アクセントがこれだったら、みじかい母音の鋭アクセントだってただたかくするだけじゃなくて、最初にひくいとこからあげなきゃいけなくなる。それに、発音のピッチを測定してグラフなんかにすると、ただたかくしてるように意識して、そうきこえてもいる発音でも、実際にはちょこっとあげる部分があったりするから、曲アクセントが最初にちょっとあげなきゃいけないようなものだったとしても、自然にそうなるわけで、わざわざはっきりきこえるほどにそうする必要はないだろう。

このシリーズの一部は、「Society for the Oral Reading of Greek and Latin Literature」(英語)ってサイトできけるけど(ラテン語もある。ギリシャ語のページはここ)、やっぱりながい母音とアクセントがところどころ不正確。ながい母音がちゃんとながくなかったり、みじかい母音をながめに発音してたり、ながい母音と二重母音についてる鋭アクセントが曲アクセントみたいになってるとこがあったりする。それから、みじかい「エ」つまり「ε」をせまい「エ」で発音してる。この教材は W. S. Allen の "Vox Graeca" (Cambridge University Press) にもとづいてるっていうんだけど、Allen の本には、「ε」がせまい「エ」だったっていうのはたぶんまちがいだってかいてある。それとか、ちょっとした特徴として、復元したとおりに有声子音のまえにあるシグマは有声音[z]になってる。これは単語のおわりのシグマでもそう。あと、重アクセントはアクセントをうしなったものとしてよんでる。

このサイトには Daitz 以外のひとがよんでるのもあって、そっちのほうがいいような…。そのひとつ、ピンダロスの朗読をきいてたら、なんだかサンスクリット語をきいてるような気がしてきた。まえにきいたことがあるサンスクリット語の朗読が、たまたまにたような声のひとだったからなのかもしれないけど、案外ほんとに古代ギリシャ語はきいた感じがサンスクリット語ににてたのかも? まあ、でも、とにかく全体としてはそんなにわるくはないか。復元した古典式だし。


Kommission für antike Literatur (Commission for Ancient Literature)」(英語・ドイツ語)ってサイトには「Classical Greek Pronunciation」ってページがあって、ホメーロス〔ホメロス〕とアイスキュロスとプラトーン〔プラトン〕をよんでる。やっぱりいまの西洋人の発音だから、ところどころながい母音が不正確だったり、ながい母音と二重母音についてる鋭アクセントが曲アクセントみたいになってたりするけど、全体としてはなかなかいい。

アクセントについてはほかのサイトにはない特徴があって、A. M. Devine/L. D. Stephens "The Prosody of Greek Speech" (Oxford University Press) にかいてあることにしたがってる。これについての説明は、このサイトの「G. Danek/S. Hagel: Homer-Singen」(ドイツ語、PDF版はここ)にもあるんだけど、アクセント記号があるとこだけをたかくするんじゃなくて、単語(ばあいによっては単語のグループ)のあたまからアクセント記号のとこまでゆるやかにあがってって、アクセント記号のあと急にさがるっていうふうにしてる。アクセントは、アクセントのあとのさがるとこが重要だっていってるけど、この点は日本語の(東京の)アクセントとおんなじだ。重アクセントはただアクセントがなくなるわけじゃなくて、鋭アクセントのばあいよりはひくくなって、そのあとさがらないでつぎにつづく。ここのサイトの説明はドイツ語だけど、アクセントの説明の図があるから、それをみればわかりやすいとおもう。

それから、有気音(χ[kʰ], θ[tʰ], φ[pʰ])と無気音(κ[k], τ[t], π[p])の区別をちゃんとしようとしてて、無声無気の閉鎖音(k, t, p)が有声音(g, d, b)みたいにきこえたりする。有気音は北ドイツの「k, t, p」、無気音は南ドイツの「k=g, t=d, p=b」って説明してるからこうなるんだろうけど、そういえば、イタリア語とかスペイン語の閉鎖音が無気音で、おんなじように有声音にきこえることがあるから(→「気音がある日本語、ないロマンス語」)、これはこれでいいのかな…。それと、「ει」はせまい「エー」じゃなくて「エイ」、「ζ」は[zd]じゃなくて[z]。母音のまえの「σ」がドイツ語式に[z]になっちゃってるとこもある。

