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現代ギリシャ語のつづり

いまのギリシャにかかわりがあるひとのなかには、古典ギリシャ語とか古典式発音についてどのくらいしってるのかわかんないけど、古典ギリシャ語も現代語式の発音でよんだほうがいいとか、古代のひとや土地の名まえも現代語式の発音でカタカナがきするとかいうひとがいるみたいで、そりゃ、ギリシャ人がそういうふうにかんがえるのはあたりまえだろうけど、ギリシャ人でもないのに…、なんておもわないでもない。それにそもそもギリシャ人自身の目が過去にむいてるじゃないか。

現代ギリシャ語は日本語でいえば旧かなづかいにあたるようなつづりをあいかわらずつかってる。なんでもかんでも現代語式っていってるひとは、いまのギリシャ語がだいたいむかしのつづりのまんまなのはどうおもってるんだろ。古典語を現代語式によむなんてことより、現代語のつづりを現代語式つまり現代語に即したものにするほうがずっと意味があるだろう。

1982年に現代語としてはまったく意味がなくなった中世以来の記号を廃止したけど、記号以外のつづりはだいたい古代のまんまだ。記号っていうは3種類のアクセント記号と2種類の気息記号で(ギリシャ語の文字と発音:アクセント記号と気息記号など」)、アクセント記号はひとつだけにして、1音節の単語には基本的にアクセント記号をつけないことにした。気息記号のほうはまったくつかわなくなった。

つづりはちょこっとかえてるとこもあるけど、それほどむかしとちがいはない。そのために、たとえば[i]っていう母音をあらわすつづりが ι, η, υ, ει, οι, υι の6つもある。それにそもそも現代語には η, ω っていう母音字は必要ない。

古代以来のギリシャ文字は、現代ギリシャ語をあらわす文字としては母音字があまってるのに対して、子音字のほうは数がたりない。β, γ, δ は古代には[b, ɡ, d]っていう有声閉鎖音だったけど、現代語だと[v, ɣ, ð]っていう有声摩擦音にかわってる。そのために[b, ɡ, d]をあらわす文字がない。いちおう μπ, γκ, ντ ってつづりがそれぞれ[b, ɡ, d]をあらわすことにはなってるけど、はっきりしてるのは単語のあたまにでてきたときだけで、単語の途中にでてくるばあいは[mb, ŋɡ, nd]って発音のこともあるから、[b, ɡ, d]だけをあらわすつづりじゃない。

つづりを現代語に即したものにかえるっていうこころみもあったらしい。でもそれは挫折した。どこでもおんなじ感じだとおもうけど、どうせ知識人が反対したんだろう。まだ大衆社会になってなくて、文章をかくってことを知識人が独占してる状態だったんじゃないのかな。だから知識人の反対だけでことがきまっちゃったんだろう。

近代になってしばらくは国家の共通語としてのギリシャ語は「純正語」(καθαρεύουσα [カサレーヴサ])っていわれるものだった。これは古典語とはちがうんだけど、要するに文語で、発音はもちろん現代語の発音だけど、現代の単語を古代のかたちにもどしたり、古代以来の単語におきかえたりして、ことばを 純正 にして人工的につくったものだ。純正語っていうのはこういうもんだから、つづりだって古代式になるだろう。でもいまの共通語は「民衆語」(δημοτική [ズィモティキ])っていう要するに口語になったんだから、つづりだってどうにかすればいいとおもうんだけど。

まあでも、独立運動とか内戦とか、近代のギリシャはなかなか大変な歴史をあゆんできたから、ある種の民族主義が必要とされて、それが古代ギリシャとのつながりを意識させることにもなったみたいで、つづりが古代式なのはそういうこととも関係あるのかもしれない。

そういえば、これからつづりにも手をいれるなんてはなしをきいたことがある。それがほんとなら、どういうふうにするつもりなのかな。

古典ギリシャ語:古代ギリシャ語。

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2008.03.30 kakikomi; 2009.05.05 kakinaosi

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