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ギリシャ語の直接話法

直接話法には伝達部と引用部がある。たとえば He said, ‘Socrates and Xanthippe got married.’ だったら、He said が伝達部で、‘Socrates and Xanthippe got married.’ が引用部だ(ふたりの名前の英語としての発音については「古代ギリシャの名まえの英語よみ」を参照)。

英語の伝達部の位置は3つあって、文の最初におかれるのが はなしことばじゃいちばんふつうだけど、かきことばだと ‘Socrates and Xanthippe got married,’ he said. っていうふうに文の最後になることもおおい。それから ‘Socrates and Xanthippe,’ he said, ‘got married.’ みたいに引用部のなかにわりこむこともある。これはあとにつづく部分を読者に期待させる効果があって、ちょっと文学的ないいかただ。

この あいだにわりこむいいかたは古典ギリシャ語が起源なんじゃないかっておもってるんだけど、きちんとしらべたことはない。でもとにかく伝達部が引用部にわりこむかたちはギリシャ語にはたくさんでてくる。それにそもそもギリシャ語の動詞は語句のあいだにわりこむことがすごくおおい。

たとえば英語なら Socrates likes beautiful boys. っていう語順になるわけだけど、これがギリシャ語だと Socrates beautiful likes boys. っていうふうに、動詞が beautiful boys っていう目的語のグループのなかにわりこむことがよくある。引用部のなかに伝達部がはいりこむのもこれとおんなじ感覚なんじゃないかとおもう。

そのわりこみかたも ‘Socrates and Xanthippe,’ he said, ‘got married.’ みたいのだったら単純なもんだけど、もっと複雑なのがあるから、実際の古典作品からそういうのをいくつかひろいだしてみようとおもう。いまの本で古典ギリシャ語につかわれる引用符はとくにきまってなくて、引用符をつかわないやりかたもあるんだけど、ここでは « » をつかうことにする。それから、コンマの位置もいろいろあって、とにかく全部引用符のなかにいれるっていうやりかたもあるし、もともと引用部にあるコンマは引用符のなかにいれるけど、引用部が途中できられたためにつけるコンマは引用符のあとにつけるっていうのもある。ここではいちおうこれにしたがう。

英語の例であげたみたいな3つのパターンはギリシャ語にも当然ある。だからそれはいいとして、まずはこんなのがある。

ὁ Κέβης γελάσας, «ἔγωγε,» ἔφη.

ケベースはわらって「そうですね」といった。
 (プラトーン『パイドーン』101b)

これは伝達部の主語 ὁ Κέβης (ケベースは: は定冠詞で、ひとの名前にもつく)と動詞 ἔφη (…といった)のあいだに引用部 ἔγωγε (そうですね)がはさまれたかたちになってる(γελάσας は主語にかかる分詞で「わらって」)。英語におきかえれば、Cebes laughing, 'Yes, it is,' said. ってことになるけど、日本語からしたらふつうの語順だ。

伝達部の主語と動詞に引用部がはさまれるだけじゃなくて、さらに引用部がつづくばあいもある。これは、引用部に伝達部の動詞がわりこんでて、伝達部の主語は引用部のまえにある、ともいえる。

ὁ Γλαύκων, «ἔοικεν», ἔφη, «μενετέον εἶναι.»

グラウコーンは「とどまらなければならないようですね」といった。
 (プラトーン『国家』328b)

つぎは、伝達部の動詞が引用部にわりこんでるのはおんなじだけど、伝達部の主語が引用部のうしろにきてる例だ。

«οὐ γὰρ ἂν πρέποι,» ἔφη, «ὦ Σώκρατες,» ὁ Κέβης.

「ソークラテース、それはふさわしくないですからね」とケベースはいった。
 (プラトーン『パイドーン』82c)

さらに複雑な例としてこんなのもある。

«ἀληθῆ», ἔφη, «λέγεις,» ὁ Σωκράτης, «ὦ Κέβης·»

ソークラテースはいった、「ケベース、きみのいっていることはほんとうだ」。
 (プラトーン『パイドーン』70b)

ここの引用部だけをとりだせば ἀληθῆ λέγεις, ὦ Κέβης· で、伝達部がふたつにわかれてはいりこんでる。

ちなみに伝達部が引用部のなかにはいりこむことは直接話法だけじゃなくて間接話法にもある。たとえば、

Πέρσης μὲν ἔφη εἶναι.

(わたし〔自分〕は)ペルシャ人だとかれはいった。
 (クセノポーン『アナバシス』4.4.17)

μέν は一種の接続詞みたいなもんで、文章のつくりには関係ないからこれをはぶくと Πέρσης ἔφη εἶναι. になるけど、この間接話法の引用部は Πέρσης εἶναι. (ペルシャ人だと)で、これに ἔφη がはいりこんでる。このばあい引用部の主語は伝達部の主語とおんなじだからはぶかれてるけど(伝達部の主語は動詞の人称変化だけであらわされてて、ことばとしてはでてきてない)、引用部に主語がある例もあげておこう。

Διονίκου ἔφη τοῦ ἰατροῦ ἀκοῦσαι.

医者のディオニーコスからきいたとかれはいった。
 (ルーキアーノス『饗宴』1)

ここの引用部は Διονίκου τοῦ ἰατροῦ ἀκοῦσαι. (医者のディオニーコスからきいたと)で、これに ἔφη がはいりこんでる。

古典ギリシャ語:古代ギリシャ語。 ケベース:ケベス。 プラトーン:プラトン。 パイドーン:パイドン。 グラウコーン:グラウコン。 ソークラテース:ソクラテス。 クセノポーン:クセノフォーン、クセノポン、クセノフォン。 ディオニーコス:ディオニコス。 ルーキアーノス:ルキアノス。

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 ・ギリシャ語の関係文
 ・古代ギリシャの名まえの英語よみ

2008.04.07 kakikomi; 2012.10.03 kakikae

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