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プトレマイオスの48星座とアラートスの星座
(ギリシャ語とラテン語)

星座は88個ある。これは国際天文学連合(IAU = International Astronomical Union)がきめたもので、近世になるまではこの半分ぐらいだった。もちろん、世界各地でいろんな星座があるから、ここでいってるのは西洋のはなしってことになるけど、16世紀にあたらしい星座がつけくわえられるようになるまでは、2世紀にプトレマイオス(トレミー)がまとめた48の星座がつかわれてきた。その後、一時は100以上になったらしいけど、20世紀に88ってことにおちついた。

プトレマイオスの『アルマゲスト(数理天文学体系)』(もともとの題名は『Μαθηματικὴ Σύνταξις [matʰɛːmatikɛ̌ː sýntaksis マテーマティケー スュンタクスィス]』で、直訳すれば「数学的体系」)の第7巻から第8巻にかけて、つまり第7巻第5章と第8巻第1章には星座ごとにまとめた恒星の一覧表がある。そこで、この表にでてくる順番に48星座の日本語の名まえとラテン語の学名をあげて、それぞれのギリシャ語の名まえについて説明しようとおもう。この順番は簡単にいえば北から南の順になってる。紀元前3世紀にはアラートスがエウドクソスの天文書を叙事詩のかたちにした『パイノメナ』をかいてるけど、これにでてくる星座はプトレマイオスとちょっとちがいがあるから、それについてもふれることにする。ラテン語の学名は古典式でよむ必要はないだろうけど、ここではとりあえず古典式にしといた。

ちなみに、アラートスの『パイノメナ』は『星辰譜』って訳されることがあるけど、これってどうなんだろ。この作品の最後のほうは天気のはなしになってて、それも、まずは天体との関係で天気のことをいってるんだけど、そのうち天体とは関係ないはなしになる。だからここでいう「パイノメナ(φαινόμενα [pʰainómena])」(そうみえるもの、現象)っていうのは天文だけじゃないわけで、『星辰譜』っていうのはちがうんじゃないかな。

五十音順さくいん
アルゴ座][アンドロメダ座][いて座][いるか座][うお座][うさぎ座][うしかい座][うみへび座][エリダヌス座][おうし座][おおいぬ座][おおかみ座][おおぐま座][おとめ座][おひつじ座][オリオン座][カシオペヤ座][かに座][からす座][かんむり座][ぎょしゃ座][くじら座][ケフェウス座][ケンタウルス座][こいぬ座][こうま座][こぐま座][コップ座][こと座][さいだん座][さそり座][さんかく座][しし座][てんびん座][はくちょう座][ふたご座][ペガスス座][へび座][へびつかい座][ヘルクレス座][ペルセウス座][みずがめ座][みなみのうお座][みなみのかんむり座][や座][やぎ座][りゅう座][わし座

こぐま座 Ursa Minor [ウルサ ミノル]
プトレマイオスは Ἄρκτος Μικρά [árktos miːkrǎː アルクトス ミークラー](ちいさなクマ)で、いまの名まえとかわりがない。この名まえは語順が逆の Μικρὰ Ἄρκτος [miːkrǎː árktos ミークラー アルクトス]もありえる。
アラートスは、こぐま座とおおぐま座をいっしょにして Ἄρκτοι [árktoi アルクトイ](クマの複数形)っていったあと、Ἅμαξαι [hámaksai ハマクサイ](車の複数形)ともいわれるっていってる。ここで車っていうのは、ウシとかウマにひかせる荷車のことで、おおぐま座の7つ星(北斗七星)とこぐま座のかたちがそういうふうにみえるわけだ。そのほかに、こぐま座のことを Κυνόσουρα [kynósuːra キュノスーラ](イヌのしっぽ)、Κυνοσουρίς [kynosuːrís キュノスーリス](イヌのしっぽ)、クマとあわせた Κυνοσουρὶς Ἄρκτος [kynosuːrís árktos キュノスーリス アルクトス](イヌのしっぽといわれるクマ)ともいってる。こぐま座だけの名まえとしてはこの Κυνόσουρα をつかってることがおおい。

