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十二宮をえがいたギリシャの壁かけタイル

ギリシャのおみやげなんかにタイルの壁かけをみかけることがあるけど、絵柄としてはギリシャの風景とかがおおいかもしれない。そんななかで、黄道十二宮(十二星座)をえがいたタイルの壁かけもある。

いちばん外側の円にはギリシャ語で十二宮の名まえがかいてある。その内側には十二宮の絵があって、さらにその内側の円には十二宮の記号がある。それから、さらに内側には十二か月がかいてあるけど、この図から十二宮と十二か月はすこしずれてるのがわかる。つまり、十二宮のひとつひとつはだいたいその月の下旬からはじまって、つぎの月の中旬までにあたる。

このタイルの文字はちょっと古代ふうの大文字になってる。ただし、オメガは古代の書体とはちがってて現代ふうだ。で、写真でいうと てっぺんのおひつじ宮から時計まわりに、ここにかいてある十二宮の名まえを大文字と小文字であげておこう(小文字っていっても固有名詞あつかいだから最初は大文字だけど)。

大文字小文字発音日本語
ΚΡΙΟΣΚριός[クリオス]おひつじ宮
ΤΑΥΡΟΣΤαύρος[タヴロス]おうし宮
ΔΙΔΥΜΟΙΔίδυμοι[ズィーズィミ]ふたご宮
ΚΑΡΚΙΝΟΣΚαρκίνος[カルキーノス]かに宮
ΛΕΩΝΛέων[レーオン]しし宮
ΠΑΡΘΕΝΟΣΠαρθένος[パルセーノス]おとめ宮
ΖΥΓΟΣΖυγός[ズィゴス]てんびん宮
ΣΚΟΡΠΙΟΣΣκορπιός[スコルピョス]さそり宮
ΤΟΞΟΤΗΣΤοξότης[トクソーティス]いて宮
ΑΙΓΟΚΕΡΟΣΑιγόκερος[エゴーキェロス]やぎ宮
ΥΔΡΟΧΟΟΣΥδροχόος[イズロホーオス]みずがめ宮
ΙΧΘΕΙΣΙχθείς[イフスィス]うお宮

十二宮と十二星座の区別はあんまりしられてなくて(西洋とインドの星うらない」)、十二星座とはちがうはずの十二宮のことも俗に十二星座っていったりするけど、そんなことになるのは、どっちもおんなじ名まえだからだ。この絵は十二宮のほうなんだけど、ここのギリシャ語は星座の名まえでもある。

最初これをみて古典ギリシャ語かとおもった。でも、よくみると古典語とはちがうつづりのものがふたつある。やぎ宮の ΑΙΓΟΚΕΡΟΣ と、うお宮の ΙΧΘΕΙΣ だ。ってことで、ここにかいてあるギリシャ語は現代語なんだけど、現代語っていっても、かたちとしては純正語(文語)みたいなものだ(古典ギリシャ語の十二宮・十二星座の名まえについては西洋とインドの星うらない」「十二星座、十二宮のおぼえかた」)。

Κριός (おひつじ宮・おひつじ座)は、宮と星座としてはこの単語がつかわれてるけど、ふだん雄ヒツジっていうばあいは κριάρι [クリアーリ]っていってる。つまり Κριός はふつうに民衆語(口語)でつかわれる単語じゃないんだけど、固有名詞みたいなものとしてのこってるわけだ。

ほかにも、これとおんなじようなことがあって、カニは Καρκίνος (かに宮・かに座)とちがって καβούρι [カヴーリ]とかいうし、ライオンは Λέων (しし宮・しし座)じゃなくて λιοντάρι [リョンダーリ]っていう(λεοντάρι [レオンダーリ]、λέοντας [レーオンダス]っていうのもある)。それから、さかなは Ιχθείς (うお宮・うお座)じゃなくて ψάρι [プサーリ]だ(サカナはおかず」)。

このへんのことは、日本語で しし座っていう一方で、実際の動物のほうはライオンっていってたり、うお座に対して、さかなっていうほうがふつうだったりするのとにてるかもしれない。

それから、Δίδυμοι (ふたご宮・ふたご座)は男性の複数形なんだけど、ふだんのいいかただと双子の複数形は中性の δίδυμα [ズィーズィマ]になる、っていうようなちがいもある。

Παρθένος (おとめ宮・おとめ座)は女性名詞なんだけど、典型的な男性名詞の語尾とおんなじ語尾なもんだから、民衆語だと「乙女、処女」は παρθένα [パルセーナ]っていうふうに女性名詞らしい語尾になってる(παρθένος もつかわれないことはないけど)。大文字ではじまる Παρθένος は、宮と星座の名まえのほかに、「処女マリア(聖母マリア)」の意味にもなる。

Σκορπιός (さそり宮・さそり座)のアクセントは、いちおうこういうふうに民衆語のアクセントにしたけど、純正語のかたちならアクセントの位置がちがって Σκορπίος [スコルピーオス]になる。っていっても、民衆語の文章のなかで どっちもつかわれてるみたいだから、この壁かけだって Σκορπίος のほうなのかもしれない。大文字だけでかいてあるから、どっちなのかわんかないけど。

Αιγόκερος (やぎ宮・やぎ座)は、古典語以来の純正語っぽい“ちゃんとした”つづりなら Αιγόκερως だ。これは文字がちがうだけで、現代語としては発音にかわりはない。ただ、変化形にちがいがでてくる。それと、もともとの Αιγόκερως のほうもふつうにつかわれてるみたいから、これもどっちもあるってことになる。

Ιχθείς (うお宮・うお座)は、純正語の語尾なら Ιχθύες [イフスィーエス]になって、これはこれでつかわれないこともないんだけど、ここにもあるように Ιχθείς のほうがふつうみたいだ。純正語のかたちの「さかな」の単数形は ιχθύς [イフスィス]で、-υς でおわる純正語の名詞の複数形の語尾には -υες のほかに -εις もあるから、Ιχθείς はそっちの語尾になっちゃったともいえるけど、民衆語の複数形の語尾のなかにも -εις っていうのがあるから、民衆語の語尾がついたともいえるだろう。それと、古典語の複数形には ἰχθύες [イクテュエス]のほかに ἰχθῦς [イクテュース]っていうのもあって、この ἰχθῦς は現代語の発音だと ιχθείς とおんなじになるから、その関係でこの語尾になったってことがあるのかもしれない。

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2009.12.18 kakikomi

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