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ヘンデルの《アグリッピーナ》

マルゴワール指揮のヘンデルの歌劇《アグリッピーナ》のDVDをみた。輸入盤としては2004年7月にでてたし、CDもおんなじ年の4月にでてたけど、やっと国内盤(TDBA-3001)のDVDがでて、これは輸入盤とちがってちゃんと日本語の字幕がついてる(ものによっては輸入盤でも日本語の字幕がついてるのもあるけど)。

フランスのトゥルコワン市立劇場の舞台を収録したもので、衣装はだいたい18世紀ごろのヨーロッパの感じ(当時のオペラは古代ローマのはなしだろうとそういう感じだった)。ありがちな現代の服をきてる演出だとやっぱり興ざめだから、そうじゃなくてよかった。舞台装置は簡潔なもので、こっちは現代的。

この演奏は、まずCDがでた時点で評判がよかったらしいけど、たしかにそれはわかる。歌手でいうと、アグリッピーナ役のベロニク・ジャンスももちろんよかったけど、ネローネ役のフィリップ・ジャルースキがいい。それと、レチタティーボの伴奏が印象にのこった。レチタティーボみたいな「かたり」は、クラッシックだけじゃなくて、どの音楽でもすきなんだけど、ヘンデルとかモーツァルトあたりのイタリア・オペラのレチタティーボ・セッコはどうもイマイチ。でも、このセッコの伴奏はちょっとちがう。この曲は、ヘンデルがイタリアにいってたときの作品だから、そのあとのロンドン時代のイタリア・オペラとはスタイルのちがいもあるんだろうけど、それだけじゃなくて演奏のちがいだろう。チェンバロの伴奏がおもしろくて、はなやかさもある。それに、アリアがおわってレチタティーボにうつるときの、はいりかたっていうか、つなぎかたっていうか、それにも特徴がある(毎回おんなじといえばおんなじだから、ワンパターンっていえばそれまでかもしれないけど)。ちなみに、つかってた楽器はイタリアンのチェンバロにみえた。

DVDには1層ディスクと2層ディスクがあるけど、2層ディスクで層がきりかわるとき、プレーヤーによってはちょっと静止画面になったりする。映画のDVDだと、場面がかわるとこで層がきりかわるようにしてあるから、そのへんは目だたないんだけど、オペラのDVDだと、平気で場面の途中、音楽の途中できりかわるディスクがあったりする。そういう編集しかできないもんなのかな。で、この《アグリッピーナ》とおんなじメーカー(TDKコア)からでてるヘンデルの《セルセ》(TDBA-0087)もそうだった。でも、《アグリッピーナ》のほうはちゃんと幕のあいまに層がきりかわるようになってる。この曲は3幕ものだけど、この上演だと第2幕の途中できってて、全体を2幕の構成にしてある。その幕あいに層のきれ目をあててある。

ところで、ディスクについてる解説書には登場人物の説明が当然あるんだけど、ほとんどは古代ローマに実際にいたひとたちで、オペラの登場人物としてはイタリア語の名まえ、歴史上の人物としてはラテン語の名まえでかいてある。解説書からそのまんま引用すると(カッコのなかがラテン語の名まえ)、「クラウディオ(クラウディウス)、アグリッピーナ(アグリッピナ)、ネローネ(ネロ)、オットーネ(オトー)、ポッペーア(ポッパエア)、ナルチーゾ(ナルキッスス)、パッランテ(パラス)」って感じなんだけど、ラテン語の名まえのほうがちょっとひっかかった。とくに「アグリッピナ」っていうのが。

Agrippina って名まえはイタリア語でもラテン語でもつづりはおんなじで、-pi- にアクセントがある。だから、イタリア語だと「アグリッピーナ」なんだけど、ラテン語ならどうかっていうと、辞書をひけば Agrippīna ってでてる。つまりラテン語でも「アグリッピーナ」だ。解説をかいたひとは、このことをしらないでラテン語だと「アグリッピナ」だとおもってるかな。それとも例によってラテン語の母音のながさを無視するっていうカタカナがきなのか(ギリシャ語・ラテン語のながい母音のあつかい」)。それかローマの歴史の本かなんかにかいてあるのをそのまんまつかっただけなのかも?

それにしても、もともとイタリア語の名まえとして「アグリッピーナ」ってかいときながら、ラテン語の名まえとしては「アグリッピナ」なんてかくのは、ラテン語で「アグリッピナ」だっておぼえてるんならしょうがないけど、そうでもなけりゃ、やっぱりおかしいだろ。なんていうか、不自然だ。母音のながさをわざわざ無視してカタカナがきするなんてことをすると、こういうことだっておこってくる。

解説書の文章じゃ「オトー」なんていうのもあるから、とくに母音のながさを無視してかくとかいう方針っていうより、たぶん、どっかの本にでもかいてあった名まえをそのまんまつかってるだけなんだろう。そうだとしたら、まあ、しょうがないか。ただ、もうひとつ、どうかとおもうのがある。それは「パッランテ(パラス)」だ。これだって、イタリア語の Pallante に「ッ」をつかってるんだから、ラテン語の Pallas のほうも「パッラス」にすればいいようなもんだろう。さらに母音のながさもちゃんとすれば「パッラース」になる。ただし、これも、どっかにかいてあった名まえをつかってるだけなら、解説をかいたひとの問題じゃないけど。ちなみにこの名まえは女神アテーナー(ローマのミネルワ)のそえ名の「パッラス」とつづりはおんなじだけど、女神のほうは母音はながくない。それに格変化もちがうから、イタリア語のかたちもちがってて、女神のほうは Pallade [パッラデ]になる。

あと、解説書にあったラテン語の名まえで母音がながくなってないのは「ネロ」で、これは正確には「ネロー」だ。

レチタティーボ:レチタティーヴォ。 クラッシック:クラシック。 アテーナー:アテナ。 ミネルワ:ミネルヴァ。

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2007.05.01 kakikomi

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