おおぐま座 Ursa Major [ウルサ マイヨル]
プトレマイオスは Ἄρκτος Μεγάλη [árktos megálɛː アルクトス メガレー](おおきいクマ)で、いまの名まえとかわりがない。この名まえは語順が逆の Μεγάλη Ἄρκτος もありえる。
アラートスは、こぐま座といっしょに「クマ」とか「荷車」とかいってるほかに、Ἑλίκη [helíkɛː ヘリケー](まわるもの、まがってるもの)っていってる。この名まえは、おおぐま座が天の北極のまわりをまわってるからっていう説明と、荷車にもみえる7つ星(北斗七星)がねじれたかたちになってるからっていう説明がある。それから μεγάλη...Ἄρκτος (おおきい……クマ)ともいってる。
おおぐま座はふるくはホメーロスにも Ἄρκτος (クマ)の名まえででてきて、Ἄμαξα [ámaksa アマクサ](荷車)ともよばれるっていわれてる(『イーリアス』18.487)。

りゅう座 Draco [ドラコー]
プトレマイオスもアラートスも Δράκων [drákɔːn ドラコーン](ドラゴン、竜、ヘビ)。

ケフェウス座 Cepheus [ケーペウス]
プトレマイオスもアラートスも Κηφεύς [kɛːpʰěus ケーペウス]。これはエチオピアの王の名まえで、妻はカッシエペイア(カシオペア)、むすめはアンドロメダー。3人とも星座になってる。

うしかい座 Bootes [ボオーテース]
プトレマイオスは Βοώτης [boɔ̌ːtɛːs ボオーテース]。これは「すきをつかって たがやすひと、ウシをつかって たがやすひと」ってことで、要するに、すきをウシにひかせて畑をたがやすひとのことなんだろう。だから「うしかい」っていうのはちょっとちがうような…。
アラートスは Ἀρκτοφύλαξ [arktopʰýlaks アルクトピュラクス](クマの番人)とも Βοώτης ともいってる。この星座の主星は Ἀρκτοῦρος [arktûːros アルクトゥーロス](クマの番人)つまり Arcturus (カタカナがきは「アルクトゥルス」とか「アークトゥルス」とかいろいろある)だから、これとおんなじ意味のことばが星座の名まえとしてもつかわれてるわけだ。
ホメーロスには Βοώτης の名まえででてくる(『オデュッセイア』5.272)。

かんむり座 Corona Borealis [コローナ ボレアーリス]
プトレマイオスは Στέφανος Βόρειος [stépʰanos bóreːos ステパノス ボレ~オス](北の冠)で、学名も、「みなみのかんむり座」に対して「きたのかんむり座」になってるから、ほんとは「きたのかんむり座」が正式な名まえ。
アラートスはただの Στέφανος [stépʰanos ステパノス](冠)。この冠っていうのは、王様がかぶるような金属とか宝石でできたものじゃなくて、花輪とか花冠のことなんだけど、月桂樹とかオリーブの冠、つまり花じゃないのもあった。

ヘルクレス座 Hercules [ヘルクレース]
プトレマイオスは Ἐν γόνασιν [eŋ‿ɡónasin エン ゴナスィン]で、これは英語に直訳すると In knees になるけど、ちゃんとした英語としては On the knees だろう。で、この副詞句を名詞としてつかって「ひざまずいてる男」(ὁ ἐν γόνασι καθήμενος ἀνήρ [ho‿ɡónasi katʰɛ̌ːmenos anɛ̌ːr ホ エン ゴナスィ カテーメノス アネール])って意味になる。
アラートスも Ἐν γόνασιν で、校訂本によっては Ἐγγόνασιν ってつづりになってるけど、発音にかわりはない。それから Γνύξɡnýks グニュクス]ともいってる。これはもともと「ひざをまげて、ひざまずいて」っていう副詞で、これを名詞としてつかってるから、意味はおんなじことだ。
日本語で「ヘラクレス」じゃなくて「ヘルクレス」っていってるのは学名のラテン語にもとづいてるからで、ギリシャ語なら Ἡρακλῆς [hɛːraklɛ̂ːs ヘーラクレース]だけど、この星座はむかしはこの名まえじゃなかったわけだ。

