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「主の祈り」(2) ラテン語

ラテン語訳の聖書っていえば「ウルガタ(Vulgata)」ってことになるけど、これは4世紀すえにできた。Vulgata ってなまえのもとになった形容詞 vulgātus は、「通常の、一般の、公開された、すべてのひとびとに しられた」っていう意味がある。

このラテン語訳で『マタイによる福音書』(6.9-13)の「主の祈り」はこうなってる(改行は「「主の祈り」(1) ギリシャ語」にあげた日本語版にあわせた。以下おなじ)。

Pater noster, qui in caelis es,
sanctificetur nomen tuum,
veniat regnum tuum,
fiat voluntas tua,
sicut in caelo, et in terra.
panem nostrum supersubstantialem da nobis hodie;
et dimitte nobis debita nostra,
sicut et nos dimisimus debitoribus nostris;
et ne inducas nos in temptationem,
sed libera nos a malo.

パテル ノステル、クィー イン カエリース エス、
サーンクティフィケートゥル ノーメン トゥウム、
ウェニアト レーク゚ヌム トゥウム、
フィーアト ウォルンタース トゥア、
スィークト イン カエロー、エト イン テッラー。
パーネム ノストルム スペルスプスタンティアーレム ダー ノービース ホディエー、
エト ディーミッテ ノービース デービタ ノストラ、
スィークト エト ノース ディーミースィムス デービトーリブス ノストリース、
エト ネー インドゥーカース ノース イン テンプターティオーネム、
セド リーベラー ノース アー マロー。

キリスト教のものを古典式によむのはどうかともおもうけど、発音はいちおう古典式にしといた。

バチカンのサイトには「Nova Vulgata (Bibliorum Sacrorum Editio)」っていうのがあって、この「新ウルガタ」だと、文章がすこしちがってる(発音はローマ式)。

Pater noster, qui es in caelis,
sanctificetur nomen tuum,
adveniat regnum tuum,
fiat voluntas tua,
sicut in caelo, et in terra.
Panem nostrum supersubstantialem da nobis hodie;
et dimitte nobis debita nostra,
sicut et nos dimittimus debitoribus nostris;
et ne inducas nos in tentationem,
sed libera nos a Malo.

パテル ノステル、クィ エス イン チェリス、
サンクティフィチェトゥル ノメン トゥウム、
アドヴェニアト レ(ン)ニュム トゥウム、
フィアト ヴォルンタス トゥア、
スィクト イン チェロ、エト イン テッラ。
パネム ノストルム スペルスブスタンツィアレム ダ ノビス オディエ、
エト ディミッテ ノビス デビタ ノストラ、
スィクト エト ノス ディミッティムス デビトリブス ノストリス、
エト ネ インドゥカス ノス イン テンタツィオネム、
セド リベラ ノス ア マロ。

ちがいは、1行めの語順、3行めの veniat と adveniat、8行めの dimisimus と dimittimus、9行めの temptationem と tentationem。まあ、それほどのちがいでもないか。それと、小文字か大文字かっていうのもあるけど、これは校訂者の判断でどうにでもなるから、とりあえずかんがえない。

それから、ウルガタとはちがうのか、写本によるちがいなのかわかんないけど、ラテン語の「主の祈り」のなかには、6行めの supersubstantialem が quotidianum/cotidianum になってるのがある(発音は古典式なら[クォティーディアーヌム/コティーディアーヌム]、ローマ式なら[クォティディアヌム/コティディアヌム])。これは、原文の ἐπιούσιος [epiǔːsios エピウースィオス]の解釈によるちがいだ(「主の祈り」(1) ギリシャ語」「ベーシック・イングリッシュ訳の聖書」)。

あと、新共同訳でも口語訳でも本文として採用してなかった最後の1行はウルガタにもないみたいだけど、ラテン語の「主の祈り」でこれがついてるものもある。

Quia tuum est regnum et potestas et gloria in saecula [aeterna]. Amen.

