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曜日の由来(2) 土曜日と安息日

今回からは、それぞれの曜日の名前についてかいてくけど、むかしの宇宙観だといちばん外側の惑星は土星で、その土星からはじめて曜日の順序がきまってくのを前回説明したから(曜日の由来(1) 曜日の順序と1週間」)、ここでも土曜からはじめることにする。ついでにいうと、西暦元年の1月1日は土曜日だった。

土曜っていうのは土星のことだから、土曜日は土星日ってことだ。これをギリシャ語でいえば ἡ τοῦ Κρόνου ἡμέρα [hɛːː krónuː hɛːméraː ヘー トゥー クロヌー ヘーメラー]だけど、語順のちがいとか定冠詞のつかいかたもふくめて、ほかのいいかたもありえる。「クロノスの日」って訳せないこともないけど、前回の説明からわかるように、このばあいのクロノスは神じゃなくて土星のことだから、これはあくまで「土星の日」だ。

この「土星の日」をラテン語に訳すと Saturni dies [サートゥルニー ディエース]になる(逆の語順もある)。こっちも「サートゥルヌス(Saturnus)の日」みたいだけど、このサートゥルヌスも神じゃなくて土星のほうだから、ことばとしては「土星の日」。

もっとも、惑星っていってもいまのイメージとはちがって、星はそのまんま神だともいえるから、そういう意味じゃクロノスとかサートゥルヌスっていう神の日だっていえないこともない。べつのいいかたをすれば、その惑星を支配する神の日っていってもいいかもしれない。

英語の Saturday は、ラテン語を半分訳したもので、そのまんま「土星の日」ってことだ。ほかの曜日だと惑星の名前をゲルマン神話の神の名前に訳してるんだけど、土曜日だけそうしてないのは、サートゥルヌスに対応するような神がゲルマン神話にいなかったかららしい。

ドイツ語の土曜日は Sonnabend [ゾンアーベント]と Samstag [ザムスターク]っていうのがあって、Sonnabend は北部のほうで、Samstag は南部のほうでつかわれてる。それから、オランダにちかい地方だと Satertag [ザーターターク]っていうのもある。Satertag はオランダ語とか英語とおんなじいいかたで(-tag は英語の -day)、「土星の日」だけど、一般的な Sonnabend と Samstag はこれとはだいぶちがってる。

Sonnabend は「日曜日のまえの夜」から「日曜日のまえの日」に意味がひろがったもので、もともと古代英語からとりいれたいいかただった。英語はこのあとラテン語を訳したいいかたにかわったけど、ドイツ語のほうにはこのふるい いいかたがのこってるわけだ。Samstag の Sams- はさかのぼればギリシャ語の σάββατον [sábbaton サッバトン](安息日)で、この俗語のかたちの σάμβατον [sámbaton サンバトン]がもとになってるらしい(ただしギリシャ語から直接はいったんじゃなくて、例によってラテン語をとおしてはいってきたんだろう)。つまり Samstag のほうは「安息日」がもとの意味だった。

ギリシャ語の σάββατον [サッバトン]がラテン語にはいって sabbatum [サッバトゥム]になったんだけど、これがちょっと変化してイタリア語の土曜日 sabato [サーバト]になった。つまりイタリア語は土曜日のことを「安息日」っていってるわけだ(イタリア語の sabato にはもともとの「安息日」って意味もある)。

ギリシャ語の俗語のかたちのほうはラテン語で sambatum [サンバトゥム]になって、この属格に dies (日)をつけた sambati dies[サンバティー ディエース](安息日)がちぢまって、フランス語の土曜日 samedi [サムディ]になった。ことばのつくりとしてはドイツ語の Samstag みたいなもんで、おんなじロマンス語のイタリア語とはちがってる。それにフランス語で安息日は sabbat [サバ]だから、土曜日と安息日がべつのことばになってるとこもイタリア語とちがう。

エスペラント語は基本的にロマンス語みたいなもんだから、ロマンス語とほとんどかわんない単語がおおくて、土曜日は sabato [サバート]っていう。イタリア語とはアクセントの位置がちがうだけだ。

現代ギリシャ語で土曜日のことは Σάββατο [ˈsavato サーヴァト]っていうけど、これは上にでてきた σάββατον [サッバトン]が現代語のかたちになっただけで、「安息日」っていう意味もある。