こと座 Lyra [リュラ]
プトレマイオスは Λύρα [lýraː リュラー](タテ琴)で、これはカメの甲羅に弦をはった楽器だから、日本の琴とはちがう。
アラートスは Λύρη [lýrɛː リュレー]っていってるけど、これは Λύρα の叙事詩のかたち。それから Χέλυς [kʰélys ケリュス]ともいってるけど、これは「カメ」って意味で、リュラー(リラ)がカメの甲羅からつくられたから、楽器そのものをさすことばにもなった。

はくちょう座 Cygnus [キュグヌス]
プトレマイオスもアラートスも Ὄρνις [órniːs オルニース](鳥)、つまり とり座で、まだ Κύκνος [kýknos キュクノス](白鳥)じゃなかった。この星座はワシとかメンドリとかいわれたこともあったらしい。

カシオペヤ座 Cassiopeia [カッスィオペイヤ]
プトレマイオスもアラートスも Κασσιέπεια [kassiépeːa カッスィエペ~ア](カシオペア)。エチオピアの王ケーペウス(ケフェウス)の后で、アンドロメダーの母親。

ペルセウス座 Perseus [ペルセウス]
プトレマイオスもアラートスも Περσεύς [persěus ペルセウス]。


ぎょしゃ座 Auriga [アウリーガ]
プトレマイオスもアラートスも Ἡνίοχος [hɛːníokʰos ヘーニオコス](御者[ぎょしゃ])。

へびつかい座 Ophiuchus [オピウークス]
プトレマイオスもアラートスも Ὀφιοῦχος [opʰːkʰos オピウーコス](ヘビをもってる男)。学名のラテン語はこのギリシャ語をラテン語のかたちにしたものだけど、おんなじ意味のラテン語で anguitenens [アングィテネ(ー)ンス]っていうのがあるのに、なんでこれが学名になんなかったんだろ。

へび座 Serpens [セルペ(ー)ンス]
プトレマイオスは Ὄφις Ὀφιούχου [ópʰis opʰiǔːkʰuː オピス オピウークー](ヘビつかいのヘビ)。
アラートスだとまだ へびつかい座の一部なんだけど、その一部としての Ὄφις [ópʰis オピス](ヘビ)って名まえはなん度もでてくる。

や座 Sagitta [サギッタ]
プトレマイオスもアラートスも Ὀϊστός [o.istós オイストス](矢)。

わし座 Aquila [アクィラ]
プトレマイオスは Ἀετός [aːetós アーエトス](ワシ)。
アラートスには Ἀητός [aɛːtós アエートス]、Αἰετός [aijetós アイエトス]、Αἰητός [aijɛːtós アイエートス]ってかたちがでてくる。ひとの名まえでも星座の名まえでもそうだけど、叙事詩のばあい韻律にあわせてちがったかたちをいろいろつかうのはめずらしくない。

いるか座 Delphinus [デルピーヌス]
プトレマイオスもアラートスも Δελφίς [delpʰǐːs デルピース](イルカ)。

こうま座 Equuleus [エクレウス]
プトレマイオスは Ἵππου Προτομή [híppuː protomɛ̌ː ヒップー プロトメー](ウマの首)。この προτομή [プロトメー]っていうのは、きりおとした動物の首のことなんだけど、実物だけじゃなくて、つくりもののこともいうから、これはウマの首の像かなんかのことなのかもしれない。
子ウマをギリシャ語でいえば Ἱππάριον [hippárion ヒッパリオン]で、のちにはこの名まえでよばれるようになる。アラートスにはこの星座はない。

ペガスス座 Pegasus [ペーガスス]
プトレマイオスもアラートスも Ἵππος [híppos ヒッポス](ウマ)、つまりむかしは うま座だった。
ペガススはギリシャ語なら Πήγασος [pɛ̌ːɡasos ペーガソス]。

アンドロメダ座 Andromeda [アンドロメダ]
プトレマイオスは Ἀνδρομέδα [andromédaː アンドロメダー]。エチオピアの王ケーペウス(ケフェウス)とその后カッシエペイア(カシオペア)のむすめ。
アラートスは叙事詩のかたちで Ἀνδρομέδη [andromédɛː アンドロメデー]。

