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賛美歌の2音節の「イエス」

日本語の賛美歌はなぜかイエスっていう名まえを2音節でうたってる。つまり「イ・エ・ス」じゃなくて「イェ・ス」ってうたうようになってるんだけど、なんでこんな気もちわるいことになっちゃってるんだ?

西洋人の宣教師が2音節でうたうようにしむけたのかな。曲そのものは外国のもので、それに日本語の訳詞をつけたのがほとんどだとおもうけど、その歌詞をつけるときにとうぜん宣教師の指導なり影響なりがあっただろう。

いまの西洋語でイエスっていうと、英語は Jesus [ジーザス]、ドイツ語は Jesus [イェーズス]、イタリア語は Gesù [ジェズ]、フランス語は Jésus [ジェズュ]、スペイン語は Jesús [ヘスス]。こういうのはみんな2音節だ。

そういえば日本でもむかしは「やそ(耶蘇)」なんていってたから、これも2音節だけど、このことも関係あったりして? でもって「やそ」なんてことになってるのは、中国で「耶蘇」(いまペキン語の発音で yēsū)ってかいてたのをそのまんま音よみしたからで、日本語として西洋語を直接うつしたんなら、いくらむかしでもこうはなんなかっただろう。

上にあげた西洋語のイエスのもとはラテン語の Jesus だ。ふるくはラテン語に J の文字はなかったから、もともとは Iesus ってかいた。このばあい I が母音か半母音か問題だけど、母音だったとすると最初は[イエースス]ってよんで3音節だったことになる。でも、のちには Jesus ってかくようになったわけで、これだと[イェースス]、のちには[イェズス/イェーズス]で2音節になる。新共同訳になるまえのカトリックの日本語訳は「イエズス」だったけど、もとはこのラテン語なんだろうな。

で、ラテン語の Iesus はギリシャ語の Ἰησοῦς [iɛːːs イエースース]をうつしたもんだけど、このギリシャ語のもとはヘブライ語だ。

ヘブライ語だと もともとこの名まえは יהושוע yəhôšûa [イェホーシューア]だった(日本語訳の聖書だと「ヨシュア」になってる)。それが ישוע yēšûa [イェーシューア]になったのをギリシャ語のかたちにしたのが Ἰησοῦς だ。だから七十人訳(セプトゥアギンタ、古代のギリシャ語訳旧約聖書)だと「ヨシュア」は Ἰησοῦς になってる。逆にいまのヘブライ語訳の新約聖書をみるとイエスは ישוע [イェーシューア]になってる。

ギリシャ語の Ἰησοῦς はその後発音がかわって、現代ギリシャ語だと Ιησούς [イイスス]になった。ロシアから日本にはいったロシア正教だとイエス・キリストのことを「イイスス・ハリストス」っていってて、これはとうぜんロシア語からきてる。ロシア語のイエスは Иисус [イイスス]で、現代ギリシャ語とおんなじだ(アクセントの位置も)。これはつまりキリスト教がスラブ人につたわったころのギリシャ語の Ἰησοῦς の発音はもう現代語みたいになってたってことだろう。おんなじことはギリシャ文字の Β (ベータ、古典語の発音は[b]、現代語の発音は[v])がもとになったロシア文字の В (ヴェー)の発音が[v]になってることにもいえる。

こうしてみると3音節のイエスもけっこうあるわけだし、もとはといえば3音節だったんだから、日本語の3音節はぜんぜんおかしくない。っていうか、そもそも外国語が全部2音節だったとしても日本語で3音節なのがわるいわけじゃない。

3音節のばあいと2音節のばあいのちがいは、上の例からするとヘブライ語はのぞいて最初の音が母音か半母音かによる。母音なら全体が3音節になってるし半母音なら2音節だ。ただしエスペラント語の Jesuo [イェスーオ](Jezuo [イェズーオ]っていうのもある)は例外で、半母音なのに3音節になってる。これは Jesu- っていう語根に名詞語尾 -o がついてるからで、そのぶん音節がひとつおおくなってる。

2007.10.18 kakikomi; 2010.12.23 kakinaosi

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