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ヘンデルの名前のいろいろ

ことしはヘンデル没後250年にあたる年で、ヘンデルは250年まえのきょう、1759年4月14日午前8時すこしまえにロンドンのブルック街(いまの25番地)でなくなった。

うまれたのは1685年2月23日、ドイツのハレで、1685年っていえば、バッハ(J. S. Bach)とドメーニコ・スカルラッティ(Domenico Scarlatti)もこの年にうまれてる。

うまれたつぎの日、2月24日にヘンデルは洗礼をうけた。ヘンデルの名前はドイツ語だと Georg Friedrich Händel [ゲオルク フリードリヒ ヘンデル]なんだけど、教会の洗礼記録にのってる名前のつづりは Georg Friederich Händel で、ミドル・ネームのつづりがちがってる。

でも、ヘンデル自身は George Friedrich ってかいてたみたいで、このばあい、ファースト・ネームはつづりどおり「ゲオルゲ」ってよんだのかな。1697年2月14日に父親がなくなって、そのときかいた父親をいたむ詩が印刷されてるんだけど、そのときの名前のつづりも George Friedrich Händel だし、ハレ大学に入学したとき(1702年2月10日)の署名もこのつづりだ。

イタリアで活動してたとき、ヘンデルは G. F. Hendel って署名してる。イタリア語としては「エンデル」ってよんだんだろう。この Hendel ってつづりは、そのあとイギリスにわたってからも最初のうちはつかってて、出版された楽譜にも Hendel って印刷されてる。

1727年2月20日には帰化認定書がイギリス国王に承認されて、ヘンデルはイギリスに帰化したんだけど、名前のつづりは Haendel とか Handell とかいろいろかわったあと、最終的には英語で George Frideric Handel になった。でも出版された楽譜とか台本だと Frederic だったり Frederick だったりすることがおおい。そんななかで、1738年に出版された《アレクサンダーの饗宴》の楽譜の口絵の肖像画をかこってる名前は George Frideric Handel で、ヘンデル自身がつかってたつづりのとおりになってる。

なくなったあとは、本人の希望どおり1759年4月20日にウェストミンスター寺院にほうむられた。ウェストミンスター寺院にはヘンデルの記念碑もあって(1762年7月15日に除幕)、《メサイア》の楽譜をもってるヘンデルの像(第3部の最初のアリア「I know that my Redeemer liveth」のページがみえる)の下にはこういう文字がきざまれてる。

GEORGE FREDERICK HANDEL Esqr.
 born February XXIII. MDCLXXXIV.
 died April XIV. MDCCLIX.

ヘンデル自身の署名とちがってミドル・ネームが FREDERICK になってるけど、英語の名前としてはこっちがふつうだから、しょうがないのかな。それから、年と日にちはローマ数字になってて、うまれた年が MDCLXXXIV = 1684ってことだから、1年はやくなってる。でもこれはまちがいじゃなくて、当時のイギリスで1年のはじまりは3月25日(Lady Day、お告げの祝日)だったから、ヘンデルがうまれた2月23日はまだ1685年にはなってなかった。

ヘンデルがなくなったつぎの年、1760年に “Memoirs of the Life of the late George Frederic Handel” っていう本がでた。これはジョン・マナリング(John Mainwaring)が匿名でかいた『故ジョージ・フレデリック・ハンデル回想録』で、はじめて出版された作曲家の伝記なんだけど、このタイトルをみると、これもミドル・ネームのつづりが Frederic で、ヘンデル自身のとはちがう。

いま、ヘンデルの名前は、英語圏だと英語の名前がつかわれてて、つづりもヘンデルの署名のとおりの Georg Frideric Handel になってるけど、上にかいたみたいに、すこしまえまでミドル・ネームのつづりはまちまちだったみたいだ。

ドイツ語圏だととうぜんドイツ語の名前で Georg Friedrich Händel。これはいまのイタリアでもそのまんまつかわれてる。ヘンデルがイタリアにいたとき自分で名のった Hendel じゃないわけだ。発音としては「エンデル」で、おんなじことだけど。

フランスだとたいてい Georg Friedrich Haendel で、これはけっきょくドイツ語のまんまだ。Händel をウムラウトをつかわないでかくとドイツ語としても Haendel になる。ただし発音は「エンデル」で、aen は鼻母音にはならない。それと、この H は有音のアッシュで、発音はしないけど子音のあつかいになるから、まえの単語とリエゾン(連声[れんじょう])しない。

日本でも英語式のジョージ・フリデリック・ハンデルとはいわないで、ドイツ語のゲオルク・フリードリヒ・ヘンデルっていってるから、英語圏以外はだいたいドイツ語の名前でしられてるのかな。

2009.04.14 kakikomi; 2015.06.05 kakinaosi

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