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なんとかセラピー、なんとかテラピー

たとえば「アロマセラピー」「アロマテラピー」みたいに、「なんとかセラピー」「なんとかテラピー」っていうことばがいろいろあるけど、この「セラピー」「テラピー」っていうのはもともとはギリシャ語の θεραπεία [tʰerapěːaː テラペ~アー]で(カタカナがきなら「テラペイアー」がふつうだろう)、意味は「つかえること、奉仕」「神につかえること、神をまつること」「世話をすること、面倒をみること」「こどもの世話、養育」「病人の世話、看病、看護、治療」「動物・植物の世話、飼育、栽培」「ご機嫌をとること、ひとにとりいること、へつらうこと」「従者」ってことだ。現代ギリシャ語にも θεραπεία [セラピーア](治療、診療、看病)としてのこってる(現代語の θ の発音は英語の think とかの th)。

これが近代の医学用語として、ラテン語の therapia [テラピーア](治療、療法)になって、それが、英語の therapy [セラピー]、ドイツ語の Therapie [テラピー]、フランス語の thérapie [テラピ]、イタリア語の terapia [テラピーア]とかになった。

こうしてみると、「なんとかセラピー」っていうのは英語のよみかたで、「なんとかテラピー」のほうはドイツ語かフランス語だろう。ただし、「セラピー」っていうのはこれだけでも日本語としてつかわれてるけど、「テラピー」のほうはつかわれてないとおもう。

「海洋療法」って意味の「タラソテラピー」っていうのがある。これはドイツ語式かフランス語式だけど、この療法はフランスでうまれたらしいから、まあフランス語式かな。ドイツ語式っていってもおんなじことだけど。で、英語式なら「サラソセラピー」とでもなるはず。でも、これはつかわれてないみたいで、ごちゃまぜの「タラソセラピー」っていうのをよくみかける。

英語は thalassotherapy [サラサセラピー/サラソウセラピー]、ドイツ語は Thalassotherapie [タラソテラピー]、フランス語は thalassothérapie [タラソテラピ]。ギリシャ語の θάλασσα [tʰálassa タラッサ](海)の複合語をつくるかたち θαλασσο- [tʰalasso]に θεραπεία をくっつけて つくったことばだ。

英語の aromatherapy [アロウマセラピー]、ドイツ語の Aromatherapie [アロマテラピー]、フランス語の aromathérapie [アロマテラピ]のつくりもおんなじようなもんで、「アロマ」はギリシャ語の ἄρωμα [árɔːma アローマ](香料、薬味)なんだけど、このことばのつくりかたはちょっとおかしい。aroma っていうのがこれだけで英語とかになってるから、それをそのまんまくっつけちゃったんだろう。でもほんとは ἄρωμα の語幹は ἀρωματ- [arɔːmat]だから、これにつなぎの母音 ο をつけて、全体で ἀρωματοθεραπεία [arɔːmatotʰerapěːaː アローマトテラペ~アー]になるはず。で、これを英語にすれば aromatotherapy、ドイツ語なら Aromatotherapie、フランス語なら aromatothérapie、つまり「アロマトセラピー」とか「アロマトテラピー」になる。実際にこの ただしい ほうもちゃんとつかわれてる。

いまのギリシャ語だとどうなってるかっていうと、αρωμαθεραπεία [アロマセラピーア]も αρωματοθεραπεία [アロマトセラピーア]もみかける。もとがギリシャ語だっていっても、このことばは逆輸入でギリシャ語にはいってきたんだろうから、英語の aromatherapy とかをそのまんまギリシャ語にもどした αρωμαθεραπεία がある一方で、ほんとはギリシャ語としておかしいから、ちゃんとした αρωματοθεραπεία っていうのもできて、結局は英語なんかとおんなじように両方のかたちがつかわれることになっちゃってるんだろう。

2007.04.16 kakikomi; 2010.09.13 kakinaosi

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