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「神はつねに幾何学をしている」

「神はつねに幾何学をしている」っていうのはプラトーンのことばだっていわれてるけど、これについてプルータルコスの『倫理論集(モラリア)』(718B-C)にこんなことがかいてある。

 プラトーンが神はつねに幾何学をしていると言っているのはどういう意味か

 この後しばらく沈黙がつづいたが、またディオゲニアーノスがこう口火をきった、「プラトーンの誕生日にプラトーン自身に我々の議論の仲間になってもらうことにしようじゃないか。ちょうど話題が神々のことに及んだところだし、彼が神はつねに幾何学をしていると言っているのはどういうことなのか考えたりなどしてね。もっとも、この断言がほんとうにプラトーンの言葉だと決めていいならばだけど。」私が答えて、この言葉はプラトーンの著作のどこにも明記されているわけではないが、十分信頼していい理由があるし、いかにもプラトーンが言いそうな言葉であると言うと(…)
(プルタルコス『食卓歓談集』柳沼重剛編訳、岩波文庫。一部ことばと表記をかえた)

タイトルの部分もふくめて、ここには「神はつねに幾何学をしている」っていうのが2回でてくる。原文はどっちも間接話法になってるから、これを語順をかえないで直説法の主文のかたちになおすと、こうなる。

ὁ θεὸς ἀεὶ γεωμετρεῖ.

ἀεὶ γεωμετρεῖ ὁ θεός.

このふたつは語順がちがうだけだ。「神はつねに幾何学をしている」の原文としては、

ἀεὶ ὁ θεὸς γεωμετρεῖ.

っていうのもみかけるけど、これも語順がちがうだけで、おんなじことばがつかわれてる。

ほんとにプラトーンのことばなのか、もともと正確にどういう文章だったのか、なんてことは結局わかんないことかもしれない。だから、そのことはおいといて、はなしをさきにすすめよう。

このことばをもとにしたとおもわれる文章で、こういうのがある。

ἀεὶ ὁ θεὸς ὁ μέγας γεωμετρεῖ τὸ σύμπαν.

[aeː hotʰeós hoɡas ɡeɔːmetrêː tó sýmpan]

これは「神はつねに幾何学をしている」に ὁ μέγαςτὸ σύμπαν がつけくわえられてるだけだけど、ただの「神はつねに幾何学をしている」とちがって、語順はこのとおりじゃないといけない。円周率をおぼえるための文章だからだ。

円周率のおぼえかたとして、日本語なら「産医師異国に向かう…(3.14159265...)」みたいなゴロあわせがつかわれるけど、英語とかだとそういうわけにはいかないみたいで、Yes, I have a number. とか Yes, I know a number. みたいな文章でおぼえる。このそれぞれの単語の字かずをかぞえると、順に 3 1 4 1 6 だから、それで 3.1416 っていう円周率になる(最後の 6 は四捨五入した数)。日本語のゴロあわせだってそうだけど、これにはいろんな文章があって、ずいぶんながいのもある。

ギリシャ語のばあいもゴロあわせじゃなくて英語みたいなことになるんだけど、そのひとつが上にあげた文章で、単語の字かずを順にかぞえてくと、3 1 4 1 5 9 2 6 だから、これで 3.1415926 になる。ちゃんと幾何学に関係ある文章になってるとこも気がきいてる。

ことばの意味だけど、ὁ μέγας は「偉大な」で、こういうふうに形容詞が名詞のあとにくると定冠詞(ここでは )をくりかえすことがある。τὸ σύμπαν は「全体、万物、全宇宙」ってことで、これが動詞 γεωμετρεῖ (土地を測量する、幾何学をする)の対格の目的語だとすると、このばあいの動詞の意味は「はかる、測量する」ってことだから、「偉大な神はつねに万物を測量している」って意味になるけど、これだとちょっと幾何学からはなれちゃうかな。

おんなじ対格でも、目的語じゃなくて、「~の点において、~に関して」っていう意味の限定とか関係をあらわす対格ってかんがえるなら、「偉大な神はつね万物について幾何学をしている」「偉大な神はつねに全宇宙に幾何学を適用している」っていうようなことになる。

それから、こういう対格は副詞にもなるから、そう解釈すれば、「偉大な神はつねにあらゆる点で幾何学をしている」っていう意味にもなる。

プラトーン:プラトン。 ディオゲニアーノス:ディオゲニアノス。

2010.01.02 kakikomi; 2010.09.13 kakinaosi

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