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曜日の由来(1) 曜日の順序と1週間

「1週間についての1行詩(μονόστιχον εἰς τὴν ἑβδομάδα [monóstikʰon eːstɛ̌ːn hebdomáda モノスティコン エ~ス テーン ヘブドマダ])」っていうタイトルがついてる詩がある(『ギリシャ詞花集』9.491。韻律はヘクサメトロス)。

Ζεύς, Ἄρης, Παφίη, Μήνη, Κρόνος, Ἥλιος, Ἑρμῆς.

[zěus ǎːrɛːs papʰíɛː mɛ̌ːnɛː krónos hɛ̌ːlios hermɛ̂ːs]

――|―∪∪|――|―∪∪|―∪∪|――

木曜、火曜、金曜、月曜、土曜、日曜、水曜。

「1週間について」っていうんだから、訳としては「木曜日、火曜日、……」のほうがいいのかもしれないけど、原文がただ七惑星をならべただけだから、どっちともとれるようにしといた(むかしの惑星には太陽と月もふくまれる)。まえにもかいたけど(サンスクリット語の惑星と曜日の名まえと日本語の曜日)、「曜」は「かがやく」ってことから「星」の意味もあるから、「木曜」っていうのは「木星」のことで、「木曜日」は「木星の日」っていう意味だ(「月曜」は「月」、「日曜」は「太陽」)。

この詩にでてくる惑星の名まえは神がみの名まえで(西洋の惑星の名まえ」)、そのなかでふたつがふつうの名まえとはちょっとちがってる。Παφίη [パピエー]はアプロディーテーの別名で、もともとは Πάφιος [pápʰios パピオス](パポスの)っていう形容詞の女性形。キプロス島のパポスって町にアプロディーテーの神殿があって、このことにちなんでこの名まえでもよばれるようになった。Μήνη [メーネー]は月だけど、おもに詩でつかわれることばで、ふつうは Σελήνη [selɛ̌ːnɛː セレーネー]っていう。

ところで、この詩の曜日の順序はなんの順番だかわかんない。「パピエー」なんて名まえをつかってることもふくめて、たぶん韻律にあうようにならべただけなんだろう。とにかく、曜日の順序とも、むかしのいろんな惑星の順序ともちがう。もっとも、そんなことをいえば、曜日は惑星の日ってことなのに、曜日の順番はそもそも惑星の順序とはちがってるか。で、曜日の順番ってのはどうやってきまったのかっていうと…。

曜日の順番がきまったのは紀元前後のころらしい。これがきまるためには、まず惑星の順序がきまらなきゃいけなくて、それに、エジプトではじまった、1日を24時間にわけるやりかたがむすびつく必要があった。

むかしの天動説で惑星の順序っていうといろんなのがあって、とくに水星と金星と太陽の順序が問題だったんだけど、そのなかで代表的なものとしてはプトレマイオスも採用したならびかたがある。地球からいちばんとおい惑星から順にならべると、

土星 木星 火星 太陽 金星 水星 月

っていうふうになる。この順序をもとにして曜日の順番がきまってくるんだけど、これについては、ディオーン・カッシオスの『ローマ史』に説明がある。このひとは3世紀はじめにローマの政治家として最高の位についたギリシャ人で、『ローマ史』80巻は、古典によくあるみたいに、一部しかのこってない。

で、これには曜日の順序についてふたつの説明がある。ひとつ目は音楽理論とむすびつけたもので、テトラコルドっていう4度の音程の枠ぐみをもとにしてる。この4度にあわせて、土星から順に4番目ごと、つまりふたつとばしに惑星をとってけば曜日の順番ができあがる。土星のつぎは太陽、そのつぎは月、そのつぎはまた土星にもどってかぞえて火星、そのつぎは水星、つぎは木星、最後に金星っていうふうに。

