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ギムナジウムとリセ

ドイツには4年間の基礎学校(Grundschule [グルント・シューレ])のあとに大学進学コースの9年制の学校があって、ギムナジウム(Gymnasium [ギュムナーズィウム])っていうけど、このことばにはラテン語とギリシャ語の特徴がある。

まず単語のおしまいの -um がラテン語の中性名詞の語尾だ(とうぜんドイツ語でも中性名詞)。それから、つづりのなかに y があるのがギリシャ語っぽい。

Gymnasium のもとはラテン語の gymnasium [ギュムナスィウム]で、そのもとはギリシャ語の γυμνάσιονɡymnásion ギュムナスィオン]だ。ラテン語になって、ギリシャ語の中性名詞の語尾 -ον [on]がラテン語の中性名詞の語尾にかわってる。

ギリシャ語の γυμνάσιον [ギュムナスィオン]は「体育場」のことで、「はだか」って意味の γυμνόςɡymnós ギュムノス]からうまれたことばだ。はだかになってからだをきたえたから、こういう名まえがついた。「体育場」から「体育学校」ってことになって、さらに「学校」って意味にもなった。

現代ギリシャ語の γυμνάσιο [jimˈnasio イ゙ムナースィオ]は「中学校」のことで、「体育館」のほうは γυμναστήριο [jimnasˈtirio イ゙ムナスティーリオ]っていってる。

ドイツ語の Gymnasium は1500年ごろに「ラテン語学校」としてつかわれはじめたらしいけど、これはイギリスだと grammar school にあたるもので、こっちは名まえからして「(古典)文法学校」だ。ラテン語・ギリシャ語がおもな科目だったからだけど、ドイツとおんなじでいまじゃグラマースクールも大学進学コースの学校になってる。

ラテン語の gymnasium は英語にもはいって gymnasium [ジムネイズィアム]になった。こっちは学校じゃなくて「体育館、室内競技場、ジム」のことで(これがみじかくなった gym [ジム]は日本語にもなってる)、古代の「体育場、ギュムナシオン」の意味もある。それからドイツのギムナジウムの意味のときは[ギムナーズィアム]って発音する。

ラテン語の gymnasium が変化して、イタリア語の ginnasio [ジンナーズィオ/ジンナースィオ]、フランス語の gymnase [ジムナーズ]になった。どっちも古代のギュムナシオンの意味もあるけど、イタリア語の ginnasio は「後期中等学校」のことで、フランス語の gymnase は「体育場、体育館、(ドイツ・スイスの)ギムナジウム」のことだ。

ドイツのギムナジウム、イギリスのグラマースクールにあたるフランスの大学進学コースの学校は lycée [リセ]っていう。このことばはラテン語の lyceum [リュケーウム]が変化したもので、これにも y があることからわかるように、そのもとはギリシャ語の Λύκειον [lýkeːon リュケ~オン]だ。ここでもやっぱりラテン語になると、ギリシャ語の中性名詞の語尾 -ον [on]がラテン語の中性名詞の語尾 -um にかわってる。それとギリシャ語の ει は古典時代の発音だと口のひらきがせまい[eː]で、のちには[iː]になったから、ラテン語にうつすときは i [イー]になることがおおいんだけど、子音のまえの ει が[iː]になっても、母音のまえの ει はまだ[eː]だった時期があったから、ここでも λύκειονει はラテン語で e [エー]になってる。

Λύκειον [リュケ~オン](リュケイオン)っていうのは、古代のアテネで東側の城壁のすぐ外にあった、体育場(ギュムナシオン)をそなえた公園のことで、ちかくにはアポッローンの神殿がある。ここのアポッローンは「アポッローン・リュケイオス」っていわれてて、アポッローンの形容語「リュケイオス(Λύκειος [lýkeːos リュケ~オス])」の中性形「リュケイオン」がこの場所の名まえになった。この形容語の意味としては「オオカミごろしの」とか「(小アジアの)リュキアーの」とか「ひかりかがやく」とかの説がある。ここにアリストテレースが学園をひらいたから、その学園と学派もリュケイオンっていわれるようになって、リュケイオンからうまれたことばが学校をさすようになった。

現代ギリシャ語の λύκειο [ˈlikʲio リーキオ]は「高等学校」のことだ。そのほかフランスの「リセ」のことでもあるし「旧制の私立中高等学校」の名まえでもあった。

lycée とおんなじようにラテン語の lyceum が変化してできたのがイタリア語の liceo [リチェーオ](高等学校)だ。それからこのラテン語が英語にはいって lyceum [ライスィーアム]、ドイツ語にはいって Lyzeum [リュツェーウム]になった。英語の lyceum は「文化会、文化会館」のことで、Lyceum ならアリストテレースのリュケイオンのことになる。ドイツ語の Lyzeum は「(プロイセンの)女子高等学校」とか「(バイエルンの)カトリック高等神学校」だったりするけど、これはちょっとふるい。もちろんアリストテレースのリュケイオンの意味もある。それからスイスのギムナジウムの上級学年のことも Lyzeum っていう。

アポッローン:アポローン、アポッロン、アポロン、アポロ。 リュキアー:リュキア。 アリストテレース:アリストテレス。

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2008.01.30 kakikomi; 2017.05.23 kakitasi

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