« VENI・VIDI・VICI (きた・みた・かった) | トップページ | まえより語(enclitic)のアクセントの問題点(1)
まえの単語がアクセントをうけとるばあい »

鼻音のガンマ

ギリシャ語の文字と発音:Γ γ」とか「鼻音のかきかた」でかいたみたいに、ガンマ(Γ, γ)は[ɡ]のほかに鼻音の[ŋ]をあらわしてるばあいがある。そのうちミュー(Μ, μ)とニュー(Ν, ν)っていう鼻音のまえで[ŋ]になることについてはたいていの入門書にはかいてない。実用的にはこれを鼻音としてよまなくてもとくに問題にはならないからだろう。それにニューについては説がわかれてるってこともあるし。

もともと[k][kʰ][ɡ]のまえの[ŋ]の音はラテン語とか英語とかとおんなじようにニュー(Ν, ν)であらわしてた。たとえば紀元前5世紀よりまえのアッティカの碑文には ἐγγύς/ΕΓΓΥΣ [eŋɡýs エンギュス]っていうのが ΕΝΓΥΣ になってる。そのころは γγ/ΓΓ っていうつづりはそのまんま[ɡɡ]をあらわしてた。それが鼻音のまえのガンマが[ŋ]になったもんだから、[k][kʰ][ɡ]のまえの[ŋ]にもガンマをつかうことにして、[ŋ]をあらわすのにはどのばあいもガンマってことになったらしい。

こういう鼻音のガンマには ἄγμα [áŋma アク゚マ]っていう名まえがあるんだけど、この名まえからもミューのまえのガンマが鼻音だったってことがわかる。ギリシャ文字の名まえにはみんなその文字の音がはいってるから、当然このガンマも鼻音のはずだ。

ただしこの名まえにはほかとちがうとこがある。ἄλφα [álpʰa アルパ]とか γάμμαɡámma ガンマ]とかアルファベットの名まえにはかならず最初にその文字の音がでてくる。σ [s]と τ [t]のあわせ文字の Ϛ [st]の名まえ στίγμαϚίγμα)[stíŋma スティク゚マ]だって最初に στϚ)[st]がでてくる。それなのに ἄγμα [アク゚マ]は最初に[ŋ]がこない。

これはギリシャ語には γμ- ではじまる単語がないからだ(γκ-γγ-γχ- ではじまる単語も古典語にはない)。でも γν- ではじまる単語ならある。なのに鼻音のガンマの名まえに γν- ではじまる単語をつかってないのは γν- のガンマが鼻音じゃなかったからだろう。

ただそうだとしても、それは単語のあたまの γν- についてだけのはなしで、単語の途中にある -γν- のガンマがどうだったかはこのことからはわからない。でも、たとえば γίγνομαι があとになって γίνομαιɡǐːnomai ギーノマイ]になるのは、ふたつめのガンマが鼻音だったせいでそのうちなくなっちゃったからだっていう説があるから、そのとおりだとすれば、単語の途中にあるこの -γν- のガンマは鼻音だったことになる。そうだとすると γίγνομαι の発音は[ɡíŋnomai ギク゚ノマイ]だったわけだ(そうじゃなかったとすれば[ɡíɡnomai ギグノマイ])。

関連記事
 ・ギリシャ語の文字と発音:Γ γ
 ・古典ギリシャ語の発音記号
 ・鼻音のかきかた
 ・古典ギリシャ語の閉鎖音+流音

2008.05.17 kakikomi; 2011.08.17 kakinaosi

|

« VENI・VIDI・VICI (きた・みた・かった) | トップページ | まえより語(enclitic)のアクセントの問題点(1)
まえの単語がアクセントをうけとるばあい »