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英語の複数形・三単現・所有格の「s」の発音
―― 無声音と有声音

クイズ番組で、松井秀喜選手が移籍した球団の名まえをこたえる問題があって、これを「エンゼル」ってこたえたために不正解になってた。たしかに日本じゃ「エンゼルス」っていってるわけだけど、ほんとは「ズ」なんだから、まちがいにしてなくてもよかったんじゃないのかな。日本のチームだったらそれが正式名だってことになるんだろうけど、アメリカのチームなんだから…。それとも日本での正式名?

それにしても、英語の複数形で、ほんとは「ズ」なのにカタカナでこういうふうに「ス」になってるのがけっこうある。スポーツ・チームでいえば「タイガース」「イーグルス」「スプリングス」「レッドウィングス」…。

もちろん「ビートルズ」みたいにちゃんと「ズ」になってるのもあるわけで、これもスポーツ・チームでいうと、「スワローズ」「ドラゴンズ」「ファイターズ」「ライオンズ」「マリーンズ」「アントラーズ」…。これをみると「ン」と「ー」のあとが「ズ」になってるようにもおもえるけど、「タイガース」っていうのがあるから、法則みたいなものはないのかもしれない。

こういうのとは逆に、デズモンド・モリス(羽田節子訳)『キャット・ウォッチング 2』(平凡社)には「タイクズ・アンド・マグズ(tikes and mogs)」っていうのがでてきて、tikes は「ス」のはずなのに「ズ」になってる。

そもそも、英語の複数形の -(e)s の発音にはみっつのばあいがある。これは動詞の3人称・単数・現在の -(e)s と所有格の -'s にもあてはまる。

  • /s, z, ʃ, ʒ, tʃ, dʒ/ のあとなら /ɪz/
  • /z, ʒ, dʒ/ 以外の有声音(有声子音か母音)のあとなら /z/
  • /s, ʃ, tʃ/ 以外の無声音(無声子音)のあとなら /s/

けっきょく動詞の過去・過去分詞の -ed の発音のパターンとおんなじことだ(マスク“ド”ライダー(仮面ライダー)―― 英語の過去・過去分詞」)。有声音のあとならおんなじ有声音の /z/ になるし、無声音のあとなら無声音の /s/ になる。それに、まえの音が /s, z/ とおんなじか だいたいおんなじような子音のときは、あいだに /ɪ/ がはいって、その /ɪ/ が有声音だから /z/ になる。ちなみに、この /ɪ/ の発音は日本語の「イ」より「エ」にちかい。

そういえば、ちょっと不規則な複数形として、-th /θ/ でおわってる名詞には、-ths の発音がそのまんま /θs/ になるののほかに、有声音の /ðz/ になるのがあるし、leaf の複数形 leaves なんていうのもある。それでも、これはもともとの子音が有声音にかわっただけのはなしで、有声音のあとの s が /z/ になるってことにかわりはない。

で、「エンゼルス(Angels)」と「イーグルス(Eagles)」は s のまえが有声音の /l/ だし、「タイガース(Tigers)」は s のまえが母音つまり有声音だし、「スプリングス(Springs)」と「レッドウィングス(Red Wings)」は s のまえが有声音の /ŋ/ だから、どれも s の発音は /z/ になる。

ところで、こういうはなしをしても、結局どの音が有声音でどの音が無声音かが問題になるかもしれない。「マスク“ド”ライダー(仮面ライダー)―― 英語の過去・過去分詞」をかいたときには これにはふれなかったけど、ここでちょっとそれについてもかいておくことにする。

かんたんにいえば、無声音は息だけの音で、有声音はそれに声がくわわったものだけど、たとえば、無声音の /s/ を発音すると、これは息だけの音だから、のどに手をあてても のどはふるえてない。でも、/z/ とか /m/ とかの有声音を発音して のどに手をあてれば、のどがふるえてるのがわかる。「ア」とかの母音を発音しても、のどがふるえてる。

英語にある音のうち、母音はぜんぶ有声音だからいいとして、子音で無声音つまり無声子音なのは /p, t, k, f, θ, s, ʃ, tʃ, h/ で、有声子音は /b, d, ɡ, v, ð, z, ʒ, dʒ, m, n, ŋ, l, r, j, w/ だ(/ts, dz/ は英語としてはそれぞれひとつの音じゃなくて、あくまで /t/+/s/、/d/+/z/)。ただし、/h, r, j, w/ は単語のおわりにあらわれることがないから、複数形とか過去形の発音をかんがえるのには関係ない。

