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曜日の由来(8) 金曜日

日本語の金曜日は「金星の日」ってことだけど、英語の Friday は金星との関連がわかりにくい。この英語は「フリッグ/フリッガ(Frigg/Frigga)の日」ってことで、フリッグはウォーダン(オーディン)の妻、愛と豊じょうと家庭と結婚の女神だ。

「金星の日」はラテン語で Veneris dies [ウェネリス ディエース]で(逆の語順もある)、Venus [ウェヌス](この属格が Veneris)は金星のことだけど、もともとはローマの愛の女神の名まえだ(英語よみで[ヴィーナス]、ギリシャのアプロディーテー)。フリッグがこのウェヌスにあたるってかんがえられたもんだから、ラテン語の「金星(ウェヌス)の日」は英語で「フリッグの日」って訳してとりいれられた。ただし、ラテン語は「ウェヌス(神)の日」じゃなくて「金星の日」なんだけど、英語は「金星の日」じゃなくて「フリッグ(神)の日」になってる。

ドイツ語の Freitag [フライターク]も英語とおんなじことで、ラテン語の Veneris dies を訳したものだ。フリッグにあたるフリーヤ(Frija/Fria)の日ってことなんだけど、これが愛と豊じょうといくさの女神フレイヤ(Freyja/Freya/Freia)とまちがえやすい。実際、英語についてもドイツ語についても、金曜日の語源は「フレイヤの日」だってかいてあるのがよくある。いわれてみればフレイヤのほうがウェヌスにちかい感じもするし、ことばとしても Friday、Freitag の Fri-、Frei- からはフリッグよりフレイヤのほうを連想しやすいかもしれない。それに、アイスランドのふるい文献には金曜日を「フレイヤの日」にしてるのがあるとかいうはなしだし。それでも Friday、Freitag ってことばそのものはあくまで「フリッグ/フリーヤの日」で、「フレイヤの日」とはちがう。最高神ウォーダンの妻ってことから、ギリシャの最高神ゼウスの妻ヘーラー、ローマの最高神ユーピテルの妻ユーノーを連想するかもしれないけど、もともとウォーダンがゼウスとユーピテルに対応してるわけじゃないから(曜日の由来(6) 水曜日」)、フリーヤ(フリッグ)がウェヌスでもおかしくはないだろう。

このフリーヤは、ワーグナーの《ニーベルングの指輪》にはフリッカ(Fricka)って名まえででてきて、結婚の女神だってことがストーリーにおおきく関係してくる。フレイヤのほうはフライア(Freia)って名まえででてくる。

金曜日の語源が「フレイヤの日」だってかいてあるのは、本だけじゃなくて、ウェブサイトにもおおい。だから、多数決でいくと、そっちのほうがただしいような気がしちゃうかもしれないけど、辞書でもひけば、このへんのことははっきりする。おおきい辞書でいうと、『研究社 新英和大辞典』にも『ランダムハウス英和大辞典』(小学館)にも Friday の語源の説明として「フリッグの日」っていうのがちゃんとかいてある。それに、そんなおおきな辞書をもちださなくてもいい。学習英和辞典の定番『ジーニアス英和辞典 第4版』(大修館)をみても、Friday のもともとの意味は「北欧神話の女神フリッグの(Frigg's)日(day)」ってかいてある。ついでにいうと、この辞書で Frigg をひくと「愛の女神」って説明があるから、この点からいってもウェヌスとの対応はおかしくない。それから、もうひとつ有名な学習英和辞典をみてみると、『ウィズダム英和辞典 第2版』(三省堂)の Friday のとこには語源の説明として「北欧神話の女神 Frigg の日」ってかいてある。こういうふうに、一般的な辞書にもちゃんと金曜日は「フリッグの日」だってかいてあるのに、なんで「フレイヤの日」っていうのがいまだにまかりとおってるのかな。上にかいたみたいに、アイスランドの文献に金曜日のことを「フレイヤの日」っていってるのがあるにしても、そこからいえるのは、金曜日が「フレイヤの日」っていわれたことがあるってことだけで、英語の Friday が「フレイヤの日」って意味だったってことにはならない。

ドイツ語の辞書にしてもそうだ。『クラウン独和辞典 第3版』(三省堂)で Freitag をひくと、ちゃんと「ゲルマン神話の美の女神 Frija から」ってかいてある。Frija は Frigg/Frigga のふるいかたちで、うえにかいたみたいにフリーヤっていうとフレイヤとまぎらわしいから、金曜日の説明としてはドイツ語でも「フリック/フリッガの日」っていうほうがいいのかもしれない(語源としては Frigg/Frigga っていうかたちに由来するんじゃなくて Frija がもとなんだけど)。それから、フリーヤとフレイヤがまぎらわしいって感じるのはドイツ人もおんなじらしくて、『クラウン独和辞典』で Frigg をひくと、「しばしば Freyja と同一視される」ってかいてある。

英語、ドイツ語とちがって、イタリア語の venerdì [ヴェネルディ]、フランス語の vendredi [ヴォンドルディ]は、ラテン語の Veneris dies がそのまんま変化したものだから、こっちのほうは「金星の日」っていいかたがのこってる。

エスペラント語は基本的にロマンス語みたいなもんだから、ロマンス語とほとんどかわんない単語がおおくて、金曜日は vendredo [ヴェンドレード]っていう。vendred- はフランス語からとった語根だろう。ただし、発音じゃなくてつづりをうつしてる。これに、エスペラント語の名詞語尾 -o をつけると vendredo になる。

現代ギリシャ語の金曜日は Παρασκευή [パラスキェヴィ]で、παρασκεύη は「準備(の日)」って意味なんだけど、これは安息日の準備の日、安息日(土曜日)のまえの日ってことだ。このいいかたは新約聖書にでてきて、キリストが十字架にはりつけにされた日が「準備の日」だったってかいてある。

ビーナス:ヴィーナス。 アプロディーテー:アフロディーテー、アプロディテ、アフロディテ。 ヘーラー:ヘラ。 ユーピテル:ユピテル。 ユーノー:ユノ。 ワーグナー:ヴァーグナー。 ニーベルングの指輪:ニーベルングの指環。

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2006.08.01 kakikomi; 2010.08.19 kakitasi

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