クィア トゥウム エスト レーク゚ヌム エト ポテスタース エト グローリア イン サエクラ [アエテルナ]。アーメーン。

クィア トゥウム エスト レ(ン)ニュム エト ポテスタス エト グロリア イン セクラ [エテルナ]。アメン。

発音は、ひとつめが古典式、ふたつめがローマ式。saecula のかわりに、カッコにいれた aeterna になってるのもある。

つぎは単語の説明(発音は古典式):
pater:「父」(男性)の単数・呼格(主格とおんなじかたち)。
noster:所有形容詞「わたしたちの」の男性・単数・呼格。
quī:関係代名詞、男性・単数・主格。ギリシャ語の原文には関係代名詞と動詞はないけど、ラテン語訳でこういうふうに関係代名詞と動詞(es)をつかった訳になってるもんだから、近代語訳でもこれにならった訳になってるものがある(「主の祈り」(3) ドイツ語」「「主の祈り」(4) 英語」)。
in:「~に、~において」。
caelīs:「caelum [カエルム]:天」(中性)の複数・奪格。
es:「sum [スム]:ある、いる、~である」の直説法・現在・2人称・単数。
sānctificētur:「sānctificō [サーンクティフィコー]:きよめる、神聖にする」の受動態・接続法・現在・3人称・単数。
nōmen:「名まえ」(中性)の単数・主格。
tuum:所有形容詞「tuus [トゥウス]:あなたの」の中性・単数・主格。
veniat:「veniō [ウェニオー]:くる」の能動態・接続法・現在・3人称・単数。
[adveniat:「adveniō [アドウェニオー]:~へくる、~へ到着する」の能動態・接続法・現在・3人称・単数。]
rēgnum:「王国」(中性)の単数・主格。
fīat:「fīō [フィーオー]:なる、おこなわれる」の接続法・現在・3人称・単数。
voluntās:「意志」(女性)の単数・主格。
tua:所有形容詞「あなたの」の女性・単数・主格。
sīcut:「~のように」。
caelō:「天」の単数・奪格。
et:「そして、~もまた、と」。
terrā:「terra [テッラ]:地、大地、土地」(女性)の単数・奪格。
pānem:「pānis [パーニス]:パン」(男性)の単数・対格。
nostrum:所有形容詞「わたしたちの」の男性・単数・対格。
supersubstantiālem:「supersubstantiālis [スペルスプスタンティアーリス]:生命を維持するのに必要な」の男性・単数・対格。
[quotīdiānum/cotīdiānum:「quotīdiānus [クォティーディアーヌス]/cotīdiānus [コティーディアーヌス]:毎日の、日常の」の男性・単数・対格。]
dā:「dō [ドー]:あたえる」の能動態・命令法・現在・2人称・単数。
nōbīs:「わたしたちに」、人称代名詞の1人称・複数・与格。
hodiē:「きょう」。
dīmitte:「dīmittō [ディーミットー]:おくる、はなつ、ゆるす」の能動態・命令法・現在・2人称・単数。
dēbita:「dēbitum [デービトゥム]:義務、債務」(中性)の複数・対格。
nostra:所有形容詞「わたしたちの」の中性・複数・対格。
nōs:「わたしたちを」、人称代名詞の1人称・複数・対格。
dīmīsimus:「おくる、はなつ、ゆるす」の能動態・直説法・完了・1人称・複数。
[dīmittimus:「おくる、はなつ、ゆるす」の能動態・直説法・現在・1人称・複数。原文のギリシャ語でも現在形になってるものもある。]
dēbitōribus:「dēbitor [デービトル]:負債者、債務者、おい目のあるひと」(男性)の複数・与格。
nostrīs:所有形容詞「わたしたちの」の男性・複数・与格。
nē:禁止をあらわす。
indūcās:「indūcō [インドゥーコー]:みちびきいれる」の能動態・接続法・現在・2人称・単数。
temptātiōnem:「temptātiō [テンプターティオー]:誘惑、こころみ」(女性)の単数・対格。
[tentātiōnem:「tentātiō [テンターティオー]=temptātiō」(女性)の単数・対格。]
sed:「しかし」。
līberā:「līberō [リーベロー]:自由にする、解放する」の能動態・命令法・現在・2人称・単数。
ā:「~から」。
malō:「malus [マルス]:わるい」の男性(または中性)・単数・奪格。男性なら「わるもの」、中性なら「悪、わるいこと」。
quia:「それというのは」。
est:「ある、いる、~である」の直説法・現在・3人称・単数。
potestās:「ちから」(女性)の単数・主格。
glōria:「名声、栄光」(女性)の単数・主格。
saecula:「saeculum [サエクルム]:世代、時代、一生、ながい期間」(中性)の複数・対格。「in saecula」で「永遠に」。
[aeterna:「aeternum [アエテルヌム]:永遠」(中性)の複数・対格。]
amen:「アーメン」。もとはヘブライ語の אמן ʼāmēn [アーメーン]で、「たしかに、ほんとうに、そうなりますように」。

ウルガタ:ヴルガタ。

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 ・「主の祈り」(4) 英語
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 ・ラテン語の発音(古典式とローマ式)

2006.05.01 kakikomi; 2011.07.12 kakinaosi

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