さんかく座 Triangulum [トリアングルム]
プトレマイオスは Τρίγωνον [tríɡɔːnon トリゴーノン](三角)。
アラートスは Δελτωτόν [deltɔːtón デルトートン](デルタ〔Δ〕のかたちをしてるもの)で、デルタ座だった。

おひつじ座 Aries [アリエース]
プトレマイオスもアラートスも Κριός [kriːós クリーオス](雄ヒツジ)。

おうし座 Taurus [タウルス]
プトレマイオスもアラートスも Ταῦρος [tâuros タウロス](雄ウシ)。
おうし座にはプレアデス星団(すばる)とヒヤデス星団があるけど、アラートスはまだプレアデスを星座としてあつかってる。プトレマイオスだとプレアデスはもう おうし座のなかの星になってる。
ホメーロスには、『イーリアス』(18.486)にプレアデスとヒヤデスが、『オデュッセイア』(5.274)にプレアデスがでてくる。

ふたご座 Gemini [ゲミニー]
プトレマイオスもアラートスも Δίδυμοι [dídymoi ディデュモイ](双子)。

かに座 Cancer [カンケル]
プトレマイオスもアラートスも Καρκίνος [karkínos カルキノス](カニ)。

しし座 Leo [レオー]
プトレマイオスもアラートスも Λέων [léɔːn レオーン](ライオン)。

おとめ座 Virgo [ウィルゴー]
プトレマイオスもアラートスも Παρθένος [partʰénos パルテノス](乙女)。
[ここまでが『アルマゲスト』第7巻]

てんびん座 Libra [リーブラ]
プトレマイオスもアラートスも Χηλαί [kʰɛːlǎi ケーライ](ひづめ、かぎづめ、〔カニ、サソリの〕はさみ)。当時はまだ天秤じゃなくてサソリのはさみだった。ただし、さそり座の一部ってわけじゃなくて、プトレマイオスでもアラートスでもひとつの星座にはなってる。
天秤はギリシャ語で Ζυγός [zdyɡós ズデュゴス/zyɡós ズュゴス]。

さそり座 Scorpius [スコルピウス]
プトレマイオスもアラートスも Σκορπίος [skorpíos スコルピオス](サソリ)。

いて座 Sagittarius [サギッターリウス]
プトレマイオスは Τοξότης [toksótɛːs トクソテース](射手[いて])。
アラートスは Τοξότης のほかに、おんなじ意味の Τοξευτήρ [tokseutɛ̌ːr トクセウテール]と Τοξευτής [tokseutɛ̌ːs トクセウテース]も韻律にあわせてつかってる(Τοξότης がいちばんすくない)。

やぎ座 Capricornus [カプリコルヌス]
プトレマイオスもアラートスも Αἰγόκερως [aiɡókerɔːs アイゴケロース](ヤギのツノがあるもの)。ラテン語もおんなじ意味。

みずがめ座 Aquarius [アクヮーリウス]
プトレマイオスもアラートスも Ὑδροχόος [hydrokʰóos ヒュドロコオス](水をそそぐ男)だけど、アラートスは水がめからそそがれてる水と男をわけてて、みず座(Ὕδωρ [hýdɔːr ヒュドール])もひとつの星座になってる。ラテン語は「水男、水をはこぶ男」。

うお座 Pisces [ピスケース]
プトレマイオスもアラートスも Ἰχθύες [ikʰtʰýes イクテュエス](サカナ)。うお座は2匹のサカナだから、ギリシャ語もラテン語も複数形になってる。

くじら座 Cetus [ケートゥス]
プトレマイオスもアラートスも Κῆτος [kɛ̂ːtos ケートス]。これはもともと海の怪物のことで、そこからクジラ類・アザラシ類のこともいうようになった。ラテン語もおんなじ。くじら座はアンドロメダーをたべようとしてペルセウスに退治された海の怪物で、星座絵をみても、たしかに怪物で、クジラとはちがう。