これをもっとわかりやすくするとすれば、カタカナでもつかうしかないだろう。英語の発音をカタカナにうつしてかんがえてみると、ア・イ・ウ・エ・オになるものは母音だから有声音。それ以外のカナは子音+母音だけど、この目的のためにはカナの子音のことだけかんがえる。

カ行以下のカナはまずはふたつにわけられる。濁点がつけられるか つけられないかだ。つけられるカナはカ行・サ行・タ行・ハ行で、つけられないのはナ行・マ行・ヤ行・ラ行・ワ行とンだ。それから、つけられるカナは、濁点がついてるばあいとそうじゃないばあいにわけられる。半濁点は濁点じゃないから、濁点がつかないほうにいれる。そうすると、濁点がついてるのはガ行・ザ行・ダ行・バ行で、ついてないのはカ行・サ行・タ行・ハ行・パ行ってことになる。

それと、シャ・シュ・シェ・ショはサ行に、チャ・チュ・チェ・チョはタ行に、ジャ・ジュ・ジェ・ジョはザ行に、ファ・フィ・フェ・フォはハ行にいれることにする。ヂャ・ヂュ・ヂェ・ヂョはとりあえずつかわれないとおもうから かんがえなくていいだろうけど、これをダ行にいれてかんがえても結果はおんなじことだ。

で、このみっつのグループの英語の子音を無声音と有声音にわけると、

  • 濁点がつけられるカナで濁点がついてないもの(カ行・サ行・タ行・ハ行・パ行)は無声音
  • 濁点がつけられるカナで濁点がついてるもの(ガ行・ザ行・ダ行・バ行)は有声音
  • 濁点がつけられないもの(ナ行・マ行・ヤ行・ラ行・ワ行・ン)は有声音

っていうふうにまとめられる。これはさらに、ひとつめの「濁点がつけられるカナで濁点がついてないもの(カ行・サ行・タ行・ハ行・パ行)」が無声音で、それ以外は、ア行もふくめてぜんぶ有声音っていうふうにまとめることもできる。

とりあえずこれでなんとかなるとおもうけど、もうちょっとくわしくいうと、英語の発音としてはサ行には thank you [サンキュー]の「サ」の子音 /θ/ もふくめてかんがえる。ザ行もおんなじことで、the [ザ]の子音 /ð/ もふくめる。それから、バ行には /v/ をふくめてもいいし、「ヴ」をつかってかんがえてもいい。「ヴ」には濁点がついてるから、結果はバ行とおんなじことで、有声音になる。ラ行には /l/ と /r/ のばあいがあるけど、どっちも有声音だってことにかわりはない。ng の /ŋ/ は「ング」ってかくから、「グ」からかんがえて有声音になる(「ン」でかんがえてもいいけど)。

ただし、これは無声音か有声音かを区別するためのもので、複数形とかの語尾の発音となると、/s/ と /θ/、/z/ と /ð/ の区別はしなきゃいけない。でも、この区別はカタカナじゃどうしょもないから、これについては英語のつづりをみてどっちなんだか判断してもらうしかない。

で、カタカナを手がかりにして実際に -(e)s の発音をかんがえてみると、Angels、Eagles の「エンゼル」「イーグル」の「ル」は濁点がつけられないカナだから有声子音だ。だから、そのあとの s も有声音の「ズ」になる。Tigers の「タイガー」は「ー」でおわってて、これはつまり母音でおわってるってことだから、母音は有声音で、そのあとの s は「ズ」になる。Springs、Wings の「スプリング」「ウィング」の「グ」は濁点がついてるから有声音で、そのあとの s は「ズ」になる。

それにしても、なんかフクザツな感じがするかもしれない。パターンとしては、「ス」になるほうがすくないから、「エズ」になるばあいと「ス」になるばあいだけおぼえればいいともいえる。それと、/t/ と /d/ のあとはちょっと注意が必要かもしれない。そうすると、

  • 「ス/s/、ズ/z/、シュ(シ)/ʃ/、ジュ(ジ)/ʒ, dʒ/、チュ(チ)/tʃ/」のあとなら「エズ/ɪz/」
  • 「ク/k/、ス/θ/(th)、フ/f/、プ/p/」のあとなら「ス/s/」
  • 「ト/t/」のあとなら /t/ といっしょになって「ツ/ts/」、「ド/d/」のあとなら /d/ といっしょになって「ズ/dz/」
  • それ以外は「ズ/z/」

っていうふうにまとめられるだろう。具体的にまとめてるから、それほど簡潔にはなってないけど。

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 ・マスク“ド”ライダー(仮面ライダー)―― 英語の過去・過去分詞

2010.03.12 kakikomi; 2011.08.07 kakinaosi

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