もうひとつの説明は24時間とむすびつけるやりかたで、結果としてはおんなじことだけど、あっちこっちの本にかいてあるのはこっちの説明のほうだ。1日を24時間にわけて、それぞれの時間を支配する惑星をわりあてる。これもやっぱり、むかしの宇宙観でいちばん外側の土星からはじめて、その日の1時間目を土星が支配する時間ってことにする。それから順番に、つぎの2時間目は木星の時間、3時間目は火星の時間。で、7時間目の月までいったら、また土星にもどって、8時間目は土星が支配する時間、9時間目は木星の時間、っていうふうにやってく。そうすると、24時間目は火星の時間になる。だから、つぎの日の1時間目は、火星のつぎの太陽が支配する時間になる。こうやって、7日間についてこれをやってみると、8日目の1時間目は土星の時間になって、もとにもどる。

でもって、それぞれの日について、最初の1時間目を支配する惑星がその日全体も支配するってかんがえると、1日目の1時間目は土星の時間だから、その日は土星が支配する日、つまり土曜日になる。2日目の1時間目は太陽の時間だから、その日は太陽の日で、日曜日。3日目の1時間目は月の時間だから、その日は月の日になって、月曜日。4日目の1時間目は火星の時間だから、その日は火星の日で、火曜日。……。

ところで、1週間っていう単位はもともとヨーロッパにはなくて、東洋から、たぶんユダヤ人をとおしてギリシャ人・ローマ人につたわって、それからキリスト教とむすびついてヨーロッパ全体にひろまったってかんがえられてる。ギリシャ語で1週間のことは ἑβδομάς [hebdomás ヘブドマス]っていうけど(最初にでてきた ἑβδομάδα [hebdomáda ヘブドマダ]はこれの単数・対格)、もともと「7という数」って意味で、それが「7年の周期」とか「7日の周期」のことをいうようになって、「1週間」の意味にもなった(現代ギリシャ語だと εβδομάδα [エヴゾマーザ]で、さらに、アクセントがないあたまの母音がとれて βδομάδα [ヴゾマーザ]ともいう)。

このギリシャ語がラテン語にはいって、hebdomas [ヘブドマス]、hebdomada [ヘブドマダ]になった。意味はそのまんま「7という数、7日、1週間」。ただし、この外来語じゃなくて意味を訳した septimana [セプティマーナ](1週間)のほうがとくに教会ラテン語でふつうにつかわれたし、このラテン語が変化して「1週間」って意味のイタリア語の settimana [セッティマーナ]、フランス語の semaine [スメーヌ]になった。ギリシャ語からはいったほうもロマンス語にのこってて、文語だけどイタリア語には ebdomada [エブドーマダ](1週間)、ebdomadario [エブドマダーリオ](週に1度の、週刊の、週刊新聞、週刊誌。ふつうは settimanale [セッティマナーレ])っていうのがある。フランス語にも hebdomadaire [エブドマデール](週に1度の、週刊の、週刊新聞、週刊誌)っていうのがあるけど、こっちは文語じゃなくてふつうのことば。「週刊新聞、週刊誌」ははなしことばだとみじかくなって hebdo [エブド]なんていう。

このあたりのことばは英語にもはいってて、hebdomad [ヘブダマッド]は「7という数、7日、1週間」(これは hebdomas の語幹 hebdomad- がはいったもの)、hebdomadal [ヘブドマドル]は weekly とおんなじで「週に1度の、週刊の、週刊新聞、週刊誌」。それから septimana [セプタメイナ](1週間)ってことばが処方せんでつかわれるらしいけど、これはラテン語を英語よみしてるだけかな。

ついでにいうと、エスペラント語は基本的にロマンス語みたいなもんだから、ロマンス語とほとんどかわんない単語がおおい。1週間のことは semajno [セマイノ]っていうけど、これはフランス語からとったんだろう。ただし、発音じゃなくてつづりをうつしてる([アイ]っていう二重母音はエスペラント語じゃ aj ってかく)。エスペラント語の名詞は -o でおわるから、これももちろんそうなってる。

『ギリシャ詞花集』:『ギリシャ詞華集』。 アプロディーテー:アフロディーテー、アプロディテ、アフロディテ。 ディオーン・カッシオス:ディオーン・カシオス、ディオン・カッシオス、ディオン・カシオス、ディオ・カッシウス、ディオ・カシウス。

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2006.06.22 kakikomi; 2015.04.08 kakinaosi

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