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つづりをかえてきたドイツ語

ドイツ語は最近正書法に手をいれたけど、だいたい100年まえにも正書法をかえてる。これは、いまのつづりになおした本じゃなくて、19世紀にでた印刷物でもみてみれば、はっきりわかる。rot が roth だったり Tür が Thür だったりして、いまはなくなった h があったり、Klavier が Clavier だったり publizieren が publiciren だったりで、c がそれだけでいまよりつかわれてる。こういう外来語の c は、いまじゃ発音に応じて k か z になった。

そういうちがいのなかでおもしろいのは、属格(Genitiv、2格)にアポストロフィーをつかってることだ。たとえば、「ワーグナーの」っていうのはいまなら Wagners だけど、19世紀の印刷物で英語みたいに Wagner's になってるのをみたことがある。

英語の所有格の起源はドイツ語の属格 -(e)s とおんなじで、ふるくは -es ってかいてたけど、17世紀のすえごろから e を省略してアポストロフィーをつけるようになった。当時の印刷物をみると、過去・過去分詞の -ed も発音しない e を略してアポストロフィーをつけてたりする(《メサイア》の「incorruptible」」で引用した《メサイア》の歌詞を参照)。いまじゃ発音とは関係なしに、所有格のほうは e を省略してアポストロフィーをつけて、過去・過去分詞は -ed ってことになったわけだけど、どういうちがいなんだろ。複数形の -s と区別するため? でも、省略語と記号の複数にはアポストロフィーをつかうよなあ。

で、今回のドイツ語のつづりの手なおしで目だつのは ß (エスツェット)のつかいかただろう。たとえば daß が dass、Kuß が Kuss、bißchen が bisschen、mußt が musst っていうふうに、みじかい母音のあとは ss になった。いままでは ß のまえの母音がながいかみじかいかつづりからはわかんなかったんだけど、おかけでわかりやすくなった。

ほかに印象的なことがいくつかある。複合語でおんなじ文字が3つもつづいちゃうときは、いままではひとつなくしてふたつにしてたんだけど、今度っからはそういうことはしなくなって、そのまんまかくことになった。ただし、そういうばあいはハイフンでつないでもいいことになってる。たとえば、Bestell+Liste がいままでの Bestelliste じゃなくて Bestellliste か Bestell-Liste になった。それから ß が ss になったものもこれに関係してきて、Bass (いままでは Baß)+Sänger は Baßsänger だったのが Basssänger か Bass-Sänger になった。ほかにこんなのもある。Fluss (いままでは Fluß)+Schiff+Fahrt は Flußschiffahrt だったのが Flussschifffahrt か Fluss-Schifffahrt になった。それから Schifffahrt なら Schiff-Fahrt でもいい。

あと、つづりをわけるとき、ck は kk になおしてこのふたつをわけてたけど、今度っからは ck はわけないことになった。たとえば Zucker は Zuk-ker っていうふうにきってたけど、Zu-cker ってことになった。

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 ・田中克彦『エスペラント』のなかの日本語についての文章
 ・《メサイア》の「incorruptible」

2006.01.10 kakikomi

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