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メナンドロスの格言

メナンドロス(Μένανδρος [ménandros]、紀元前342-292、ラテン語で Menander [mɛnándɛr メナンデル]、英語で Menander [məˈnændə マナンダー])はアッティカ新喜劇の代表的な作家のひとりで、新喜劇でなんとか作品がのこってるのはメナンドロスだけだ。そのメナンドロスにしてもながいあいだ断片しかつたわってなくて、まとまった作品は19世紀すえから20世紀にかけて発見された。それだって、かけてる部分がけっこうあるんだけど。

メナンドロスの格言っていうか名言っていうか、そういうのは要するにメナンドロスの断片で、これは喜劇のセリフからとられたものだから、イアンボス・トリメトロスっていう韻律になってる(古代ギリシャの韻律:イアンボス・トリメトロス」)。

メナンドロスの断片はけっこうたくさんあるんだけど、ここでは、そのなかからいくつかを発音と韻律と日本語訳をつけて紹介することにしよう。

とりあえず、いちばん有名なのはこれだろう。

ὃν οἱ θεοὶ φιλοῦσιν ἀποθνῄσκει νέος.

hón hoitʰeǒi pʰilûːsin apotn̥ɛ̌ːiskeː néos]

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神がみが愛しているものは若死にする。

それから、こんなのもちょっと有名かもしれない。

ἀνδρὸς χαρακτὴρ ἐκ λόγου γνωρίζεται.

[andrós kʰaraktɛ̌ːr eɡ‿ɡuː ɡnɔːrízdetai]

 ――∪―|――∪―|――∪―

ひとの性格はことばからわかる。

つぎのことばは、新約聖書の『コリントの信徒への手紙一』第15章第33節に引用されてることでもしられてる。

φθείρουσιν ἤθη χρήσθ’ ὁμιλίαι κακαί.

[pʰtʰěːruːsin ɛ̌ːtʰɛː kr̥ɛ̌ːstʰomiːlíai kakǎi]

 ――∪―|――∪―|∪―∪―

わるいつきあいは いい習慣をだめにする。

聖書には母音省略をなくした「φθείρουσιν ἤθη χρηστὰ ὁμιλίαι κακαί.」っていうかたちで引用されてる。

にたようなのに こんなのもある。

κακὸν φέρουσι καρπὸν οἱ κακοὶ φίλοι.

[kakóm pʰéruːsi karpón hoikakǒi pʰíloi]

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わるい友だちとつきあうとロクなことにならない。

この日本語はちょっと意訳しすぎかな。直訳すると「わるい友だちはわるい報いをもたらす」になるんだけど、直訳しないなら「わるい友だちとつきえばわるい結果になる」ぐらいでもいいかもしれない。

友だち関係でいうと、こういうのもある。

οὐκ ἔστιν οὐδὲν κτῆμα κάλλιον φίλου.

[uːkéstin uːdéŋ ktɛ̂ːma kálliːom pʰíluː

 ――∪―|――∪―|――∪―

友だちよりもいい財産はない。

でも、こういう皮肉めいたのもある。

ἐὰν δ’ ἔχωμεν χρήμαθ’, ἕξομεν φίλους.

[eǎːn d ékʰɔːmeŋ kr̥ɛ̌ːmatʰéksomem pʰíluːs]

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財産があるなら友だちができる。

友だちがいちばんいい財産ってぐらいだから、こういうのもある。

λύπης ἰατρός ἐστιν ὁ χρηστὸς φίλος.

[ly̌ːpɛːs iaːtrósestin hokkr̥ɛːstós pʰílos]

 ――∪―|∪―∪―|――∪―

親切な友だちは悲しみの医者だ。

これとにたようなので、こういうのもある。

λύπης ἰατρός ἐστιν ἀνθρώποις λόγος.

[ly̌ːpɛːs iaːtrósestin antr̥ɔ̌ːpois lóɡos]

 ――∪―|∪―∪―|――∪―

人間にとってことばは悲しみの医者だ。

友だちが財産っていってるわけだけど、財産っていえば、こういうのもある。

σοφία δὲ πλούτου κτῆμα τιμιώτερον.