こうしてみると、「土星の日」っていう、キリスト教からみて異教のいいかたがのこってるのは、ドイツ語の一部と英語で、そのドイツ語もふつうは「日曜日のまえの日」か「安息日」だし、イタリア語とフランス語と現代ギリシャ語は「安息日」っていうキリスト教のいいかたになってる。

ところで、ギリシャ語の σάββατον [サッバトン]は外来語で、もとはヘブライ語の שבת šabbāth [シャッバート]だけど、アラム語からはいったのかもしれない。この「シャッバート」はユダヤ教の安息日のことで、だいたい土曜日にあたる。ユダヤ暦は太陰暦で、1日が日のいりからはじまるから、ユダヤ教の安息日は金曜日の日のいりから土曜日の日のいりまでになる。だから土曜日とは完全には一致しない。ユダヤ教のばあい、この安息日が週の最後の日になる。ついでにいうと、こういうふうに1日が日のいりからはじまるってことからすれば、クリスマス・イブはじつはクリスマスのまえの日の夜じゃなくて、もうクリスマスの日になってることになる。

新約聖書のなかで σάββατον [サッバトン]は σάββατα [sábbata サッバタ]っていう複数形でもつかわれてるんだけど、『使徒言行録』第17章第2節をのぞいて意味は単数だ。なんで複数形なのに単数の意味かっていうと、説明としてはふたつある。ひとつは祝日を複数形にするギリシャ語の習慣によるっていうもので、もうひとつは、ヘブライ語 שבת [シャッバート]のアラム語のかたち šabbāthā [シャッバーター]がギリシャ語でまず σάββατα [サッバタ]ってうつされて、これが中性複数形だって誤解されたせいで、σάββατον [サッバトン]っていう単数形ができたっていうものだ。ふたつ目の説明からすると、ギリシャ語にはアラム語からはいったことになる。

σάββατον [サッバトン]には「安息日」のほかに「週」って意味もある。安息日が1回まわってくる期間ってことで「1週間」の意味になった。μία (τῶν) σαββάτων [mía (tɔ̂ːs) sabbátɔːn ミア (トーッ) サッバトーン]とか μία (τοῦ) σαββάτου [mía (tûː) sabbátuː ミア (トゥー) サッバトゥー]とか πρώτη σαββάτου [prɔ̌ːtɛː sabbátuː プローテー サッバトゥー]とかで「週のはじめの日、週の第1日」っていう意味になる。μία [ミア](ひとつの〔女性単数〕)、πρώτη [プローテー](第1の〔女性単数〕)はそれぞれ ἡμέρα [hɛːméraː ヘーメラー](日〔女性名詞〕)を略したいいかたで、基数詞の μία [ミア]が序数の意味でつかわれてるのはヘブライ語的ないいまわしだ。こういうふうに「週のはじめの日」って訳だと、σάββατον [サッバトン]を「週」の意味にとってるわけだけど、これとはちがって「安息日につづく第1日」っていうふうにも訳せる。そうなると σάββατον [サッバトン]は「安息日」のほうで、週の最後の日をもとにしてほかの日をかぞえるいいかたってことになる。

ラテン語の sabbatum にもおんなじように「1週間」って意味もあって、una sabbatorum [ウーナ サッバトールム]とか una sabbati [ウーナ サッバティー]とか prima sabbati [プリーマ サッバティー]とかで「週のはじめの日、週の第1日」になる。una (ひとつの〔女性単数〕)、prima (第1の〔女性単数〕)のつかいかたもギリシャ語とおんなじことで、ラテン語には冠詞がないからそこがちがってるだけだ。

ついでにいうと、「安息日」はもともとキリスト教用語として中国でつくられた翻訳語で、日本語でもこれをとりいれた。これには「あんそくにち」「あんそくじつ」「あんそくび」っていう3つのよみかたがある。もともとカトリックは「あんそくじつ」で、プロテスタントは「あんそくにち」だったらしくて、プロテスタントの口語訳聖書はたしかに「あんそくにち」になってる。新改訳も「あんそくにち」。でも、カトリックとプロテスタントがいっしょに訳した新共同訳だと「あんそくび」だから、いまはもう「あんそくび」ってことでいいんだろう。

サートゥルヌス:サトゥルヌス。

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2006.06.29 kakikomi; 2017.05.21 kakitasi

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