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ヘボンの横浜指路教会(ついでにローマ字について)

横浜に「指路[しろ]」っていう名まえの教会があることを最近しった。その「横浜指路教会」について『横浜洋館散歩―― 山手とベイエリアを訪ねて』(淡交社)にはこうかいてある。

 日本語ローマ字の表記の祖として知られ、医師であり宣教師でもあったアメリカ人J・C・ヘボンが、母国で募った寄金により、この地にわが国最初期のプロテスタント教会を建立したのは明治25年(1892)。みずからの母教会 Shiloh Church にちなんで、ヘボン自身が「指路」の字をあてて名づけたという(Shiloh は旧約聖書のメサイア、つまり救世主のこと)。

「シロ」については「横浜指路教会」のサイト(指路教会の歴史)にこういう説明がある。

ヘボンの母教会の名"Shiloh Church" をいただいて指路教会としました。「シロ」は旧約聖書において、「平和を来らす者」すなわちメシヤを示す意味、および古い時代の聖なる町の両方に用いられています。

「シロ」っていうことばがメシアをさすことになる理由については「「358」とヘブライ語のゲマトリア」にかいたから、ここには くりかえさないけど、「古い時代の聖なる町」の名まえとしては たとえば 『ヨシュア記』第18章第1節に「イスラエルの人々の共同体全体はシロに集まり、臨在の幕屋を立てた」(新共同訳)っていうのがある。

「Shiloh」は英語よみだと「シャイロウ」で、アメリカの南北戦争の激戦地を記念したシャイロー国立軍事公園っていうとこもある。

それから、メシアが「平和を来らす者」だってかいてあるけど、これはメシアのはたらきについて いってるわけで、メシアっていうことばそのものは「油をそそがれたもの」っていう意味だ。

つぎに、ヘボンのことだけど、最初に引用した文章には「日本語ローマ字の表記の祖」なんてかいてある。そういいたくなるのは「ヘボン式」ってことばがあるからしょうがないかもしれないけど、実際にはそんな単純なことじゃない。ちょっとながくなるけど、ローマ字の歴史がまとめてあるものを引用しとこう。

 室町末期のポルトガル人が用いたローマ字の綴り方は、当時のポルトガル語に基いたものであり、又文献によって若干の出入がある(…)。
 江戸時代に、オランダ人及び蘭学者の使用したローマ字は、オランダ語音に基いたものであった(…)。
 幕末以来、ドイツ式・フランス式などの綴り方が現われたが、アメリカ人宣教師のヘボン(J. C. Hepburn, 1815-1911)は、慶応3年(1867)に『和英語林集成』(A Japanese and English Dictionary with an English and Japanese Index)を出版し、その中に英語式のローマ字綴り方を採用した。但し、後にいうヘボン式とは相当に相違するものであった。明治18年に羅馬字会はローマ字による国語の綴り方を定めて発表したが、その方針は、子音を英語より採り、母音をイタリー語の音(即ちドイツ語又はラテン語の音)を採用することであった。この綴り方はヘボンの『和英語林集成』の第3版(明治19年刊)に採用された。後にローマ字ひろめ会が僅の修正を加えて、「標準式」と称したが、俗に「ヘボン式」と呼するのは、主としてこの方式である(…)。
 一方、田中舘愛橘は、この綴方に異議を唱え、五十音図に基いた別個の綴方を主張した。この綴方は「日本式」と呼ばれた(…)。
 (…)「日本式」では五十音図を基にして、その同じ行のサシスセソ・タチツテトなどを同じ子音 s・t などで表わすのに対して、「標準式」では実際の発音に近い文字で表わすので、同じ行の中で異なった子音が混用される結果になっている。
 この二つの方式以外に、個人的に綴方の試みも若干提出されたが、何れも広く行われるに至らず、主として行われたのは「標準式」と「日本式」との二つであった。しかしローマ字の綴方が不統一であることは不便な点が少くないので、文部省では「臨時ローマ字調査会」を設けて調査・論議を重ね、昭和12年に内閣訓令式で公布したが、主な点が日本式を多く採用したものであった為に、標準式論者などは依然として反対し、統一の実は挙らなかった。戦後、国語審議会は更に審議を重ね、その結果を内閣訓令・告示として昭和29年に公布した(…)。第一表及び第二表に示したものがそれで「一般に国語を書き表わす場合」は、第一表により、「国際的関係その他従来の慣例をにわかに改めがたい事情にある場合に限り」第二表によっても差支ないとしている。この綴り方は、「ヘボン式」「日本式」両者の綴方を併せて認めた形となっているが、尚、主となるものは日本式を基としていて、それが初等教育などに用いられており、一方、実社会では、英語が外国語の中で最大の勢力を有する為に、「標準式」が多く用いられていて、教育と実社会との間の矛盾などが存在し、問題の解決は、尚将来に持越されているというべきである。

(築島裕[つきしま ひろし]『国語学』東京大学出版会。一部 漢数字を算用数字になおした。「綴り方」と「綴方」の両方がでてくるけど、これは原文のまま。「羅馬字会」は「ローマじかい」。「田中舘愛橘」は「たなかだて あいきつ」)

ここでいってる第一表には「訓令式」のつづりがのってて、第二表には「ヘボン式」のつづりのほかに、「日本式」でつかわれる di(ぢ) du(づ) dya(ぢゃ) dyu(ぢゅ) dyo(ぢょ) kwa(くわ) wo(を) なんかがはいってる。

「ヘボン式」については子音のつづりを英語式にしときながら「標準式」とはよくいうよっておもうし、日本語の名まえを「ヘボン式」でかいたからって、母音が英語式じゃないから、なんにもしらない英語圏のひとがよめるわけじゃないんだけど、それはともかくとして、「ヘボン式」はヘボンが最初にかんがえだしたもんじゃないんだから、途中でヘボンがかかわってるにしても、「日本語ローマ字の表記の祖」っていうのはちがうとおもう。

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2009.09.08 kakikomi; 2009.09.11 kakinaosi

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