オリオン座 Orion [オーリーオーン]
プトレマイオスもアラートスも Ὠρίωνɔːɔːn オーリオーン]だけど、アラートスのほうは叙事詩だから発音は[ɔːrǐːɔːn オーリーオーン]。
この星座はホメーロスにもでてくる(『イーリアス』18.486、488、『オデュッセイア』5.274)。

エリダヌス座 Eridanus [エーリダヌス]
プトレマイオスは Ποταμός [potamós ポタモス](川)、つまりむかしは かわ座だった。
アラートスも Ποταμός っていってるけど、Ἠριδανόςɛːridanós エーリダノス]っていってるとこもある。この名まえの最初の用例らしい。エーリダノスっていうのはギリシャ神話にでてくる川の名まえ。

うさぎ座 Lepus [レプス]
プトレマイオスもアラートスも Λαγωός [laɡɔːós ラゴーオス](ウサギ)。

おおいぬ座 Canis Major [カニス マイヨル]
プトレマイオスもアラートスも Κύων [kýɔːn キュオーン](イヌ)で、ただの いぬ座。この「キュオーン」っていうのは、おおいぬ座の主星シリウス(Sirius、ギリシャ語で Σείριος [sěːrios セ~リオス])のことでもある。『アルマゲスト』の恒星の表にもこの名まえででてくる。この星の名まえが星座の名まえにもなったらしい。
おおイヌをギリシャ語でいえば Κύων Μέγας [kýɔːm méɡas キュオーン メガス]。

こいぬ座 Canis Minor [カニス ミノル]
プトレマイオスもアラートスも Προκύων [prokýɔːn プロキュオーン](イヌのさきがけ)で、これも、おおいぬ座とおんなじように、主星プロキオン(Procyon)の名まえでもある。「イヌの星(シリウス)のまえぶれの星」って意味だ。『アルマゲスト』の恒星の表にもこの名まえででてくるし、この星の固有名としていまでもつかわれてる。その名まえが星座の名まえにもなったらしい。
子イヌをギリシャ語でいえば Κύων Μικρός [kýɔːm miːkrós キュオーン ミークロス]。

アルゴ座 Argo Navis [アルゴー ナーウィス]
プトレマイオスもアラートスも Ἀργώ [arɡɔ̌ː アルゴー]で、ギリシャ神話のアルゴー船のことだ。この星座はおおきすぎるってことで、いまじゃ4つにわけられて、らしんばん座 Pyxis [ピュクスィス]、とも座 Puppis [プッピス]、りゅうこつ座 Carina [カリーナ]、ほ座 Vela [ウェーラ]になった。

うみへび座 Hydra [ヒュドラ]
この星座の名まえは、学名からしても、神話からしても、女性形の Ὕδρα [hýdraː ヒュドラー]のはずだとおもうんだけど、プトレマイオスは男性形の Ὕδρος [hýdros ヒュドロス]をつかってる。
アラートスは女性形だけど、叙事詩のかたちの Ὕδρη [hýdrɛː ヒュドレー]。
男性形の ὕδρος も女性形の ὕδρα も、水にすんでるヘビのことで、その点じゃべつにかわりはない。星座の名まえとしても、どっちもつかわれてた。
うみへび座はヘーラクレースが退治した大蛇ってことになってて、この大蛇の名まえは「ヒュドラー」なんだけど、みずうみだか沼だかにすんでたヘビだから、ウミヘビとはちがう。ヘルクレス座が当時はちがう名まえだったんだから、うみへび座にしても、ヘーラクレースとの関連はあとづけなんじゃないかな。
あとからできた みずへび座の学名が Hydrus [ヒュドルス]っていう男性形だから、いまじゃ うみへび座は女性形の Hydra ってことになってる。

コップ座 Crater [クラーテール]
プトレマイオスは Κρατήρ [kraːtɛ̌ːr クラーテール]で、アラートスは叙事詩のかたちの Κρητήρ [krɛːtɛ̌ːr クレーテール]。
クラーテールについては「クレーター」で説明したことがあるけど、ブドウ酒と水をまぜるうつわのことだ。それなりのおおきさがあるし、コップ座っていうのはどうなんだろ。まあ、こと座だってちがうといえばちがうし、日本語の名まえともともとのイメージがずれてるのはけっこうあるか。