[sopʰíaː dé plǔːtuː ktɛ̂ːma tiːmiɔ̌ːteron]

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知恵は富よりも価値のある財産だ。

それとか、

μακάριος ὅστις οὐσίαν καὶ νοῦν ἔχει.

[makários hóstis uːsíaːŋ kǎi nûːn ékʰeː

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財産と分別があればひとはだれでもしあわせなものだ。

友だちと知恵のほかに、こういうのも財産だっていってる。

κάλλιστόν ἐστι κτῆμα παιδεία βροτοῖς.

[kállistónesti ktɛ̂ːma paiděːaː brotôis]

 ――∪―|――∪―|――∪―

人間にとって教育はもっともすばらしい財産だ。

その教育については、こういうこともいってる。

λιμὴν πέφυκε πᾶσι παιδεία βροτοῖς.

[limɛ̌ːm pépʰyːke pâːsi paiděːaː brotôis]

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すべての人間にとって教育は避難場所だ。

「避難場所」って訳した λιμήν [リメーン]は「港」っていう意味だけど、「港」が「避難場所」の意味でつかわれるのは英語の harbour とか haven とおんなじだ。

これとにたようなので、こういうのもある。

λιμὴν ἀτυχίας ἐστὶν ἀνθρώποις τέχνη.

[limɛ̌ːn atykʰíaːs estín antr̥ɔ̌ːpois tékɛː

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人間にとって学芸はわざわいからの避難場所だ。

ここの「避難場所」もまえとおんなじ「港」で、「学芸」って訳した τέχνη [テクネー]は「わざ、技術」っていう意味だけど、いまでいう芸術とか学問もふくんでることがおおいから、とりあえず「学芸」ってことにした。

避難場所も助けになってくれるものだけど、ほかに助けになるものとして、

σύμβουλος οὐδείς ἐστι βελτίων χρόνου.

[sýmbuːlos uːděːsesti beltǐːɔːŋ kónuː

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時間よりもすぐれた相談相手はいない。

ってこともいってるし、その時間については、

ἄγει δὲ πρὸς φῶς τὴν ἀλήθειαν χρόνος.

[áɡeː prós pʰɔ̂ːs tɛ̌ːn alɛ̌ːtʰeːaŋ kónos]

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時は真実をあかるみにだす。

ともいってる。

時がいやしてくれるにしても、真実をあばいてくれるにしても、時間がかかることもおおいけど、

ὀργὴ φιλούντων ὀλίγον ἰσχύει χρόνον.

[orɡɛ̌ː pʰilǔːntɔːn olíɡon iskʰy̌ːeː kónon]

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恋人どうしの怒りはみじかいあいだしかつづかない。

でも、恋人どうしはいいとして、そのさきのはなしとなると、

ὁ μὴ γαμῶν ἄνθρωπος οὐκ ἔχει κακά.

[homɛ̌ː ɡamɔ̂ːn ántɔːpos uːkékʰeː kaká]

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結婚しない男にわざわいはふりかからない。

なんてこともいってる。

人間にわざわいをもたらすものはいろいろあるけど、

ξίφος τιτρώσκει σῶμα, τὸν δὲ νοῦν λόγος.

[ksípos titrɔ̌ːskeː sɔ̂ːma|tón dé nûːl lóɡos]

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剣はからだを、ことばは精神を傷つける。

精神ときたから、たましいにもご登場ねがうとして、

ψυχῆς γὰρ οὐδέν ἐστι τιμιώτερον.

[psyːkʰɛ̂ːs ɡár uːdénesti tiːmiɔ̌ːteron]

 ――∪―|∪―∪―|∪―∪―

たましいより価値のあるものはない。

もともと喜劇のセリフの一部だから γάρ [ガル]なんていう接続詞がはいってて、これは「なぜなら」っていう意味で、まえの文章からつづいてるんだけど、ここではいちおうそのつながりは無視して訳した。

たましいがでてきたとこで、最後はまた神にもどって、

θεὸς συνεργὸς πάντα ποιεῖ ῥᾳδίως.

[tʰeós synerɡós pánta poijêː aːidíɔːs]

 ∪―∪―|――∪―|――∪―

神は協力者としてすべてを楽々となしとげる。

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2010.01.04 kakikomi; 2015.09.26 kakinaosi

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