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プレアデスの七姉妹

おうし座の肩のあたりにプレアデス星団がある。プレアデスは日本語で「すばる」っていうけど、プレアデス(Pleiades)って名前のもとはギリシャ神話だ。

たとえばアポッロドーロスの『ビブリオテーケー(ギリシャ神話)』にこういう一節がある(3.10.1)。

Ἄτλαντος δὲ καὶ τῆς Ὠκεανοῦ Πληιόνης ἐγένοντο θυγατέρες ἑπτὰ ἐν Κυλλήνῃ τῆς Ἀρκαδίας, αἱ Πληιάδες προσαγορευθεῖσαι, Ἀλκυόνη Μερόπη Κελαινὼ Ἠλέκτρα Στερόπη Ταϋγέτη Μαῖα.

[átlantos kǎi tɛ̂ːs ɔːkeanûː plɛːiónɛːs eɡénonto tʰyɡatéres heptá eŋKyllɛ̌ːnɛːi tɛ̂ːs arkadíaːs|haiplɛːiádes prosaɡoreutʰêːsai|alkyónɛː merópɛː kelainɔ̌ː ɛːléktraː sterópɛː taː.yɡétɛː mâija]

アトラースと、オーケアノスの娘プレーイオネーから7人の娘がアルカディアーのキュッレーネーでうまれた。娘たちはプレーイアデスといわれ、アルキュオネー、メロペー、ケライノー、エーレクトラー、ステロペー、ターユゲテー、マイアである。

つまりプレーイアデス(プレイアデス=プレアデス)っていうのは7人の娘のことをいってる。でもプレアデス星団の星で固有名がついてるのは9つある。両親の名前もつかわれてるからだ。Alcyone、Merope、Celaeno、Electra、Asterope、Taygeta、Maia、Pleione、Atlas っていうのがそうなんだけど、これはラテン語のかたちだ。日本語としてのよみかたはどうもまちまちで、これってはっきりきまってないのかな。それからステロペーにはアステロペーって別名があって、ここでもそうなってる。あと Asterope はふたつ星だっていうのがわかってるから、Asterope I、Asterope II とかいってるみたいだ。

学名も星の固有名も古典にある名前とはかぎらないし、もともとラテン語じゃないのもあるから、古典式によむ必要はないとおもうけど(最初っから古典ラテン語としておぼえてる単語をわざわざ古典式じゃない発音でよまなきゃいけないともおもわないけど)、それにしてもちょっとへんなカタカナがきがある。たとえば「アルキオーネ」「メローペ」「アステローペ」っていうのは のばすとこがおかしい。どの発音を採用するにしてもアクセントの位置はおんなじで、それぞれ Alcýone、Mérope、Astérope なんだから、うしろから2番めの母音はのびない。なんでもかんでもロマンス語ふうにうしろから2番めをのばせばいいってもんじゃないだろう。だいたいロマンス語だってうしろから2番めにアクセントがあるとはかぎらないのに。

で、両親の名前はともかく、この7人姉妹の名前のおぼえかたって ないのかなっておもってたら、よさそうなのがあった。っていってもギリシャ語の詩だけど…。それはアラートスの『パイノメナ(星辰譜)』で、プレーイアデスの名前をあげてるとこはこうなってる(262-263)。

Ἀλκυόνη Μερόπη τε Κελαινώ τ᾿ Ἠλέκτρη τε
καὶ Στερόπη καὶ Τηϋγέτη καὶ πότνια Μαῖα.

[alkyónɛː merópɛːte kelainɔ̌ːt ɛːléktrɛːte
kǎi sterópɛː kǎi tɛː.yɡétɛː kǎi pótnia mâija]

―∪∪|―∪∪|―∪∪|――|――|―∪
―∪∪|――|―∪∪|――|―∪∪|―∪

アルキュオネーとメロペーとケライノーとエーレクトレーと
ステロペーとテーユゲテーと とうといマイア。

これは叙事詩の形式だから韻律はヘクサメトロス(古代ギリシャの韻律:ヘクサメトロス」)。これをみると名前の順番がアポッロドーロスとおんなじなのがわかる。アポッロドーロスの年代ははっきりしないみたいだけど、アラートスよりはあとだから、アポッロドーロスがアラートスを参考にしたのかな。

で、ヘクサメトロスの2行にピッタリおさまってるとこがおぼえるのにちょうどいい。τε [テ](母音が省略されて τ᾿ になってるとこがある)と καί [カイ]は接続詞で「と」っていう意味。καί [カイ]は and とおんなじようなもんだけど、τε [テ]のほうは語順がちがって、むすびつける単語のあとにつく。

