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意味をつよめるかさね子音

日本語の促音、つまりちいさい「っ」であらわされるつまる音は、おもにやまとことばのばあいに意味をつよめるはたらきがあるっていわれてて、たとえば、「やはり」から「やっぱり」ができたり、「よほど」から「よっぽど」ができたりしたのに、それがあらわれてる。べつの単語ができるんじゃなくて、「たくさん」をつよめて「たっくさん」なんていうのもそうだ。このあたりは擬音語の感覚に通じるものがあるだろう。それから「にほん」と「にっぽん」のちがいについてもおんなじことで、オリンピックのときなんかによくつかわれる「にっぽん」は「にほん」をつよめたかたちだとかいわれることがある。

「日本」は漢語だから、もともとはこの性質にはあてはまらないはずだけど、「にほん」っていうかたちがもとの漢字音とはちがってるから、やまとことばあつかいなのかもしれない。ただし、「とても」をつよめて「とっても」ができたのとは逆で、「日本」は最初 nitpon って感じの発音だったのが「にっぽん」になって、それから「にほん」ってかたちもできたわけだから、もともとは「にほん」をつよめたのが「にっぽん」ってことじゃなかった。それでも、つまる音のつよめるはたらきがここにもあてはめられて、いまの「にほん」と「にっぽん」の意味あいのちがいがでてきてるわけだ。

こういうつまる音、つまりかさね子音のはたらきは、そもそもかさね子音がないことばのばあいは問題にならないけど、かさね子音があっても日本語とおんなじはたらきがあるとはかぎらないだろう。っていうか、いまの言語学からすれば、発音そのものの意味あいなんていうのはかんがえないみたいだから、こんなものは日本語だけの約束ごとだってことになるのかもしれない。それでも、かさね子音で意味をつよめるっていうことばは日本語以外にもあることはある。

それはセム語族のことばで、その代表としてヘブライ語とアラビア語の例をあげてみよう。日本語のばあい、それほど組織的にこの性質をつかって単語をつくってるわけじゃないけど、セム語だと、かさね子音をつかって規則的に動詞の変化形をつくるから、ずっと組織的だ。

ヘブライ語の動詞には、基本形を変化させたピエルっていわれるかたちがあって、基本形よりもはげしい動作とかくりかえしをあらわす。強意語幹なんていうこともある。これは使役の意味になるばあいもあるけど(使役語幹はまたべつにあるんだけど)、使役だって、ほかのものにはたらきかけるってことだから、つよめの一種ともいえるだろう。ヘブライ語の単語はたいてい3つの子音が語根になってて、それが基本的な意味をもってるんだけど、ピエルはこの語根の2番目の子音をかさねてつくられる。つまり日本語のつまる音みたいに、かさね子音が意味をつよめてるわけだ。

たとえば שבר šābhar [シャーバル](わる、こわす、くだく)が שבר šibbēr [シッベール]になると「うちくだく、こなごなにする」って意味になるし、הלך hālakh [ハーラク](あるく)が הלך hillēkh [ヒッレーク]になると「あるきつづける」って意味になる。使役の例なら、למד lāmadh [ラーマド](まなぶ)が למד limmēdh [リンメード](おしえる)になる。

ちなみに、いまのイスラエルのヘブライ語の発音だと、ふだんのはなしことばじゃかさね子音を忠実に発音することはほとんどなくて、テレビとかラジオの放送だったり、聖書とか詩の朗読のばあいにだけ、ちゃんとしたかさね子音の発音をまもってるらしい。それから、いまの発音だと母音のながさの区別もなくなってる。

ヘブライ語のばあい、ピエルは母音も変化してるからちょっとわかりにくいかもしれないけど、アラビア語ならこのへんもっとわかりやすいかもしれない。アラビア語もやっぱり基本的な語根は3つの子音で、2番目の子音をかさねて、第2形っていうのをつくる。意味も基本的にヘブライ語とおんなじで、はげしい運動とかくりかえし、それに使役の意味なんかもある。

たとえば كسر kasara [キャサラ](おる、こわす)が كسر kassara [キャッサラ]になると「くだく、こなごなにする」って意味になるし、ضرب araba [ダラバ](うつ)が ضرب arraba [ダッラバ]になると「はげしくうつ、くりかえしうつ」って意味になる。

こういうふうに、日本語とは関係ないことばでもにたようなことがあるってことからすると、かさね子音が意味をつよめるっていうのは、たんなる日本語だけの約束ごとじゃなくて、発音があらわす意味あいとして、それなりに客観的なものがあるんじゃないのかな。

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2006.02.14 kakikomi

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