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黄道帯は獣帯

地球からみた太陽のとおり道を黄道っていうけど、この黄道を中心に南北に8度か9度の幅のベルトを黄道帯とか獣帯っていってる。この帯の幅は、惑星がこれより外にでないってことで きめられたものなんだけど、あとからみつかった めい王星はこの幅よりもさらに9度はみだすことがある。でも、めい王星はけっきょく惑星じゃなくなったから(めい王星は「矮惑星」」)、また惑星はみんな黄道帯におさまることになった。めでたし、めでたし。

黄道帯は英語で zodiac [ゾウディアック]っていうけど、このもとはラテン語の zodiacus [ゾーディアクス]で、さらにそのもとはギリシャ語の ζῳδιακός [zdɔːidiakós ズドーイディアコス/zɔːdiakós ゾーディアコス]だ。このことばは ζῴδιον [zdɔ̌ːidion ズドーイディオン/zɔ̌ːdion ゾーディオン]の形容詞で、ζῴδιονζῷον [zdɔ̌ːjon ズドーヨン/zɔ̌ːon ゾーオン](いきもの、動物、絵、像)の縮小形。この ζῳδιακός だけでも黄道帯の意味になるけど、ほかに「円、輪」って意味の κύκλος [kýklos キュクロス](英語の cycle の語源)がついて ζῳδιακὸς κύκλος [zdɔːidiakós kýklos ズドーイディアコス キュクロス/zɔːdiakós kýklos ゾーディアコス キュクロス](逆の語順もある)っていったり、「道」って意味の ὁδός [hodós ホドス]って女性名詞が省略された ζῳδιακή [zdɔːidiakɛ̌ː ズドーイディアケー/zɔːdiakɛ̌ː ゾーディアケー]っていう女性形もつかわれる。それから ζῴδιον の複数属格をつかって ὁ κύκλος ὁ τῶν ζῳδίων [hokýklos hotɔ̂ː zdɔːidíɔːn ホ・キュクロス ホ・トー ズドーイディオーン/hokýklos hotɔ̂ːz zɔːɔːn ホ・キュクロス ホ・トーッ ゾーディオーン](十二宮の円)っていうこともある。

ζῷον は「動物」って意味だから zodiac は「獣帯」って訳されることにもなった。ドイツ語でも、ラテン語をつかった Zodiakus [ツォディーアクス]のほかに Tierkreis [ティーアクライス](動物の輪)っていう翻訳語がある。それに黄道十二宮・十二星座をみるとたしかに動物がおおい(西洋とインドの星うらない」「十二星座、十二宮のおぼえかた」)。でも、ふたご座とかおとめ座は動物じゃないし、てんびん座はいきものでもない。となると zodiac っていうのもちょっとへんないいかたってことになる。

これに関してはいろんな説明ができるだろう。まず ζῷον についていうと、これはせまい意味の「動物」だけじゃなくて「いきもの」だから、ふたご座とかおとめ座がはいっててもおかしくはない。みずがめ座も、日本語じゃ「みずがめ」っていって ものの名まえになってるけど、ギリシャ語の Ὑδροχόος [hydrokʰóos ヒュドロコオス]は「水をそそぐ男」だし、ラテン語の Aquarius [アクヮーリウス]も「水男、水をはこぶ男」、それに英語の the Water Bearer/Carrier も「水をはこぶひと」、ドイツ語の Wassermann [ヴァッサーマン]も「水男」で、みんなものじゃなくてひとになってるから、これも「いきもの」だ。それから てんびん座はむかしは(サソリの)はさみ座だったから、これもいきものの一部だ(プトレマイオスの48星座とアラートスの星座(ギリシャ語とラテン語):てんびん座」)。そうすると「獣帯」とか Tierkreis って訳すと意味がせますぎることにはなるけど、zodiac そのものは「いきものの帯」ってことでおかしくはないことになる。

ほかの説明として ζῷον のべつの意味のほうからかんがえることもできる。上にもかいたけど ζῷον には「絵、像」って意味もあって、それもいきものの絵とか像とはかぎらない。そこからさらに十二宮の「宮」の意味にもつかわれる。これは縮小形の ζῴδιον もおんなじだ。「絵、像」から「宮」になるっていうのはわかりにくいかもしれないけど、日本語で「宮」っていってるだけで、英語なら「宮」は sign だから、「絵、像」から sign の意味になるんならわかんないこともないだろう。で、そういうことだと ζῳδιακός、zodiacus、zodiac は「動物の、いきものの」ってことじゃなくて「宮の」って意味だから、このことばそのものが「獣帯」ってことじゃないことになる。ただし直接「いきもの」ってことじゃなくて「宮」のことだったにしても、「いきもの」のニュアンスもやっぱりあるような気はする。

ところで黄道帯っていうとシュタイナーがおもしろいことをいってる。動物の形態は黄道帯としてあらわされてる存在からつくられたとかで、だからそもそも動物と関係あるんだってことなんだけど、それからすれば「獣帯」とか Tierkreis って翻訳もちょうどいいことになるんだろう。

ただまあ、ことばの意味はともかくとして、「獣帯」は例によって2文字の漢語だから、「ジュータイ」ってよむのはほかにも「渋滞」とか「重体・重態」とかがある。このふたつのほうが一般的だろうから、「獣帯」のほうはなんとかなんないかな。まあ、「黄道帯」っていっときゃいいんだけど。ただ、その「黄道帯」にしても、「コードータイ」ならとりあえずほかにないからいいけど、「黄道」だけだと、「コードー」っていうのは「行動」とか「講堂」とか「公道」とかがある。それに、天文学の用語っていうと、「合」とか「衝」とか「食」とか漢字ひと文字の用語もあるけど、こういうのも、「ゴー」とか「ショー」とか「ショク」とか、きいただけじゃわかりにくいから、どうかとおもう。

めい王星:冥王星。 ふたご座:双子座。 おとめ座:乙女座。 てんびん座:天秤座。 みずがめ座:水瓶座。

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2007.05.23 kakikomi; 2010.10.01 kakinaosi

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