あと、このサイトではホメーロスの朗唱もきける(「Homeric Singing」)。もちろん学者が復元したものだけど、伴奏つきの歌(っていうか伝統邦楽でいう「かたりもの」だろうけど)で『オデュッセイア』の一部がきける。このサイトはこれがいちばんおもしろい。「ζ」は[zz]になってるとこと[zd]になってるとこがある。


Aoidoi.org」(英語)のなかの「Reciting the Heroic Hexameter [PDF]」の『イーリアス〔イリアス〕』の朗読は、いままでにきいたことがある西洋人の発音とちがって、すごくいいとおもった。ながい母音と二重母音についてる鋭アクセントがおかしいとこがちょこっとあるけど、それ以外はすごくまとも。ただし、Allen の説とちがって、有気音がふたつつづくばあい(「φθ[pʰtʰ]」とか「χθ[kʰtʰ]」とか)は、最初の子音は無気音として[ptʰ][ktʰ]って発音してる(これはちがうとおもう)。それに「ει」も「エイ」っていってる。曲アクセントは、Daitz とちがって、最初にちょこっとあげるなんてことはしてない。重アクセントはアクセントをうしなったものとして発音してる。

このサイトには、ほかに、Clyde Pharr "Homeric Greek: A Book for Beginners" の補足とか、古代ギリシャ語の方言の解説とか、韻律の解説、それに、古典ギリシャ語の“haiku”(俳句)とか詩のかきかた、古代ギリシャの詩の注釈つきテキストなんかがある。

“haiku”については、もともとの5・7・5は音節の数じゃなくてモーラ(拍)なんだから、外国にひろまった“haiku”は音節の数でつくってるにしても、古典ギリシャ語でつくるんならモーラの数でやればいいとおもうんだけど、そうはしてない。5音節と7音節のギリシャの韻律をつかってる。


Harvard Classics Prose and Poetry Recital Page」(英語)は古代ギリシャ・ローマの詩の朗読がきける。ギリシャ語のページはふたつあって、どっちも『イーリアス』をよんでる。男のひとがよんでるほうは、「ει」は「エイ」で、「η」は広い「エー」(こまかくいうと[ε:]のときと[æ:]のときがある)。「θ」「φ」「χ」は摩擦音の[θ][f][x]。「ζ」は[zz]。したがきのイオータは発音してるし、かさね子音(「λλ」とか「ττ」とか)もちゃんと発音してる。でも、アクセントは無視。ただし、ながい母音はだいたいはわるくないし、韻律のリズムもわかる。それから、音声つきの韻律関係の説明もあっておもしろいけど、2音節の単語でたかさアクセントはあってもストレスがないなんてことを問題にしてるのは西洋人らしい。女のひとのほうもおんなじような感じだけど、韻律のリズムがわかりにくいし、イマイチ。


Classical Language Instruction Project」(英語)は、ちがう種類の発音がきける(ラテン語もある)。『イーリアス』の最初のとこが3種類あって、ひとつ目は「Erasmic pronunciation」(エラスムス式発音)ってかいてある。エラスムス式っていうのは西洋の伝統的な古典式発音のことで、国によってすこしちがいがある(→「古典式発音と日本語的発音」)。ここできけるエラスムス式はドイツでつかわれてる古典式で、「ευ」「ζ」「φ」「χ」はそれぞれドイツ語の「eu[ɔy/オイ]」「z[ʦ]」「ph[f]」「ch[ç](「シ」にちかい「ヒ」)」。「ει」は「エイ」、「θ」は[t](摩擦音[θ]にきこえるとこもある)。したがきのイオータは発音してない。それに、かさね子音は子音ひとつ分しか発音してない。

ふたつ目は、復元した古典式(Reconstructed pronunciation)。鋭アクセントが曲アクセントみたいになってるけど、曲アクセントのほうは Daitz の発音みたいに最初にちょこっとあげてるから、そこで区別つけてるのかな。3つ目は、ニコロプロス(1786-1841)ってひとが作曲した合唱曲で現代語の発音でうたってる。

