ギリシャ語のゲマトリア
ゲマトリアっていうのはヘブライ語で、その「גימטריה gimatriya [ギマトリヤ]」を辞書でひくと「ヘブライ文字の数値計算」なんてかいてあったりする。ヘブライ語のアルファベットは数字としてもつかわれるから、ヘブライ語の単語とか文章のつづりを数字として たしあわせて、その数をつかって聖書の解釈をしたりするのがゲマトリアなんだけど、そもそもこのやりかたはヘブライ語が最初ってわけじゃない。
だいたいゲマトリアってことばそのものが外来語で、ギリシャ語の「γεωμετρία[ɡeɔːmetríaː ゲオーメトリアー]」(測地術、幾何学)か、このことばのべつのかたち「γαμετρία[ɡaːmetríaː ガーメトリアー]」が語源らしい(ほかの説もあるみたいだけど)。
それから、アルファベットを数字としてつかったのはギリシャ語のほうがはやくて、ヘブライ語にはあとからとりいれられた。ゲマトリアのことをギリシャ語で「ἰσοψηφία[isopsɛːpʰíaː イソプセーピアー]」っていうんだけど、このばあい これは「数がおなじであること」っていうような意味だ。
数字としてのギリシャ文字については「アルファベット式ギリシャ数字」にかいたから、それを参照してもらうことにして、ここではイソプセーピアーに関係するアルファベット24文字があらわす数の一覧をあげておこう。

この数をつかっていろんなことをするんだけど、たとえば「θεός[tʰeós テオス]」(神)は 9+5+70+200=284 で、「ἅγιος[háɡios ハギオス]」(神聖な)も 1+3+10+70+200=284、それから「ἀγαθός[aɡatʰós アガトス]」(よい、すぐれた、このましい)も 1+3+1+9+70+200=284 で、このみっつは数がおんなじだ。数がおんなじになることばは意味もおんなじだとか関連があるとか かんがえられた。
『ギリシャ詞花集』の第12巻は「Μοῦσα Παιδική[mûːsa paidikɛ̌ː ムーサ パイディケー]」(少年愛詩集)っていわれてるけど、そのなかに、「πρωκτός[prɔːktós プロークトス]」(肛門)と「χρυσός[kr̥yːsós クリューソス]」(黄金)がおんなじ数になるってことをいってる詩がある(12.6)。「πρωκτός」は 80+100+800+20+300+70+200=1570 で、「χρυσός」は 600+100+400+200+70+200=1570 だから、なるほどおんなじだ。
スエートーニウスの『ローマ皇帝伝』(Nero 39)には皇帝ネローを皮肉ったギリシャ語のらくがきのことがでてくる。ネローのことはギリシャ語で「Νέρων[nérɔːn ネローン]」っていうんだけど、ネローは母親のアグリッピーナをころした(ころさせた)。だから、そのらくがきは、母親ごろしとしてネローとオレステースとアルクマイオーン(アルクメオーン)の名まえをだしたあと、「Νέρων」って名まえと数がおんなじになる文章として「ἰδίαν μητέρα ἀπέκτεινε[idíaːm mɛːtéra apékteːne イディアーン メーテラ アペクテ~ネ]」(かれは自分の母親をころした)っていうのをあげてる。実際に計算してみると、「Νέρων」は 50+5+100+800+50=1005、「ἰδίαν μητέρα ἀπέκτεινε」は 10+4+10+1+50+40+8+300+5+100+1+1+80+5+20+300+5+10+50+5=1005 で、たしかにおんなじ数になる。
ポンペイの遺跡でみつかったらくがきにも名まえの数をつかったものがある。「φιλῶ ἧς ἀριθμὸς φμεʹ[pʰilɔ̂ː hɛ̂ːs ari↓tm̥ós... ピロー ヘース アリトモス…]」(名まえの数が545になる彼女がすきだ)。これは、すきな相手の名まえをださないで、数字におきかえたものだ。ここの「φμεʹ」は名まえのつづりじゃなくて、名まえのつづりをたしあわせた数がギリシャ数字でかいてある。545になる名まえがなんなのかはわかんないけど。
『ギリシャ詞花集』:『ギリシャ詞華集』。 スエートーニウス:スエトニウス。 ネロー:ネロ。 オレステース:オレステス。 アルクマイオーン:アルクマイオン。 アルクメオーン:アルクメオーン。
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2008.11.12 kakikomi; 2010.09.26 kakinaosi
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