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プラトーンとアリストテレースの引用:
ステファヌス版とベッカー版

プラトーンとかアリストテレースの作品には、たいてい欄外に数字とアルファベットがついてて、引用するときにはこれをつけて出典の場所をしめすことになってる。

プラトーンだと、たとえば『饗宴』172B6 とかそんな感じなんだけど、アルファベットのあとには数字をつけなくて、おおざっぱに指示することもある。

この数字とアルファベットは、ステファヌス版っていうプラトーン全集のページと段落をしめすものなんだけど、この版は、アンリ・エチエンヌ(Henri Estienne、1528-1598)っていうパリの出版業者が1578年にジュネーブで出版したプラトーン全集(Platonis opera quae extant omnia)で、このひとの名まえはラテン語だと Henricus Stephanus だから、このラテン語の名まえからステファヌス版っていわれてる。ちなみに、エチエンヌはいまのフランス語のつづりだと Étienne になる。

ステファヌス版は1ページが左右2欄にわかれててラテン語と対訳になってる。当時はこういうのがおおかった。172B の172がページ、B っていうのは10行ごとについてるアルファベットで、E まである。それから、この版は3巻になってて、おんなじページになるとこが3つあることになるから、作品の名まえはかならずつけなきゃいけない。

こういうふうにステファヌス版にもとづいて引用の場所をしめすことになってるんだけど、実物はなかなかみられないだろうから、たいていは直接この版をみるんじゃなくて、バーネット版のほうがつかわれてる。これは Oxford Classical Texts (OCT)っていうシリーズのなかのバーネット(John Burnet、1863-1928)校訂のプラトーン全集全5巻(Platonis Opera、1900–1907)で、いまは第1巻はあたらしくなって、べつの校訂者の版になってる。

172B6 みたいにアルファベットのあとにつける数字はアルファベットの区分のなかの行をあらわしてるんだけど、これなんかはとくにステファヌス版じゃなくてバーネット版のほうの行だったりする。バーネット版にはステファヌス版のページとアルファベットが欄外についてるけど、そもそも活字のくみかたがちがうから、とうぜん行までは一致してない。で、アルファベットの区分のなかにはバーネット版そのものの行が5行ごとについてて、実際にはこの行がつわれてるみたいだ。

ただ、それにしても、翻訳だと原文とは語順もちがうし、引用の場所をしめすにしても、行まで原文と一致してるとはかぎらない。それにアルファベットの区分でうまく くぎれてるんじゃないこともある。もちろんページだってそうだ。だから、翻訳の引用のばあい、こまかいとこでちょっとしたちがいもある。

それから、もともとステファヌス版についてるアルファベットは大文字なんだけど、バーネット版のほうは小文字になってて、翻訳の欄外についてるのにしても、引用の場所をしめすばあいにしても、大文字と小文字のどっちもつかわれてる。

アリストテレースのほうは 1025b12 とかいうふうになってて、これは1831年にベルリンで出版された、ベッカー(August Immanuel Bekker、1785-1871)校訂、プロイセン王立アカデミー刊行のギリシャ語アリストテレース全集(Aristoteles graece, ex recensione Immanuelis Bekkeri, edidit Academia Regia Borussica)の場所をしめしてる。ベッカー版っていわれてて、まず最初の数字がこの版のページ、つぎのアルファベットは、1ページが2欄にわかれてるうちの左の欄が a、右の欄が b で、そのつぎの数字は、その欄のなん行目かをしめしてる。

アリストテレースの作品でも、ベッカー版がでたよりあとに発見された『アテーナイ人の国制』にはベッカー版の番号はつかわれなくて、章と節でしめされる。この写本は(一部かけてるけど)1890年に大英博物館が手にいれて、1891年に最初の校訂本がでた。それから、「断片集」のほうもベッカー版の番号はつかわれない。断片集はベッカー版にふくまれてるんだけど、その部分はローゼ(Valentin Rose)の校訂で、これの改訂版が2回でて、ローゼのかしら文字をとって、第2版が R2、第3版が R3 っていうのをつけた断片番号でしめされる。ただし、ほかの校訂本もあって、それだとまた番号がちがってるし、ほかの作品のベッカー版の番号ほどきまったあらわしかたじゃないみたいだ。

ところで、ステファヌス版は、出版の年からわかるように近世初期の印刷本で、プラトーンの原文が印刷本で出版されるようになった最初のころのものだから、中世写本の結合文字とか略字がけっこうそのまんま活字になってつかわれてて、それをしらないとよめない(ステファヌス版プラトーン全集」)。

st_ouベッカー版のほうは、もうそんな年代じゃないから、いまの印刷本と基本的にはかわんないけど、ουστ の結合文字はつかわれてる。

プラトーン:プラトン。 アリストテレース:アリストテレス。 エチエンヌ:エティエンヌ。 アテーナイ:アテナイ、アテネ。

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2007.12.05 kakikomi; 2012.01.01 kakitasi

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