ギリシャ語の関係文
関係詞をつかった構文には先行詞っていうものがあるけど、先行詞っていうぐらいだから、関係詞よりまえにでてくる。たとえば、「He did not hide the opinion that he had.」(かれは自分の意見をかくさなかった)だったら、先行詞「opinion」は関係代名詞「that」よりもまえにある(このばあいふつう「that」は省略されるけど、いまは関係詞のはなしだから省略しない)。関係代名詞は先行詞をうけるんだから、こんなことはいうまでもないっていうか、あたりまえだって感じだろう。ところが、古典ギリシャ語だと、これとはちがう語順がでてくる(にたようなことはラテン語とかサンスクリット語にもある)。
クセノポーン〔クセノフォーン/クセノポン/クセノフォン〕の『ソークラテース〔ソクラテス〕のおもいで』(4.4.1)にこういう文章がある。
οὐκ ἀπεκρύπτετο ἣν εἶχε γνώμην.「οὐκ[ウーク]」は「~ない」、「ἀπεκρύπτετο[アペクリュプテト]」は「かれはかくした」、「ἣν[ヘーン]」は関係代名詞で女性・単数・対格、「εἶχε[エ~ケ]」は「かれはもってた」、「γνώμην[グノーメーン]」は「意見」(女性・単数・対格)でこれが先行詞。これをみてわかるように関係代名詞のほうが先行詞よりまえになってる。先行詞が最後にきて関係代名詞とのあいだに関係文全体がはさまれるいいかただ。この語順で英語にしてみれば、「He did not hide that he had opinion.」ってことになるだろう。「that he had」っていう関係文がまえから「opinion」を修飾してるかたちだ。もちろんギリシャ語でも英語みたいに「οὐκ ἀπεκρύπτετο τὴν γνώμην ἣν εἶχε.」っていう語順もありえる。そのばあい先行詞に定冠詞(ここでは女性・単数・対格の「τὴν〔tên〕[テーン]」)がつくことがおおい。
ûk apekrypteto hên ēkhe gnômên.
ウーカペクリュプテト・ヘーン・エ~ケ・グノーメーン。
かれは自分の意見をかくさなかった。
先行詞が最後になるこういうギリシャ語の語順は、英語からみりゃヘンだけど、日本語からすりゃべつにどうってことないっていうか、要するに日本語みたいないいかただ。日本語だと関係文にあたるものが修飾される名詞のまえにくるんだから。もちろん日本語には関係代名詞にあたるものはないけど。
先行詞は関係文の途中にはいることもあるけど、上にあげた文章みたいに最後におかれることがおおくて、ふつう定冠詞はつかない。それから、関係代名詞は冠詞とか形容詞みたいに先行詞の性・数・格に一致する。これに対して、英語みたいに関係文が先行詞のあとにくるばあいは、先行詞と関係代名詞の格が一致するとはかぎらない。それは英語にしてもおんなじことだ。
上にあげた文章はどっちも対格だったから、ほかの格の例もみてみよう。クセノポーンの『アナバシス』(1.9.14)にこういう文章がでてくる。
τούτους (...) ἄρχοντας ἐποίει ἧς κατεστρέφετο χώρας.「τούτους[トゥートゥース]」は「そのものたち」(男性・複数・対格)、「ἄρχοντας[アルコンタス]」は「支配者」(男性・複数・対格)、「ἐποίει[エポイエ~]」は「かれは~を~にした」、「ἧς[ヘース]」は関係代名詞で女性・単数・属格、「κατεστρέφετο[カテストレペト]」は「かれは征服した」、「χώρας[コーラース]」は「地域」(女性・単数・属格)でこれが先行詞。ここでも先行詞が最後になってる。関係文が先行詞のあとにくる文章になおせば、先行詞に定冠詞「τῆς〔tês〕[テース]」(女性・単数・属格)がついて「τούτους ἄρχοντας ἐποίει τῆς χώρας ἧν κατεστρέφετο.」になる。先行詞は主文のなかで「ἄρχοντας[アルコンタス]」(支配者)にかかる属格だし、関係代名詞のほうは関係文のなかで「κατεστρέφετο[カテストレペト]」(かれは征服した)の目的語だからもともとは対格だ(ただし、こういう語順でも関係代名詞のほうが先行詞の格と一致して属格になることもある)。ここの文章を英語でいえば「He made those rulers of the territory which he subdued.」とでもなるだろうけど、これをギリシャ語の語順にすると、「Those rulers he made of which he subdued territory.」になる。
tûtûs (...) arkhontas epoiē hês katestrepheto khôrâs.
トゥートゥース・(…)・アルコンタス・エポイエ~・ヘース・カテストレペト・コーラース。
そのものたちを、かれが征服した地域の支配者にした。
それから、こういうのとは逆に、先行詞のほうが関係代名詞の格に一致するばあいもあって、たとえば『アナバシス』(4.4.2)にこういうとこがある。
εἰς (...) ἣν ἀφίκοντο κώμην μεγάλη (...) ἦν.「εἰς[エ~ス]」は対格支配の前置詞で「~のなかへ」、「ἣν[ヘーン]」は関係代名詞で女性・単数・対格、「ἀφίκοντο[アピーコント]」は「かれらは到着した」、「κώμην[コーメーン]」は「村」(女性・単数・対格)でこれが先行詞、「μεγάλη[メガレー]」は形容詞で「おおきい」(女性・単数・主格)、「ἦν[エーン]」は「~だった」。「εἰς ἣν ἀφίκοντο κώμην」(かれらが到着した村)全体が関係文をふくんだ主語になってて、格としては、前置詞の支配をうけてる関係代名詞にあわせて先行詞まで対格になってるけど、全体としては主格のはたらきをしてるから、それをうける形容詞「μεγάλη[メガレー]」は主格だ。関係文が先行詞のあとにくる文章になおせば、先行詞に定冠詞「ἡ〔hê〕[ヘー]」(女性・単数・主格)がついて「ἡ κώμη εἰς ἣν ἀφίκοντο μεγάλη ἦν.」になる。この文章を英語でいえば、「The village in which they arrived was large.」だろうけど、これをこのギリシャ語の語順にすれば、「In which they arrived village was large.」ってことになる。
ēs (...) hên aphîkonto kômên megalê (...) ên.
エ~ス・(…)・ヘーン・アピーコント・コーメーン・メガレー・(…)・エーン。
かれらが到着した村はおおきかった。
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