プラトーンの『国家』の最初のとこもあって、これはドイツの古典式発音。あと、ピンダロスの『オリュンピア祝勝歌』もある。


Wired for Books」(英語)のなかの「Stanley Lombardo reads Homer's The Iliad, Book I」では『イーリアス』第1巻が全部きける。「θ」は[t]のときと[θ]のときがある。おんなじように「φ」も[p]のときと[f]のときがある。「χ」は[k]だけど、ときどきはっきり[kʰ]にしてたりする。「ζ」は[zz]。それから「υ」は[u]だったり[y]だったりする。下がきのイオータは発音してない。アクセントは無視してる感じで、母音のながさが不正確。


Translating The ODYSSEY」(英語)にある「The Rhythm of the Epic」ってページでは、『オデュッセイア』の最初のとこがきける。ローマ字にうつした原文があって、韻律の上でながいとこには曲折アクセント(circumflex)をつけてる。これは母音のながさとはべつ。それから、音節のわけかたが英語式になっててギリシャ語としてはおかしいとこがある。「θ」は英語の「think」の「th」の発音。「υ」はたいてい「ウ」。「エー」とか「エ」が英語ふうの「エイ」になってるとこもある。下がきのイオータはよんでなくて、ローマ字でもうつしてない。韻律をいかしたよみかただけど、原文の韻律を英語式におきかえたみたいな感じっていえるかもしれない。韻律で音節のながいとこをながく つよくよんでて、韻律のリズムはわかる。ギリシャ語のながい母音はそれなりにいかされてるけど、アクセントは無視。

西洋式によくあるように、つよさアクセントで古典ギリシャ語をよむやりかただと、韻律で音節のながいとこをつよくよめばアクセントと衝突する。だから韻文をよむときは単語のアクセントを無視することになる。こういうのは西洋人のよみかたとしてはいちばんふつうかも。

原文の韻律を英語式におきかえた韻律で訳してる英語訳もきける。


Ancient Greek Tutorials」(英語)のなかの「Pronunciation Guide」と「Pronunciation Practice」でも発音がきけるけど(それぞれ男性と女性の声できける)、これもやっぱりながい母音とアクセントが不正確なのはおんなじ。それに、下がきのイオータは発音してないし、「θ」と「φ」を摩擦音[θ][f]でよんでる(有気音[tʰ][pʰ]でよんだサンプルもある)。「ει」は「エイ」、「η」はひろい「エー」、「ζ」は[zd]。かさね子音はひとつ分しか発音してない。

ここのサイトは、発音がきけるページ以外に、くわしいアクセントの説明があったり、単語とか変化形のいろんなドリルがあっておもしろい。


Navicula Bacchi」(ドイツ語)ってサイトにはもりだくさんのギリシャ語の教材がある(ほかにラテン語・神話・哲学とかも)。でも、このサイトはページどうしのリンクがな~んかいりくんでる。ギリシャ語関係の一覧のページは「Griechisch: Verzeichnis der Dateien für den Griechischunterricht」で、そのなかの文法のとこ(「Systematische Grammatik der griechischen Sprache」)にアルファベットの説明(「Griechische Schrift: Das Alphabet」)があって、ここで発音がきけるし、練習問題のとこ(「Leseübung zum griechischen Sprachkurs」)でも発音がきけるようになってる。でもやっぱりながい母音とアクセントが不正確だし、上にかいたみたいなドイツの古典式発音。


いろいろきいてみると、やっぱりアクセントの発音が気になる。ラテン語だったらアクセントの位置さえまちがえなきゃいいようなもんかもしれないけど(ラテン語のアクセントの性質については説がわかれるみたいだし)、ギリシャ語のばあい3種類のアクセント記号のちがいをちゃんとしてもらいたい。母音のながさの区別については、どうもながい母音がつづいてでてくるときに、そのうちのどれかをみじかく発音しちゃうことがおおいみたいだ。


関連記事
 ・古典式発音と日本語的発音
 ・古代ギリシャの韻律

ギリシャ語][ラテン語][パソコン・インターネット][