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電子版「LSJ」(Liddell & Scott: A Greek-English Lexicon)

古典ギリシャ語(古代ギリシャ語)でいちばん権威がある辞書っていうと、LSJ って略されたり、リデル・スコット(Liddell & Scott)っていわれてる

Liddell & Scott (rev. Jones & McKenzie):
 A Greek-English Lexicon,
  9th edition with a revised supplement.
  Oxford

だろう。いちばんあたらしいのは第9版で、そのあとでた「補遺(supplement)」と合本になってる。

この辞書はおっきい本で、それなのに文字のほうは結構ちいさいから、ひくとき多少苦労する。さらに、補遺にもふくまれてる単語をひくときは、本文と補遺の両方、つまり2回辞書をひかなきゃいけなかったりもする。あたらしく補遺にはいった単語だと、まず本文をひいて、そこにみつからないと、補遺をひくってことになる。

これが、電子版の LSJ だと、みだし語も本文も検索できるし、補遺も本文にくみこんであるから、二度手間にならない。この電子版は Logos Bible Software ってとこからでてて、Libronix Digital Library System っていうのがつかわれてる。

このソフトをインストールすると Libronix Digital Library System がインストールされて、このソフトをひらいて、そこからこの辞書をひくことになるから(前回つかったとこを表示するようにもできるけど)、この辞書だけをつかうってことからすると、ちょっとこのシステムが邪魔な気もするんだけど、これでほかのツールもつかうんなら、それはそれでいいかもしれない。このシステムは、そもそも聖書の研究のために開発されたみたいで、LSJ だけ手にいれても、英語訳聖書の代表格の欽定訳(King James Version/Authorized Version)もいっしょにインストールされるから、これをよむこともできる。さらに、フル・インストールだと、ほかの英語訳聖書とかもインストールされるんだけど、こっちはロックがかかってて、お金をはらわないと つかえない。

ちなみに、LSJ のオンライン版(Henry George Liddell, Robert Scott, A Greek-English Lexicon)が「Perseus Digital Library」ってサイトにあって、ほかに、おんなじものが「philologus」にもあるから、なにもこの電子版をかわなくても、そっちをつかえばいいともいえるけど、オンライン版のほうには「補遺」がはいってない。

書籍版と電子版じゃ、補遺だけじゃなくて、みだし語とレイアウトにもちがいがある。書籍版はスペース節約のために、前方一致の派生語はひとつの場所にまとめてあって、最初のみだし語は完全なかたちででてるけど、それ以外のものは最初のみだし語と共通の部分をハイフンで省略してる。それに、派生語のとこに改行もない。これが電子版だと、みだし語全部を完全なかたちにしてあるし、派生語の項目は改行してる。それから、ひとつのみだし語のなかでも、意味ごとに改行がある。だから書籍版よりずっとみやすくなってる。それに画面に表示する文字のおおきさも自由に設定できる。

ただし、この電子版にもいくつか問題はある。まず、せっかく完全なかたちにした みだし語なのに、ハイフンで省略してある部分を、派生語のグループの最初のみだし語からそのまんまもってきちゃうっていう感じで機械的に作業したせいなのか、みだし語のアクセントがおかしくなってるばあいがある。それでも、ある程度アップデートで訂正されたんだけど、まだまだおかしいのがのこってる。さらに、あとにつづいてる派生語がまとまってぬけちゃってるとこもある。だから、このあたりのことは、書籍版にあたるか、オンライン版をみるかして確認しないといけない。けっこうな値段なのに、こんな感じで、書籍版がいっさいいらないってことにならないのはちょっと残念だ。

それから、問題っていうより特徴かもしれないけど、つかってる文字コードについてもすこしかいておこう。この件で問題になるのは鋭アクセント記号とアポストロフィーで、これについては、ウェブサイトのギリシャ語原文でもいろいろある(ギリシャ語フォントの鋭アクセント記号」「ウェブサイトのギリシャ語原典について」)。

