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細川ガラシャの洗礼名

2009年2月4日の「日本史サスペンス劇場」(NTV)で、細川ガラシャのガラシャっていう洗礼名がギリシャ語で「神の恩ちょう」っていう意味だっていってたけど、これはまちがいだ。

「恩ちょう、めぐみ」って意味はそのとおりだけど、ギリシャ語じゃない。ギリシャ語だと「恩ちょう」は χάρις [kʰáris カリス]っていう。じゃあガラシャはなに語かっていうと、ラテン語の gratia だっていう説明もあるみたいだけど、ちょっと疑問におもう。gratia は古典式で[グラーティア]、ローマ式で[グラツィア]って発音するけど、これよりももっとガラシャにちかいのがスペイン語の gracia [グラスィア]だ。ガラシャの名まえをヨコ文字でかくときも Gracia がつかわれてる。ポルトガル語かともおもったけど、ポルトガル語は graça で、これを当時のキリシタン用語で「ガラサ」っていってるから、これはちがうだろう。

キリスト教の用語として、ギリシャ語の χάρις [カリス]がラテン語で gratia って訳されたんだとおもうけど、このラテン語が変化して、イタリア語の grazia [グラッツィア]、スペイン語の gracia、ポルトガル語の graça、フランス語の grâce [グラース]になった。それから、そのフランス語が英語にはいって grace [グレイス]になった。英語の Grace も女のひとの名まえとしてつかわれてる。

ギリシャ神話で、3柱[みはしら]のうつくしさと優雅さの女神のことをカリスたち(複数形 Χάριτες [kʰárites カリテス])っていうけど、この女神たちのローマ名はラテン語に訳して Gratiae [グラーティアエ](複数形)っていうし、英語でもラテン語起源の Graces っていってる。

スペイン語の gracia の複数形は gracias [グラスィアス]で、これは「ありがとう」って意味でつかわれる。この c の発音は[θ]で、英語の think とかの th とおんなじだ。

はなしをもどして、gracia が「ラシャ」じゃなくて、なんで「ラシャ」になったかっていうと、ポルトガル語の graça が「ラサ」になったり、オランダ語の glas が「ラス」になったのとおんなじことだ。これはむかしの外来語の特徴で、これについては「むかしの外来語」って記事にかいたことがある。

ガラシャは侍女の いと(洗礼名マリア)の影響でキリシタンになったとも、宣教師とガラシャのとりつぎをしてた侍女のほうが影響をうけてキリシタンになったともいわれてるけど、どっちにしてもガラシャはマリアから洗礼をうけたらしくて、この侍女の洗礼名とガラシャの洗礼名にはつながりがあるんじゃないのかな。

《アベ・マリア》って曲がある。曲っていうより、カトリックのミサの文句のひとつっていったほうがいいのかもしれないけど、この《アベ・マリア》の歌詞はラテン語で「Ave Maria, gratia plena [アヴェ マリア、グラツィア プレナ]」ではじまる。Maria と gratia がならんででてくるから、この歌詞にちなんで洗礼名がつけられたんじゃないかってかんがえたくなる(ただし、ラテン語そのまんまじゃなくて、それにあたるスペイン語をもとにして、ってことになるとおもうけど)。

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 ・むかしの外来語

2009.02.04 kakikomi; 2009.04.23 kakinaosi

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