« ギリシャ語のゲマトリア | トップページ | いろはうた(3) 《浪花いろは節》 »

西洋語だと「ことば」は「舌」、日本語だったら?

「ことば」っていうか「言語」のことを英語で language っていってる。このもとはフランス語の langage [ロンガージュ〔ランガージュ〕]なんだけど、このほかに「言語」のことをフランス語で langue [ロング〔ラング〕]ともいう。この langue の基本的な意味は「舌」だ。

フランス語の langue のもとはラテン語の lingua [リングヮ]で、lingua の意味も基本は「舌」で、そのほかに「言語」って意味がある。フランス語とおんなじようにラテン語が変化してできたイタリア語でも lingua [リングヮ]はまずは「舌」って意味で、ほかに「言語」って意味もあるし、さらに、「言語」って意味で、英語の language、フランス語の langage に対応する linguaggio [リングヮッジョ]っていうのもある。language、langage、linguaggio には「舌」って意味はないけど、「舌」って意味の単語に語尾がついてできたことばだ。

英語の language は外来語だけど、もともとの英語の単語で「言語」っていうなら tongue がある。この基本的な意味も「舌」だ。英語とおんなじゲルマン語派のドイツ語は「言語」のことを Sprache [シュプラーヘ]っていうから、これだとほかの西洋語とはずいぶんちがっちゃってる感じだけど、このことばは動詞 sprechen [シュプレッヒェン](はなす、しゃべる)の名詞で、英語にもこれに対応することばがある。それは動詞 speak の名詞 speech だ。英語の speech にも「言語」って意味がなくはない。

じゃあドイツ語は「言語」の意味で「舌」ってことばをつかわないのかっていうと、そんなことはなくて、Zunge [ツンケ゚]っていうことばには「舌」って意味のほかに「言語」って意味がある。ただし、英語にしてもドイツ語にしても「言語」って意味のほうは文語だったり雅語だったりして、ふるめかしい感じになる。ちなみに、英語の tongue とドイツ語の Zunge はおんなじ語源のことばで、さらにラテン語の lingua も語源がおんなじだ(ラテン語はふるくは dingua だったらしい)。

ギリシャ語で「言語」って意味のことばはいくつかあるけど、そのうちのひとつに γλῶτταɡlɔ̂ːtta グローッタ]/γλῶσσαɡlɔ̂ːssa グローッサ]っていうのがあって、これもまた基本の意味は「舌」だ。こういうふうに、からだの一部で「言語」って意味をあらわすことばっていったら、西洋語だと「舌」になる。

じゃあ日本語の発想なら、からだのどの部分になるんだろ。「日本語」とか「ギリシャ語」っていうように、特定の「言語」をさすには「語」っていう漢語、つまり外来語をつかうようになっちゃってるわけだけど、これがもし やまとことばをつかってたとしたら、なんていってたのかな。

「なんとか語」っていうときの「語」を外来語じゃないことばでいってる例として、沖縄のことばがある。沖縄語〔琉球語〕のことは沖縄語で「ウチナーグチ」っていって、本土の日本語のことは「ヤマトゥグチ」っていうけど、これは「沖縄口」「大和口」ってことだ。つまり「語」のことを「口」っていってるわけだ。こういうふうに、日本語の発想からすると、「言語」は「舌」じゃなくて「口」になるんだろう。

もちろん、ことばに関係するいいまわしで「口」がでてくることはよくある。だから、なにをいまさら、って感じかもしれないけど、はっきり「なんとか語」って意味での「言語」って意味でつかわれることは、とりあえずないだろう。ただし古文ならあるのかな。

日本人がかいた古典でそういう例があるのかどうかはしらないんだけど、むかしの本におもしろい例がある。それは、宣教師がだしたローマ字の本で、1593年にでた天草版『ESOPO NO FABVLAS(エソポのハブラス)』(イソップの寓話集)だ。このタイトルの下に「Latinuo vaxite Nippon no cuchito nasu mono nari.(ラティンを和して日本の口となすものなり。)」ってかいてある。ラテン語を日本語に訳すってことだから、ここで「口」が「言語」の意味でつかわれてるわけだ。当時の日本語にこういういいかたがあったってことだとおもうけど、この例からしても、日本語の発想としては「言語」って意味をあらわすのは「口」だっていえるだろう。

2008.11.16 kakikomi; 2009.10.27 kakitasi

|

« ギリシャ語のゲマトリア | トップページ | いろはうた(3) 《浪花いろは節》 »