« 「ちがう」の形容詞変化 | トップページ | ギリシャと日本の古典をよむときの発音 »

「アンソロジー」の語源

アンソロジーは日本語でいえば「選集」ってことになるけど(外来語のアンソロジーだって日本語だけど)、とくに「詞花集/詞華集」っていう翻訳語がある。ここでなんで「花」がでてくるかっていえば、アンソロジーってことばのなかに「花」がふくまれてるからだ。

日本語のアンソロジーのもとは英語の anthology で、これはラテン語の anthologia [アントロギア/アントロジア]かフランス語の anthologie [オントロジ]が英語にはいったものだ。フランス語だったとしても、フランス語はラテン語が変化したことばだから、もとをたどればラテン語までさかのぼることになる。でもって、このラテン語のもとはギリシャ語の ἀνθολογία [antʰoloɡíaː アントロギアー]だ。

ἀνθολογίαἄνθος [ántʰos アントス](花)+-λογία (あつめること)で、「花あつめ、花つみ」っていう意味がある。

これは詩を花にたとえてるわけだけど、「詞花集」ってことばは翻訳語としてつかわれるよりまえからあることはあった。八代集のひとつの『詞花和歌集』を略して『詞花集』っていったりする(『古今和歌集』を『古今集』っていうみたいに)。それから、和歌集の題名にもつかわれてるように「詞花/詞華」っていうことばもむかしからある。

ところで、ギリシャ語のアントロギアーのもともとの意味は「花輪、花の冠(garland)」だってかいてあるのがあるみたいなんだけど、それはこのことばの説明としてはおかしいとおもう。そりゃ、花をあつめたものは花輪にもなるだろうけど。

これに関してちょっとおもいあたるのが『ギリシャ詞花集』だ。西洋でアンソロジーっていうとまずはこの『ギリシャ詞花集』ってことになるとおもうけど、このアンソロジーのもとになったのは紀元前1世紀にガダラのメレアグロスが編集した詩集で、簡単にいえば、そのあと なん度か なかみがつけくわえられて、いま つたわってるかたちになった。その最初のメレアグロスのアンソロジーと、そのあとのテッサロニーケーのピリッポスのアンソロジーのタイトルがギリシャ語で Στέφανος [stépʰanos ステパノス]っていわれてるんだけど、この「ステパノス」の意味が「花輪、花の冠」だ。

『ギリシャ詞花集』のもとになったアンソロジーは「アントロギアー」とはいわれてなかったんだけど、そこを誤解して、最初っから「アントロギアー」だったっておもったうえに、それに「ステパノス」の意味をむすびつけちゃったのが、「アントロギアー」が「花輪、花の冠」って意味だっていう説明なんだろう。

アンソロジーはドイツ語だと Anthologie [アントロギー]で、これはもちろん外来語だ。これには翻訳語もあって、ἀνθολογία を直訳した Blumenlese [ブルーメンレーゼ]、Blütenlese [ブリューテンレーゼ]もアンソロジーって意味でつかわれる。

ラテン語にも ἀνθολογία を直訳した翻訳語があって、florilegium [フローリレギウム/フロリレジウム]っていうけど、これが英語にはいって florilegium [フローラリージアム]になってる。ただしこれはふるいことばみたいで、アンソロジーのほかに「花譜」って意味もある。それから、ラテン語の florilegium が変化してフランス語の florilège [フロリレージュ]になってるから、フランス語にも anthologie と florilège っていう2種類のことばがある。

『ギリシャ詞花集』:『ギリシャ詞華集』。 テッサロニーケー:テッサロニケ、テサロニケ。 ピリッポス:フィリッポス。

関連記事
 ・「おもなテーマ別記事一覧:『ギリシャ詞花集』(Anthologia Graeca)

2009.06.05 kakikomi; 2010.09.13 kakinaosi

|

« 「ちがう」の形容詞変化 | トップページ | ギリシャと日本の古典をよむときの発音 »