からす座 Corvus [コルウス]
プトレマイオスもアラートスも Κόραξ [kóraks コラクス](カラス)。

ケンタウルス座 Centaurus [ケンタウルス]
プトレマイオスもアラートスも Κένταυρος [kéntauros ケンタウロス]。日本語の名まえはラテン語から。

おおかみ座 Lupus [ルプス]
プトレマイオスもアラートスも Θηρίον [tʰɛːríon テーリオン]なんだけど、これは「野獣、猟獣、えもの」って意味で、とくにどの動物ってことはなくて、ケンタウロスに槍でのどをつかれた えものだった。ケンタウルス座にくっついてるし、星座絵でそういうふうになってる。
オオカミはギリシャ語で Λύκος [lýkos リュコス]。

さいだん座 Ara [アーラ]
プトレマイオスは Θυμιατήριον [tʰyːmiaːtɛ̌ːrion テューミアーテーリオン](香炉、香壇)で、この星座はケンタウロスがえものをいけにえにささげる祭壇だとかいわれてる。
アラートスは Θυτήριον [tʰytɛ̌ːrion テュテーリオン](ささげもの、犠牲壇、供物壇、祭壇)で、Θυμιατήριον だと叙事詩の韻律にあわないから、このことばをつかってるんだろう。

みなみのかんむり座 Corona Australis [コローナ アウストラーリス]
プトレマイオスは Στέφανος Νότιος [stépʰanos nótios ステパノス ノティオス](南の冠)で、アラートスには星座としてはでてこない。

みなみのうお座 Piscis Austrinus [ピスキス アウストリーヌス]
プトレマイオスは Ἰχθὺς Νότιος [ikʰtʰy̌ːs nótios イクテュース ノティオス](南のサカナ)。
アラートスはほとんど Ἰχθύς [ikʰtʰy̌ːs イクテュース](サカナ)っていってる。Νότιος [nótios ノティオス](南の)がでてくるとこもあるけど、そこは Ἰχθύς を略したいいかただから、けっきょく Ἰχθὺς Νότιος っていう まとまったかたちじゃでてこない。Ἰχθύς は単数形だから、これだけでも複数形のうお座と区別はつく。
この星座は、近世になって つる座 Grus [グルース]ができたとき、下半身をとられてちいさくなった。

アラートス:アラトス。 パイノメナ:ファイノメナ。 いて座:射手座。 いるか座:イルカ座、海豚座。 うお座:魚座。 うさぎ座:兎座。 うしかい座:牛飼い座、牛飼座。 うみへび座:海蛇座。 おうし座:牡牛座。 おおいぬ座:大犬座。 おおかみ座:狼座。 おおぐま座:大熊座。 おとめ座:乙女座。 おひつじ座:牡羊座。 かに座:蟹座。 からす座:烏座。 かんむり座:冠座。 ぎょしゃ座:馭者座、御者座。 くじら座:鯨座。 こいぬ座:小犬座、子犬座。 こうま座:小馬座、子馬座。 こぐま座:小熊座、子熊座。 こと座:琴座。 さいだん座:祭壇座。 さそり座:蠍座。 さんかく座:三角座。 しし座:獅子座。 てんびん座:天秤座。 はくちょう座:白鳥座。 ふたご座:双子座。 へび座:蛇座。 へびつかい座:蛇遣い座、蛇遣座。 みずがめ座:水瓶座。 みなみのうお座:南の魚座。 みなみのかんむり座:南の冠座。 や座:矢座。 やぎ座:山羊座。 りゅう座:竜座。 わし座:鷲座。 ホメーロス:ホメロス。 イーリアス:イリアス。 アンドロメダー:アンドロメダ。

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 ・十二星座、十二宮のおぼえかた
 ・西洋とインドの星うらない
 ・黄道帯は獣帯
 ・プレアデスの七姉妹
 ・プトレマイオスの詩
 ・クレーター

2007.05.07 kakikomi; 2012.04.07 kakinaosi

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