« プラトーンとアリストテレースの引用:
ステファヌス版とベッカー版
| トップページ | 「オンブラ・マイ・フ」
クセルクセースに愛されたプラタナス »

アナクレオーン風歌謡

古代ギリシャの詩人アナクレオーンの作品にならった詩をアナクレオーン風歌謡(アナクレオンテイア/アナクレオンテア。古代ギリシャの韻律:アナクレオーン風」)っていうんだけど、これが近代西洋の詩にあたえた影響はおおきい。

1554年にアンリ・エチエンヌ(プラトーンとアリストテレースの引用:ステファヌス版とベッカー版」)が、あたらしく発見されたアナクレオーンの詩集を出版した。ただしこれは実際にはアナクレオーンの作品じゃなくて、アナクレオーンの名まえでつたわってる詩だった。この60篇あまりのアナクレオーン風歌謡の出版にはおおきな反響があって、翻訳もでたし、このスタイルの作品とかもうみだされてくことになった。ロンサール(Pierre de Ronsard、1524-1585)の翻訳からはじまって、トマス・モアとかゲーテの詩なんかがある。その影響は3世紀のあいだつづいた。

アナクレオーン風歌謡には酒と恋の歌がおおい。英語で Anacreontic (アナクレオーン風)っていうと「酒と恋の」っていう意味もあるぐらいだ。たとえば酒の歌にはこんなのがある。

ἡ γῆ μέλαινα πίνει,
πίνει δένδρεα δ᾿ αὖ γῆν.
πίνει θάλασσ᾿ ἀναύρους,
ὁ δ᾿ ἥλιος θάλασσαν,
τὸν δ᾿ ἥλιον σελήνη·
τί μοι μάχεσθ᾿, ἑταῖροι,
καὐτῷ θέλοντι πίνειν;

[hɛː‿ɡɛ̂ː mélaina pǐːneː
pǐːneː déndrea d âu ɡɛ̂ːn
pǐːneː tʰálass anǎuruːs
hod hɛ̌ːlios tʰálassan
tón d hɛ̌ːlion selɛ̌ːnɛː
moi mákʰestʰetâiroi
kautɔ̂ːi tʰélonti pǐːneːn]

――∪―∪――
―――∪∪――
――∪―∪――
∪―∪―∪――
――∪―∪――
∪―∪―∪――
――∪―∪――

黒い大地が 雨を飲み、
かたや大地を 木々が飲む。
川のながれを 海が飲み、
海を飲むのは 太陽で、
その太陽を 月が飲む。
仲間よ、なんで とめるのだ。
飲みたいのだよ おれだって。

恋の歌にはこんなのがある(一部分)。

χαλεπὸν τὸ μὴ φιλῆσαι,
χαλεπὸν δὲ καὶ φιλῆσαι·
χαλεπώτερον δὲ πάντων
ἀποτυγχάνειν φιλοῦντα.

[kʰalepón mɛ̌ː pʰilɛ̂ːsai
kʰalepón kǎi pʰilɛ̂ːsai
kʰalepɔ̌ːteron dé pántɔːn
apotyŋkʰáneːm pʰilûːnta]

∪∪―∪―∪――
∪∪―∪―∪――
∪∪―∪―∪――
∪∪―∪―∪―∪

恋をしないのは つらいもの、
恋をするのも つらいもの。
それよりもっと つらいのは
うまくいかない かたおもい。

単語の説明:
ἡ (< ὁ) [定冠詞、女性・単数・主格]
γῆ 大地 [女性・単数・主格]
μέλαινα (< μέλᾱς) 黒い [女性・単数・主格]
πίνει (< πίνω) 飲む [能動態・直説法・現在・単数・3人称、原文に目的語はないけど、七五調にあわせておぎなった]
δένδρεα (= δένδρη < δένδρος) 木 [中性・複数・主格、母音が融合してないかたち]
δ᾿ αὖ (= δὲ αὖ) 同様に、今度は、もう一方は
γῆν (< γῆ) 大地 [女性・単数・対格、大地の水分をすいあげるってことだろう]
θάλασσ᾿ (= θάλασσα) 海 [女性・単数・主格]
ἀναύρους (< ἄναυρος) 川、ながれ、山川、激流 [男性・複数・対格]
 [定冠詞、男性・単数・主格]
δ᾿ (= δέ) [かるい接続につかわれる接続詞、たいてい文の2番めにおかれる]
ἥλιος 太陽 [男性・単数・主格]
θάλασσαν (< θάλασσα) 海 [女性・単数・対格、この行は πίνει が省略されてる]
τὸν (< ὁ) [定冠詞、男性・単数・対格]
ἥλιον (< ἥλιος) 太陽 [男性・単数・対格]
σελήνη 月 [女性・単数・主格、この行は πίνει が省略されてる、太陽のひかりをもらってかがやいてるってことだろう]
τί なぜ
μοι (< ἐγώ) わたしに(対して) [人称代名詞、男性・単数・与格]
μάχεσθ᾿ (= μάχεσθε < μάχομαι) あらそう、論争する、反抗する [能動態・直接法・現在・複数・2人称]
ἑταῖροι (< ἑταῖρος) なかま、友だち [男性・複数・呼格]
καὐτῷ (= καὶ αὐτῷ): καί ~も; αὐτῷ (< αὐτός) ~自身 [男性・単数・与格、μοι の性・数・格に一致]
θέλοντι (< θέλω = ἐθέλω) のぞむ、ねがう [能動態・現在・分詞・男性・単数・与格、μοι の性・数・格に一致]
πίνειν (< πίνω) 飲む [能動態・現在・不定詞]

χαλεπὸν (< χαλεπός) たえがたい、むずかしい、つらい [中性・単数・主格]
τὸ (< ὁ) [定冠詞、中性・単数・主格]
μὴ (< μή) [主観的・一般的な否定]
φιλῆσαι (< φιλέω) 愛する [能動態・アオリスト・不定詞]
χαλεπώτερον (< χαλεπός) [比較級・中性・単数・主格]
πάντων (< πᾶς) すべての [中性・複数・属格]
ἀποτυγχάνειν (< ἀποτυγχάνω) 的をはずす、おもったとおりにならない [能動態・現在・不定詞]
φιλοῦντα (< φιλέω) 愛する [能動態・現在・分詞・男性・単数・対格、ἀποτυγχάνειν のあらわされてない主語の性・数・格に一致、不定詞の主語はふつう対格] 

アナクレオーン:アナクレオン。 エチエンヌ:エティエンヌ。

関連記事
 ・古代ギリシャの韻律:アナクレオーン風
 ・プラトーンとアリストテレースの引用:ステファヌス版とベッカー版
 ・「ギリシャ語記事一覧:詩

2007.12.10 kakikomi; 2015.09.24 kakinaosi

|

« プラトーンとアリストテレースの引用:
ステファヌス版とベッカー版
| トップページ | 「オンブラ・マイ・フ」
クセルクセースに愛されたプラタナス »