それからマイアのまえに πότνια [ポトニア]っていうのがあるけど、これは女神とか女のひとの枕ことばみたいなもんで、とりあえず韻律をうめるためにつかわれてるっていえるだろう。名詞としては「女主人、女王、女神」、形容詞としては「尊敬すべき、崇高な」っていう意味だけど、なんでマイアだけ?っておもわないでもない。韻律の関係からいくとマイアがいちばんみじかい名前だからっていうのがあるのかもしれない。アルキュオネーとエーレクトレーとテーユゲテーが6モーラ(拍)、ケライノーが5モーラ、メロペーとステロペーが4モーラなのに、マイアは3モーラだ。それから、内容的にはマイアが長女だっていうのが関係あるんじゃないかな。それにマイアはヘルメースの母親だから、その関係も?

あと『パイノメナ』は叙事詩だから、でてくる名前が叙事詩のかたちになってる。『ビブリオテーケー』とくらべてみればわかるけど、「エーレクトラー」が「エーレクトレー」に、「ターユゲテー」が「テーユゲテー」になってる。

これは星の名前っていうより神話のプレーイアデスの名前だけど、この詩を応用して、プレアデスの星の名前のおぼえかたをつくることもできるだろう。星の名前としてはラテン語のかたちの固有名をつかうとして、そのよみかたは上にもかいたみたいに古典式じゃなくていい。そうするとプレアデス星団の星の固有名は、両親の名前をのぞくと、『パイノメナ』にでてくる順に、Alcyone、Merope、Celaeno、Electra、Asterope、Taygeta、Maia だから、これをとりあえずカタカナにすれば、アルキュオネ、メロペ、ケラエノ、エレクトラ、アステロペ、タユゲタ、マイアってことになる。あらためてこんなことをいうまでもなく、そこらでつかわれてる名前とたいしてかわりないけど。

で、この名前で『パイノメナ』を訳して短歌みたいにすれば、こんな感じだろう。

アルキュオネ、メロペ、ケラエノ、エレクトラ
  ステロペ、タユゲタ、とうといマイア。

字かずの関係もあって『パイノメナ』にならって「アステロペ」じゃなくて「ステロペ」のほうにしたけど、星の名まえとして「ステロペ」をつかってる本もあるから、まあいいかな。『パイノメナ』にでてくる順序のまんまで短歌の形式として一応うまくいってるとおもう。ただし「ステロペ、タユゲタ」のとこは字あまりだけど。どうしても字あまりのない短歌にしたければ、ステロペがふたつ星だってことをいれて、こういう手があるかもしれない。

アルキュオネ、メロペ、ケラエノ、エレクトラ
  ステロペふたつ、タユゲタ、マイア。

ところで、このプレアデスの固有名でちょっとふしぎなことがある。ギリシャ語の単語をラテン語にするときギリシャ語の二重母音 αι [ai]はラテン語の二重母音 ae になる。だから Κελαινώ [kelainɔ̌ː]は Celaeno になってる。ところが Μαῖα [mâija]は Maea じゃなくて Maia だ。ローマのふるい女神で Maia っていうのがいるんだけど、この女神とギリシャのマイアが混同されたっていうはなしだから、まあそういうことなんだろう。

それから Taygeta もちょっと気になる。ギリシャ語の ɛː]でおわる女性名詞をラテン語の学名とかにするときは語尾が -a になるのがふつうだから、そのことからすればべつにおかしくない。でも、ひとの名前とかだと -e のまんまのこともおおい。それは Alcyone、Merope、Asterope をみてもわかる。それがなんで Taygeta だけ Taygete じゃないんだろ。それに、これは星の名前だけのことで、ひとの名前としてはラテン語でも Taygete [ターユゲテー]なのに。

アポッロドーロス:アポロドーロス、アポッロドロス、アポロドロス。 ビブリオテーケー:ビブリオテケ。 アトラース:アトラス。 オーケアノス:オケアノス。 プレーイオネー:プレイオネ。 アルカディアー:アルカディア。 キュッレーネー:キュレーネー、キュッレネ、キュレネ。 メロペー:メロペ。 ケライノー:ケライノ。 エーレクトラー:エレクトラ。 ステロペー:ステロペ。 ターユゲテー:タユゲテ。 アステロペー:アステロペ。 アラートス:アラトス。 パイノメナ:ファイノメナ。 ヘルメース:ヘルメス。

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2007.05.25 kakikomi; 2015.09.24 kakinaosi

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