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万華鏡(カレイドスコープ)

万華鏡[まんげきょう]のことは英語で kaleidoscope っていって(万華鏡が kaleidoscope の翻訳語なんだろうけど)、日本語でもカレイドスコープなんていうこともある。ただし英語の発音は[(UK) kəˈlaɪdəskəʊp/(US) kəˈlaɪdəskoʊp カライダスコウプ]で、ei は height みたいに[アイ]ってよむ。

この kaleidoscope はギリシャ語からつくったことばなんだけど、いかにも近代になってギリシャ語から直接つくられたっていう特徴がある。かりに むかしのギリシャ語にあったことばで、それがいつものパターンでラテン語に はいって、フランス語になって、それから英語に はいったんだったら、caloidoscope とでもなってただろう。

万華鏡は1816年にスコットランドのブリュースター(Sir David Brewster、1781-1868)っていう科学者が発明したもので、kaleidoscope っていう名まえで1817年に特許をとった。ただし、これにかかわる現象は古代ギリシャでもしられてて、ブリュースターは「再発見」したとか「再発明」したとかいわれてる。

kaleidoscope は「うつくしいかたちをみるもの」っていう意味で、分解すると kal-eido-scope っていうふうに みっつにわけられる。

最初の kal- は καλός [kalós カロス](うつくしい)っていう形容詞がもとになってるんだけど、まずはこの kal- に近代になってギリシャ語から直接つくったっていう特徴があらわれてる。それは k っていうつづりだ。

ギリシャ語の κ [k]はラテン語には c でうつされた。むかしのラテン語の発音だと c はどのばあいも[k]の音で、英語とかフランス語みたいに[s]の音になったり、イタリア語みたいに[tʃ]の音になったりしない。それにラテン語で k っていう文字はごく特殊なばあいにしか つかわれなかった。だから、ギリシャ語が語源のことばの κ は英語に はいると c になる。でも、むかしからある単語じゃなくて、あたらしくギリシャ語からつくるばあいは k がつかわれたりする。

つぎの -eido- は、εἶδος [êːdos エ~ドス](かたち)がもとで、このことばはギリシャ哲学にでてくる「形相」とか訳されるあの「エイドス」だ。

最初の kal- をこういうかたちにしたのは、-eido- が母音ではじまってるからなんだろうけど、これには問題がある。ギリシャ語の複合語のつくりかたからすると、-eido- は子音ではじまってるあつかいになるからだ。だからほんとは kalo- じゃないとおかしい。じっさい、古典ギリシャ語の「うつくしいかたちの」っていう形容詞は καλοειδής [kaloeːdɛ̌ːs カロエ~デース]っていって、-ειδ- のまえで καλο- になってる。

εἶδος [エ~ドス]は、これだけだと どうみても母音ではじまってるけど、ふるくは あたまに[w-]があって、つづりにはのこってなくても、子音ではじまってるあつかいになる。

この -eido- にもあたらしくギリシャ語から直接つくったっていう特徴がでてる。ギリシャ語の ει は、つづりをうつせば ei だけど、古典時代の発音は[eː]だった。これは「イー」にちかい「エー」で、ラテン語にうつすときは たいてい i がつかわれた。ローマ人には「イー」にきこえたんだろう。それに、時代がくだると ますます口のひらきがせまくなってほんとに「イー」になったから、その時期にラテン語に はいったことばは とうぜん i でうつされることになる。だから、古典ギリシャ語の ει は英語に はいると i になってる。それがここだと ei になってるから、直接ギリシャ語から(つづりをうつして)つくられたってことがわかる。

以上のことから、kal-eido- の部分が、古代からつたわってきたことばだとすれば calo-ido- になるはずだっていうのもわかるとおもう。

最後の -scope だけど、これは telescope (望遠鏡)とかの -scope だ。英語の telescope のもとになったのは、17世紀はじめにつかわれだしたイタリア語 telescopio [テレスコーピオ]か近代ラテン語の telescopium [テレスコピウム]で(ラテン語の -um っていう語尾はイタリア語だと -o になる)、これはギリシャ語の τηλεσκόπος [tɛːleskópos テーレスコポス](とおくまで みる)からつくられた(前半の τηλε- [テーレ](とおく)は telephone、television の tele-)。近代になってできた用語でも、これはギリシャ語から直接英語の単語をつくったわけじゃないから、-scope のとこの κ は k じゃなくてラテン語式の c だ。この -scope をそのまんまつかったから、kaleidoscope でもこの部分は -skope じゃなくて -scope になってる。

古典ギリシャ語:古代ギリシャ語。

2008.12.26 kakikomi; 2009.04.26 kakinaosi

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