この電子版 LSJ の鋭アクセント記号は、古典語の辞書なのに、古典語の鋭アクセント記号じゃなくて、現代語のアクセント記号になってる。これはつかってるフォントとも関係あることなんだろう。ギリシャ語の表示には Gentium っていうフォントがつかわれてて、このフォントそのものはフリーで手にはいるけど(古典ギリシャ語用のフォント」「ギリシャ語につかわれてるフォント「Gentium」」)、もともといれてなくても、インストールのときいっしょにくみこまれる。で、このフォントだと、現代語のアクセント記号と古典語の鋭アクセント記号で、みた目にちがいはない。だから、現代語のアクセント記号をつかっても問題はないわけだ。でも、この辞書にあるギリシャ語をコピーして、どっかにはりつけて、べつのフォントの設定にしてみれば、古典語の鋭アクセント記号じゃないってことがわかるばあいもでてくる。Palatino Linotype ならわかんないけど、Tahoma ならちがいがはっきりわかる。古典語の辞書なんだから、鋭アクセント記号も古典語のにすればいいっておもわなくもないけど、TLG でも現代語のアクセント記号のほうをつかってるみたいし、「ギリシャ語フォントの鋭アクセント記号」にかいたみたいに、現代語のアクセント記号は鋭アクセント記号とおんなじものだってことになったから、それにあわせてるのかもしれない。

それから、アポストロフィーにもフォントの特徴があらわれてる。ここでアポストロフィーとしてつかってるのは、ちゃんとしたアポストロフィーだ。つかわれてるのは、Unicode の「Spacing Modifier Letters/前進を伴う修飾文字」のなかの MODIFIER LETTER APOSTROPHE で、コード番号でいえば 02BC。たしかに、つかえるんならアポストロフィーとしてはこれがいいわけだけど、Windows にもともとはいってる古典ギリシャ語用のフォント Palatino Linotype と Tahoma にはこのアポストロフィーがないから、これがつかえない。だから、ウェブサイトのギリシャ語原文でも、ほかの記号をつかってる。

数字をあらわす記号にも、ちょっと問題がある。アルファベット式ギリシャ数字はアルファベットの右上に鋭アクセント記号みたいのをつけるんだけど、この記号が数字用の記号になってない。数字用の記号は、Unicode の「Greek and Coptic/ギリシャ文字及びコプト文字」のなかにあって、GREEK NUMERAL SIGN (dexia keraia)っていうのがそうなんだけど、これはコード番号は 0374。ところが、この電子版 LSJ でつかってるはこれじゃなくて、「Combining Diacritical Marks/ダイアクリティカルマーク(合成可能)」のなかの COMBINING ACUTE ACCENT で、コード番号は 0301。でもこれは、COMBINING っていってるとおり、まえの文字と合成されて、その文字のうえに鋭アクセント記号がつくようになるものだから、そうならないようにわざわざ半角スペースをいれたあとでこの記号をつかってる(εζ のあとには半角スペースをいれわすれたのか、文字と記号がかさなっちゃってるけど)。こんなことするぐらいなら、最初っからちゃんとした数字記号をつかえばいいのに。

で、おもしろいことに、1000以上の数字の左下につける記号のほうは、ちゃんとした数字用の記号をつかってる。これは、「Greek and Coptic/ギリシャ文字及びコプト文字」のなかにある GREEK LOWER NUMERAL SIGN (aristeri keraia)で、文字コードは 0375。こんなことだったら、右上の記号のほうだって数字用の記号をつかえばいいとおもうんだけど。

関連記事
 ・ギリシャ語フォントの鋭アクセント記号
 ・ウェブサイトのギリシャ語原典について
 ・古典ギリシャ語用のフォント
 ・ギリシャ語につかわれてるフォント「Gentium」
 ・ネットでひける大辞典

2008.11.01 kakikomi; 2011.01.09 kakinaosi

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