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エスペラント語の数詞のヘンなところ(ドイツ語とかイタリア語とかフランス語とかとおんなじようなもんだけど)

エスペラント語の基本的な数詞は12個ある。

1 unu [ウーヌ]
2 du [ドゥ]
3 tri [トリ]
4 kvar [クヴァル]
5 kvin [クヴィン]
6 ses [セス]
7 sep [セプ]
8 ok [オク]
9 naŭ [ナウ]
10 dek [デク]
100 cent [ツェント]
1000 mil [ミル]

ほかの数字はこれのくみあわせになって、たとえば34万5678なら tricent kvardek kvin mil sescent sepdek ok になる。

で、最初にこの数詞をみたとき どうもおかしな印象をうけた。なんていったらいいのか、ほかのエスペラント語の単語とくらべて不自然っていうか、わざとらしいっていうか、そういう感じだ。数詞はほかの品詞とちがって語尾がなくて語根のまんまだからだろう。みょうな感じで子音でおわってるのがおおい。

でも、それはそれとして、もっとヘンなのはこれよりおおきな数のばあいだ。cent mil (10万)よりおおきな位っていうと、miliono [ミリオーノ](100万)、miliardo [ミリアルド](10億)、duiliono [ドゥイリオーノ](1兆)なんていうのがあるんだけど、miliono 以上の数は数詞じゃなくて名詞になる。ここがなんていってもヘンなとこだ。

数詞だろうが名詞だろうがどうでもいいっておもうひともいるかもしれないけど、数詞じゃなくて名詞だってことからちょっと面倒なことがおこってくる。数詞は変化がないのに名詞のほうは数と格によって変化する。たとえば2000は du mil で mil は変化しないけど、200万は du milionoj [ドゥ ミリオーノイ]っていうふうに miliono が複数形の milionoj になる。それから miliono とかは対格のばあいは対格のかたちになるから、単数対格なら milionon [ミリオーノン]、複数対格なら milionojn [ミリオーノイン]になる。mil 以下の数詞は対格でも変化しない。

それから数詞は形容詞として名詞に直接つけられるけど、名詞のばあいはそうはいかない。「3000人のひと」なら tri mil homoj [トリ ミル ホーモイ]っていうふうに名詞のまえに数詞をつけるだけですむけど、「300万人のひと」だと tri milionoj da homoj [トリ ミリオーノイ ダ ホーモイ]っていうふうに名詞のまえに前置詞の da をいれなきゃいけない。ただし miliono とかのあとに数詞がつづくばあいには da はいらない。「340万人のひと」は tri milionoj kvarcent mil homoj になる。

100万以上が名詞だっていうのは、西洋語の 不合理 なとこを直接ひきついだものだろう。いろいろ文法を簡単にして合理的に整理してるはずの人工語が、なんでこんなのをのこしてるんだろ。

数詞と名詞の区別は英語だとあいまいだけど、ドイツ語ならはっきりしてる。100は hundert [フンダート]、1000は tausend [タウゼント]で、ここまでは数詞だけど、100万は Million [ミリオーン]、10億は Milliarde [ミリアルデ]で、ドイツ語でも100万以上は名詞になる。ドイツ語は名詞を大文字でかきはじめるから、100万以上が名詞だってことはつづりからすぐわかる。それから名詞は複数形になるから、200万なら zwei Millionen [ツヴァイ ミリヨーネン]っていうふうに複数形がつかわれる。ちなみに1000以下の数詞が名詞としてつかわれることもあって、そのばあいは Tausend みたいに大文字でかきはじめる。

イタリア語とかフランス語とかはドイツ語とちがってつづりから名詞かどうかわかるわけじゃないけど、やっぱり100万以上は名詞になってる。100万はイタリア語で milione [ミリヨーネ]、フランス語で million [ミリヨン]、10億はイタリア語で miliardo [ミリヤルド]、フランス語で milliard [ミリヤール]。名詞だから複数形になるし、名詞を修飾するばあいには前置詞が必要になる。30億ドルはイタリア語だと tre miliardi di dollari [トレ ミリヤルディ ディ ドッラリ]、フランス語だと trois milliards de dollars [トロワ ミリヤール ド ドラール]で、それぞれ miliardi、milliards っていう複数形になるし、di、de っていう前置詞がつかわれる。こういうのがエスペラント語にひきつがれちゃってるわけだ。

ドイツ語の eins [アインス](1)、イタリア語の uno [ウーノ](1)と mille [ミッレ](1000)、フランス語の un [アン](1)は形容詞みたいな変化がちょっとあるんだけど、それでも数詞だから前置詞をつかう必要はない。エスペラント語の1と1000は変化しないから、このへんは簡単になってるんだけど、それなら100万以上が名詞っていうのもどうにかなんなかったのかな。

西洋語でおおきな数が名詞だっていうのは、もともとおおきな数の数詞がなかったからだろう。ドイツ語の Million は15世紀にイタリア語から、Milliarde は18世紀のおわりにフランス語からはいった外来語だ。それからイタリア語の miliardo はフランス語からはいった単語で、フランス語の million はイタリア語からはいった。なんかややっこしいけど、もともとはラテン語の mille [ミーッレ](1000)っていうのがあって、これに語尾をつけた「おおきな千」って意味のことばから初期イタリア語の millione ができた(いまのイタリア語だとちょっとかたちがかわって milione になってる)。これがフランス語にはいって million になったり、ドイツ語にはいって Million になったり、さらにフランス語から英語にもはいった。それからフランス語で milliard ができて、これがイタリア語とかドイツ語とか英語にはいった。

名詞ってことでいえば、インド・ヨーロッパ語族の数詞は、20から90と、100から900と、1000はもともと名詞だったらしい。それからエスペラント語の nulo [ヌーロ](ゼロ)も名詞だ。ただしこの語根 nul [ヌル]を数詞あつかいにするつかいかたが一般的になってる。miliono とか miliardo とかも名詞語尾をとって語根を数詞としてつかうっていうかんがえかたもあるけど、どうも nul みたいにはいかないらしい。発音のうえで問題があったり、milion [ミリーオン]だと milio [ミリーオ]の対格みたいにきこえる(milio って名詞はないみたいだけど)。

ドイツ語のゼロは数詞としては null [ヌル]、名詞としては Null で、おんなじ単語を数詞のときは小文字で名詞のときは大文字でかきはじめることになってるから、結果としてはほかの数詞とかわりない。でも、もともとはべつの単語で、それぞれ16世紀にドイツ語にはいった。null はラテン語の nullus [ヌーッルス](だれも[なにも]~ない)から、Null はイタリア語の nulla [ヌッラ](なにも~ない)からきてるんだけど、イタリア語の nulla のもとはラテン語の nullus の中性複数形 nulla [ヌーッラ]だから、結局はおんなじ語源ってことにはなる。

イタリア語の zero [ゼーロ]、フランス語の zéro [ゼロ]も、ほかの数詞とちがっておおむかしからあった単語じゃないけど、名詞としても形容詞としてもつかわれるから、ほかの数詞とおんなじことになってる。

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2007.10.02 kakikomi

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